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一般チャットで行われた実際の「オンライン☆わたてにんぐ劇場」のチャットログはこちらから。
スクリーンショットは星野ひなたさんと暁美ほむらさんがご提供くださいましたので、チャット内容や環境設定は彼女たち基準となります。
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イベント開始前、集合~会場移動時の様子
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「わたてん☆にゃんころじー」 01 チャットログ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「わたてん☆にゃんころじー」 02 チャットログ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「わたてん☆にゃんころじー」 03前半 チャットログ ~ フォースさん落ちにより中断。
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【小噺】アイスクリームと日本刀のお話
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「わたてん☆にゃんころじー」 03後半 チャットログ ~ フォースさん復帰。
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「わたてん☆にゃんころじー」 04 チャットログ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「わたてん☆にゃんころじー」 05 チャットログ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「わたてん☆にゃんころじー」 おまけ~ご感想 チャットログ
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ヴァラカスサーバのわたてんイルミネーションアートについてのお話
このところ恒例となってきておりますが、同盟員だけでなく「天使たちのお友だち」を主な対象とした即興劇を、人数制限のない一般チャット(白チャット)にて実施してくださいました。
今回は姫坂乃愛さんがお友だちのわためさんより「こねこを拾うお話を見てみたい」とリクエストいただいたとのことで、暁美ほむらさんがふさわしい場所として選定したのが「猛獣の放牧地」でした。
ただ、猛獣の放牧地には一部アクティブモンスターがいる為そこが懸念点でしたが、当日ユニコーンを召喚した状態のわためさんが天使たちをアクティブモンスターから護ってくださいましたので
安全な形で公演を進めることができました。わためさん、いつも天使たちの為にありがとうございます。
また今回も天使たちの裏方のやり取りとなる血盟チャット(および同盟チャット)を公開していただけましたので、天使たちの微笑ましい舞台裏も含めてお楽しみください。
上記のチャットログはひなたさん視点の同盟チャット+血盟チャット+一般チャット混在となっております。
また、後ほど「保護者様たちのハイライト」として暁美ほむらさんご提供のパーティーチャットも載せてみたいと思います。
主な観客はエプイさん、わためさん、ハーブ・フォースさん、暁美ほむらさん、グレン・ラガンさん。そして、ヴァラカスサーバから遥々お越しくださいましたイルミネーションアーティストのまいちゃんさんでした。
■記載ルール■
メイン記述者(進行者。今回は白咲花さん、小之森夏音さん)が直接一般チャットに地の文を書き、他登場人物は「」で囲む形でセリフを書くことで物語を紡いでいきます。
今回は一部原稿を用意したとのことですが、ほぼ彼女たちのアドリブで構成されています。
☆☆☆☆☆ イントロダクション ☆☆☆☆☆
── リンドビオルサーバのとある同盟では ──
── 気ままに天使たちが舞い降りては 一遍の物語を協力して紡ぎ 人知れず飛び去っていく──
── という噂がまことしやかに囁かれています ──
こちらの記事は「エンジェリック・ミスリル・ハーツ・フェデレーション」内「天使が舞い降りた」同盟において
天使たちの紡いだ物語を一般公開できる形で記録に残そうと考えまとめたものとなります。(天使たちの公開許可はいただいております)
「私に天使が舞い降りた!(わたてん!)」という作品世界から、こちらの世界に飛ばされてしまった天使たち。
戻る術が見つからない日々の中、お友だちの代理露店をこなしながら元気に楽しげに生活されています。
時折、突発的に始まるリアルタイムでの「物語の編纂(即興劇)」というお遊戯は、その完成度の高さ、内容の睦まじさにより
見る人に癒しと潤いを与えてくれるものとなっており、まさに【天使】のような存在となっています。
今回のメイン記述者は「白咲花」さん、「小之森夏音」さん。
主なキャストは「星野ひなた」さん、「姫坂乃愛」さん、「種村小依」さん、「星野みやこ」さん、「DOSANの娘」でした。
※娘は「こねこ役」という、右脳言語の使い手としては打ってつけ(?)のキャスティングであり、任命は姫坂乃愛さんでした。うちの娘も加えてくださってありがとうございました。
私に天使が舞い降りた! 公式サイト
より、プロフィール画像はこちらになります。(コンパクトにまとめました)
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── わたてん☆にゃんころじー ──
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■作品イメージタグ■
#私に天使が舞い降りた! #わたてん! #白咲花 #小之森夏音 #星野ひなた #姫坂乃愛 #星野みやこ #種村小依 #花みや #ひなノア #よりかの #リクエスト
■作品文体■
一人称小説
■お題■
「いちゃつき」
「てしてし」
「栄養」
※オンラインでのわたてにんぐ劇場では、白咲花さんがメイン記述者に「3つのお題」を開始直前に出されます。
メイン記述者もしくは参加者はランダムで出されるその「お題」を地の文やセリフのどこかに取り入れてお話をリアルタイムで紡ぎます。開始直前に発表される為、事前に考えておくことができません。
今回は白咲花さんがメイン記述者でしたが、これまでの慣例ということもありお題を考えてきてくださいました。
事前にお題を出され、じっくり考えた場合でもランダムキーワードを取り入れて物語を紡ぐことはかなりの高等技術ですが、毎回みなさんすんなりとオンラインリアルタイムでこなされているので驚愕しております。
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── 「わたてん☆にゃんころじー」 ──
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01
「よーし! 今日もよりみちするぞー!」
「もー、ヒナタちゃーん。待ってよー☆」
「ちょっと二人とも、周りちゃんと見て。危ないよ」
今日は金曜日。明日はお休みだから、なんとなく気分が軽い。
そして今はいつもの下校時間。私たちはクラブ活動もしていないし、委員会にも入っていないから、学校が終わればそのまま下校する日々を送っている。
もっとも、そのまま家に帰ることはあんまりなくて、ひなたの家に──お姉さんのいる家に──寄ってお菓子を食べるのが日課になりつつある。撮影とかもされるけど、それはただのおまけ。あぁ、今日のお菓子はなんだろう。自然と胸がはずんでしまう。
今日もそんな感じでひなたの家に三人で移動していたんだけど、今日はちょっとお姉さんの帰りが遅いみたいで寄り道をしていこうってことになった。私たちからすればひなたの家に行くのも寄り道だから、寄り道前の寄り道みたいな、なんだか不思議な感覚。
「ここに来るのも慣れてきたな!」
「うんうんー。あの小さい穴通らなくても来られる道見つけられてよかったねぇ」
「本当だよ。あの穴通る時毎回スカートの中見えちゃうし。あ おばさん、これとこれとこれください」
そう、ここは学校からすぐ近くにある駄菓子屋さん。方向が帰り道と逆だから、お店があること自体知ったのもつい最近。前にひなたと放課後に遊んでいるときに猫をみつけて、それをひなたが追いかけていったらこの駄菓子屋さんを見つけたんだ。
「んぐんぐ・・・ そういえばあの時の猫、結局見つからなかったね」
「そうだなー。でも、おかげでこの店見つけられたからな!」
「アタシ、そのときママたちとおでかけでいなかったからなー。いいなーハナちゃんたち放課後デートしてたんだー」
ノアがなんとなくじっとりした目で私の方を見てくる。なに・・・なんなの・・・?
まぁ、それは軽く受け流して、両手で抱えられる量の駄菓子をベンチまで運んでひとつずつ食べてみる。30円くらいのお菓子だから味はそこそこなんだけど、このチープさがいいというか・・・これはこれでおいしい。
「はな、よく食べるなー。今日これからみゃー姉のお菓子も食べるんだろ?」
「んん・・・。もひほん。ほっひがほんめひらひ、ほへはへんはいひはいなほほはお」
「ハナちゃん落ち着いて? そのフガシ飲み込んでからもう一度どうぞ☆」
「んくんく・・・。もちろん。そっちが本命だし、これは前菜みたいなものだよ」
「ホントにリピートした!? でもこの量で前菜って・・・」
心なしかノアがドン引きしてるように見える。このくらい普通でしょ。
私は腕くらいの大きさのあるフガシを食べ終わって、飲み物が欲しくなってぶどう色のチューブに入った謎のゼリー状の液体を口に含む。うん。ぬるいけどこれはこれで。
駄菓子を堪能していた、そんな時だった。
何か白いものが視界の端をよぎったような気がして、そっちに振り向いてみる。
「ん? ね、ねこ・・・!」
「お? おおー! あの白い猫、この間のじゃないか?」
「へぇー。あの子を追いかけてここ見つけたってことかー。飼い猫みたいだけど・・・あれ?」
私は小さい動物が苦手。こいぬもこねこも、次に何をするか分からないところが恐ろしい。噛まれたら死ぬし。
ひなたたちは怖くないみたい。私はひなたたちの陰に隠れるように身を小さくして、こねこを覗きこんでみる。
あれ・・・?
よく見ると、そのこねこはぐったりしているようだった。怪我とかはしていないようだけど、衰弱しているように見える。
「にゃー にゃあぁぁ・・・」
「おー? どうしたー?」
「ヒナタちゃん、弱ってるんだからツンツンしたらダメだよ。というか素手で触っちゃダメ」
「おお、ごめんなー」
「んなぁー・・・」
「こういうときは、タオルで包んであげて、っと・・・。うん。こんな感じで」
「のあ、詳しいなー!」
「でっしょー! ママからこういうときのことは一通り教わってるんだー☆」
ぐったりして動かなくなったこねこを突っついているひなたをたしなめるノア。手際良くランドセルからハンドタオルを取りだすと、手際良くこねこを包んで持ち運べるようにしていた。
え・・・? それ、どうするの・・・?
「ね、ねぇ。二人とも、それどうするの?」
「とりあえず、ミャーさんとこまで運ぼう。このまま放っておくと危ないと思うのアタシ」
「お、いいぞー!」
「うなぁぁ・・・」
「えぇ・・・。野良ネコって、そういうのしちゃダメなんじゃ・・・」
「この子、飼い猫みたいだよー? ホラ、首輪ついてるし」
「あ、本当だ。この間はそういうのついてなくて野良だったのに」
「そうだな! じゃあ、ゆっくり運ぶぞ!」
「にゃ にゃー・・・」
ひなたが両手でこねこを包むようにして、大事そうに運び始める。ノアもその隣でこねこを見つめながら並んで歩いていく。
私は本当にそれでいいのか悩みながら、ランドセルに残りの駄菓子を入れこんで二人の後について歩く。
「飼い猫だったら、近所に飼い主さんいるんじゃない? 首輪に名前とか住所とかないの?」
「ないみたいなの。この子、飼い主さんのところから逃げ出して、そのまま帰り方分からなくなっちゃったんじゃないかなって」
「さっきからぜんぜん動かないぞ。なんだか心配だな」
「みゅー・・・」
「ネコって、一度飼いネコになると野良ネコに戻れないんだって。キャットフードみたいに安全でおいしいものもお外にはないし、何も食べられなくてこうして弱っちゃうんだって」
「そうなんだ・・・」
一度飼われると、もう自然には帰れなくなる。そんなことがあるんだ。この子、元々野良猫だから、元に戻るだけだと思うんだけど・・・。
でも、私もお姉さんと出会って・・・ううん。お姉さんのお菓子に出会って、もうお姉さんのお菓子がないと生きていけない体になっちゃったから、この子の気持ちも分かる気がした。
今の私は、きっとどんなにおいしいお菓子を食べても、お姉さんの作る同じお菓子が頭をよぎるだろうな。
お姉さんに飼われてる私を想像してみる。ある日ケンカして、そのまま飛び出して、帰り道も分からなくなって、お姉さんのおいしいお菓子を夢見ながら、何も食べられず衰弱していく・・・。
そう考えたら、この白いこねこがかわいそうになってきた。逃げ出さなければよかったんだろうけど、そんなこと分からなかったよね。
「・・・・・・」
「にゃー・・・」
「ハナちゃん!? ダイジョウブなの?」
「はなも触れたんだな。かわいいよなー」
思わず、タオルから出ているこねこの頭をなでちゃった。なでごこちはとてもよくて、きれいにしてブラッシングしたらもっとよくなりそう。
飼い猫だし、手入れしてもらってたんだろうな・・・。
私たちはそのままお姉さんの家まで直行して、お姉さんにどうするかを相談することにした。
02
「動物病院に連れて行かないとダメだよ? この時間だともう診察終わってるから仕方ないけど・・・」
お姉さんの家について、こねこを見せながら事情を伝えた私たちは、お姉さんに開口一番そう言われてしまった。
「うぅ、ごめんなさい、みゃー姉・・・」
「ごめんね、ミャーさん。アタシもそこまで考えられなくて・・・」
言われてみれば確かにそうだ。弱ってるこねこを連れて帰っても、お姉さんが対処できるとは限らないし。それに、命がかかってることだから、「かわいそう」というだけで連れて帰ってきた私たちが怒られるのはある意味当然だと思う。あの場にいた私もそこまで気づかなかったし、私もごめんなさいしないと。
「・・・お姉さん、ごめんなさい」
「花ちゃん・・・。花ちゃんは、そもそも子猫とか苦手でしょう? 連れ帰るのに反対しなかったんだね」
「はい・・・。なんだか、かわいそうになってしまって」
「そっかぁ・・・」
お姉さんはそれだけ言うと、ひなた、ノア、私の順で頭をなでてくれた。
まゆの下がった、困ったような顔をしているけど、口元は笑顔のお姉さん。こういう時のお姉さんは、なんだかんだでうまく対処してくれることが多い。
「この子を見捨てられなかったんだよね。みんなの気持ちも分かるから、あとは私に任せていいよ」
「お姉さん・・・!」
「みゃー姉!」
「ミャーさん!」
みんなで一斉にお姉さんに抱きついて、ちょっとわたわたしてるお姉さんもかわいい。ふふ。
でも、これで一安心だよね。なんだかんだ言って、お姉さんに任せられるとなると安心感がすごい。
「よーし、じゃあさっそくみゃー姉のお菓子を食べさせるぞ!」
「待ってヒナタちゃん。それはダメなんだよー」
「そうなのか!?」
「そうだよーひなた。人が食べられるものをすべて食べられる訳じゃないの。それに、今は弱ってるから・・・」
お姉さんは立ち上がりながら、冷蔵庫からスポーツドリンクを取りだす。そして、それを小さなコップに入れると、ポットのお水を混ぜ始めた。
私たちはお姉さんのすることを興味津々でじっと見つめる。なんで水道水じゃなくてポットのお水なの? というか、薄めちゃっていいの?
「・・・あんまり冷たすぎてもお腹壊すでしょ? それに、カルキとか飛ばして冷ましたお水のほうがいいと思ってね。濃すぎるのもよくないから、ちょっとだけ甘みを感じるくらいに薄めるといいの」
なるほど。お姉さんにしてはめずらしく、いろいろ考えてるみたい。
いつものお菓子作りの時と同じくらいの手際の良さで、ぱっぱっと準備をしていくお姉さん。
おっと危ない。うっかり見惚れるところだった。
「あとはこうして・・・。怖くないよー ゆっくり飲むんだよー」
「にゃぁ・・・ ぺろぺろ」
お姉さんはこねこを左手で抱えると、右手にストローとコップを持って椅子に座る。ストローの穴を閉じたり開いたりして、器用にこねこに水分補給をしていく。
「本当はスポイトとかあるといいんだけど、急には用意できないから・・・。ストローでね」
「なるほどー。ミャーさんやっぱりすごいネ。おまかせできてよかったー☆」
「さすがみゃー姉!」
「なかなかやりますね」
「ハナちゃん、なんで上からなの?」
「いいでしょ、別に・・・」
だって、「すごーい! みやこお姉ちゃんかっこいい!」なんて言ったら、お姉さん手元があやしくなってこねこ落とすかもしれないでしょ。
このくらいがちょうどいいの。白咲花はこのくらいの距離感じゃないとね。今はお姉さんのこと、なでてあげたいくらいすごいと思ってるけど。
「にゃー・・・ けぷっ ゴロゴロ・・・」
「・・・このくらいでいいかな。あとはしっかり寝かせないとね」
「そうだな。ハンバーグもこねたあと、寝かせるとおいしくなるしな!」
「ヒナタちゃん、この子食べないでね?」
「お? おー」
満足したのか、こねこはお姉さんの腕の中で気持ち良さそうに目を閉じて大人しくなった。
お姉さんはリビングのクッションを使って、こねこのベッドを即席で作る。本当、器用だなぁお姉さん・・・。
こねこを寝かせて手のあいたお姉さんは、時計を見るとキッチンへ入っていった。
「もうお夕飯の時間が近いから、ちょっとしか食べさせられないけど・・・。みんなのお菓子作っておいたからどうぞ」
「お姉さんのお菓子! いただきます!」
「おおー、はな、そこそこにしておくんだぞー。またみゃー姉が3時間吊るされちゃうぞ」
「えぇ・・・。またって、そんなことあったの? ミャーさんそんなシュミあったんだー」
「普通におしおきされただけだって。ほら、みんな食べちゃって。まぁ、今日はお母さん泊まり込みでお仕事だって言ってたから帰ってこないけど」
ノアはそういえば知らないんだった。前に私がお夕飯前にお菓子を食べすぎて、お夕飯をほとんど食べられないことがあった。お菓子を食べすぎたのは私なのに、お姉さんがこってり怒られていたっけ。
その時のことを思い出して、ぐっとこらえてお姉さんの出してくれたクッキーを三枚だけ取って、大事に一枚ずつ口に運んだ。
「おいしい・・・!」
「よかった。花ちゃんに喜んでもらえて」
「いつもおいしいですけど、今日のはもっとおいしい気がします」
「そりゃーハナちゃんのことを想って作ってるからでしょー。ハナちゃんカホーモノだね☆」
「のあ、はなはアホ者じゃないぞ!」
「ヒナタちゃん!?」
「こらひなた。果報者っていうのは幸せ者って意味なの。ノアちゃんごめんねぇ」
「そうなのか! うぅ、ごめんなのあー」
「う、ううん。ダイジョウブだよーヒナタちゃん」
涙を浮かべているノアを、ひなたがよしよしとあやしている。そんないつものひなたたちのいちゃつきを横目で見ながら、私もついついお姉さんの様子を見てしまう。
お姉さんはこねこの様子を気にしながら、クッキーを食べている私のことを嬉しそうに見つめている。別にお姉さんに見られるのは慣れてるからいいけど・・・。私がお菓子食べてるところなんて見てて楽しいのかな?
やっぱりお姉さんは謎が多い。特に私関連のことで。
「・・・そろそろ時間遅いから、うちに帰らないと。こねこ、心配ですけど・・・」
「それなら、はな。うちに泊まるか?」
「え・・・? でもこんな急に大丈夫なの?」
「ああ、今日はお母さん帰ってこないから、お夕飯私が作ることになってるんだ。これから作るから、よかったら泊まっていく?」
「わー いいなー! アタシもお泊りしたーい!」
「でも、パジャマとか下着とか、一度取りに戻らないと」
「大丈夫。花ちゃんのは一式私が作っていつでも使えるようにしてあるから!」
「なに作ってるんですか・・・。でも、じゃあすみません。お借りしますね」
「ミャーさん、またハナちゃんのママに電話してジジョーを伝えてあげて☆ ヒナタちゃん、アタシもパジャマとか取ってくるネ」
「おう!」
なんでお姉さんはいつもいつも・・・。いいタイミングで恥ずかしくなるサポートをさらっとできるんだろう。私の身につける服一式すべて、お姉さんが作ってるなんて・・・。下着とかなんて、それこそ既製品でもいいと思うのに。
まったくお姉さんは・・・。気持ちは嬉しいけど、恥ずかしいからやめてほしい。
なんで私だけいつもこんなに、お姉さんに大事にされてるんだろう。お姉さんと出会ってもう1年以上になるけど、やっぱりお姉さんは謎の存在だ。
なんて考えていたらもうノアが戻ってきた。手慣れているというか、近いとはいえすごいな・・・。
「ただいまー☆」
「のあ、おかえり!」
「にゅふふーん。ヒナタちゃん、そこは「ごはんにする? おふろにする? それともわ・た・し?」って聞くところだよー」
「お? おー、そうなのか。じゃあ・・・」
「・・・ひなた?」
「ご飯食べながらみんなでお風呂入るぞ!」
「!?」
「こらひなた。そんなことできるわけないでしょ。ご飯作っておくから、みんなでお風呂入っておいで」
「えへへ・・・。のあ、はな、いくぞー!」
まったくノアは・・・。昭和のドラマの見過ぎだと思う。ここはひとこと言っておかないとね。
「まったく。ノアもひなたに変なこと教えないで」
「カワイイヒナタちゃん見たくて。ごめんネ☆」
「ひなたは私の妹になるかもしれないんだから」
「えっ!? ハナちゃんそれって!?」
「どういうことだ!?」
しまった。余計なことまで言っちゃった。
「・・・ノーコメントで。ほらみんな、お風呂済ませちゃおう」
「えー、ハナちゃーんちょっとー」
「はなは隠し姉だった・・・?」
「ヒナタちゃん、たぶん違うよ?」
その後、お風呂の中でずーっと問い詰められたのは言うまでもない。
はぁ・・・、失敗しちゃった・・・。これもぜんぶお姉さんのせいです。
03
翌朝。まぶしい朝日で目が覚める。
私たちはひなたの部屋に泊めさせてもらった。ノアがめずらしくホラー映画観たいって言わなかったから普通に寝られたんだけどね。
やめておけばいいのに、今回もノアはひなたと同じベッドで寝たみたい。ノアの様子を見てみると、ノア自身がホラー映画の犠牲者みたいな顔をしていた。ご愁傷様。
どうしてそこまでしてひなたと一緒に寝たいんだろう。私には分からないけど・・・。でも、ホラー映画を観た後は私もお姉さんと一緒に寝たいって思うから、それと同じなのかな。
お姉さんかぁ・・・。
「・・・お姉さん、起こしにいかないと」
どうせお姉さんはまた夜更かしをして、いかがわしい私たちの衣装を作ってたんだろうから、ベッドでぐっすりのはず。ひなたのお母さんはいないみたいだから朝ごはん作ったりしてもらわないと。
ひなたの部屋を出て、お姉さんの部屋の前に立つ。ドアを軽くノックしてから中に入ってみる。
「・・・お姉さん。おはようございます」
言ってから気づいたけど、ベッドの中にお姉さんはいなかった。
もちろん、ミシンの置かれている机の椅子にも座っていないし、大きなクッションの上で寝そべってもいなかった。
「あれ・・・? お姉さんがこんな朝早くに部屋にいないなんて」
お手洗いにでも行ってるのかな? そう考えて部屋を出てみると、一階の方からこねこの鳴き声とお姉さんの声が聞こえてきた。
「にゃーっ にゃああぁぁ」
「よしよし。これでいいかな。ほら、あーん」
「にゃっ」
リビングに降りてみると、昨日と同じようにお姉さんがこねこを左腕に抱えながら、なにか黄色っぽいものをスプーンで少しずつ食べさせようとしていた。
朝日の充満するリビングで、後光が差しているように見えるお姉さん。なんだろう。お姉さんなのに、ちょっと神秘的な感じがする。
「・・・おはようございます」
「あ、花ちゃんおはよう。よく眠れた?」
「はい。昨日はホラー映画もなかったですし、ノアが降ってくることもなかったので。お姉さんこそ寝られたんですか? こんな時間に起きてるなんて徹夜ですか?」
「ちゃんと寝たよ? この子のお世話しないといけなかったからね。みんなが寝た後にもう一度水分与えて、元気になってきたから普通のえさを与えてみているんだ」
「・・・そうだったんですか」
私たちが寝た後ってことは、夜の十時以降かな。今は7時くらいだから、ご飯作ってたりしてたらお姉さんあんまり寝られてないよね。
私たちが持ち帰った子なのに、本当にお姉さんにまかせっきりになっちゃったな。
「・・・おいしそうに食べてますね。この黄色いのなんですか?」
「これは人参とかぼちゃをゆでて、ペースト状にしたものだよ。かぼちゃの皮は外して実のところだけね。カロリー高すぎるから普通はあまり与えないみたいだけど、弱ってるときだからね」
そういえば、昨日は急だったからキャットフードも用意できなかったんだ。お姉さん料理も得意だから何とかしてくれるって簡単に考えていたけど、もしかしたら大変なことをお願いしちゃったのかも。
でも、こねこっていえばミルクを与えるイメージがある。そっちのほうがいいんじゃないのかな。
「んー。花ちゃん、この子は小さいけど、もう大人の猫なんだよ。だから、本当はえさも1日2回でいいし、固形物だけで大丈夫なの」
「ずっとこねこだと思ってました。そうだったんですね」
「それに、ほら。男の子だよ」
「そうなんですか?」
お姉さんはえさを与えながら、こねこのタオルを外してこっちに寄せてくる。
本当だ・・・。じゃなくって!
「────────! お、お姉さん。こねこで遊ばないでください」
「あはは・・・。ごめんね花ちゃん。この子落ち着いたら、花ちゃんたちの朝ごはんも作るからね」
「にゃー けぷっ ぺろぺろ」
「うん。体温もちゃんとあるし、食欲もあるみたい。元気になってよかった」
こねこの世話をしているお姉さんは、いつものお姉さんとぜんぜん違って頼もしく見える。こねこもお姉さんにご飯を食べさせてもらって、なでてもらって、うっとりしている。
いいな・・・。
「・・・・・・・・・」
なんだろう、この気持ち。
昨日からちょっとだけ感じていたことだけど、いつもみたいにお姉さんが私にすり寄ってこないから楽でいいなって思ってた。
でも、なんだかそれだけじゃないような・・・。
よく分からないこの気持ち。お姉さんを見てるとこういう気持ちになる。
やっぱり、ぜんぶお姉さんのせいですね。
「・・・花ちゃん?」
「お姉さん。朝ごはんはアップルパイがいいです」
「うん、分かった。焼き立てパンにリンゴジャムつけてあげるね」
「アップルパイ・・・ でも、それもおいしそうですね。ジャム多めでお願いします」
お姉さんはこねこのお包みタオルを新しいものに替えて、定位置に寝かせる。元気になったとはいっても、まだ完全じゃないみたい。
そのままキッチンのほうに行ってしまうお姉さん。手をしっかり洗って朝ごはんの準備を始めてくれたみたい。
「・・・こねこ」
「んなぁー・・・」
「大きなあくびしちゃって。早くよくなってね。お姉さんの為にも」
「にゃー? みゅー・・・」
「そうだ。飼い主さんも探さないとな・・・」
「あ、花ちゃーん」
「はい」
こねこの頭を、ちょっとだけなでていたとき。お姉さんから声をかけられた。何かお手伝いかな?
「ひなたとノアちゃん、起こしてきてもらえる?」
「分かりました」
やっぱり料理のお手伝いじゃないよね。分かってたけど。
二階のひなたの部屋に行ってみると、さっきとは状況が変わってひなたの上にノアが乗っかるようにして二人でベッドに横になっていた。
「二人とも、おはよう」
「は、はなー・・・。のあが起きないんだけど乗っかってくるんだ」
「にゅふふ、ヒナタちゃーん・・・」
はぁ・・・。ノアが寝たフリをしてひなたに絡んでるみたい。
首が折れてなくてほっとしたけど。まったく・・・。
「・・・ひなた。お姉さんが朝ごはんできたって。下に行くよ」
「みゃー姉のご飯か! よーし!」
「きゃっ きゃーっ!」
ベッドの反動を使ってひなたが器用にノアを天井の方までふんわり放り投げると、立ち上がったひなたがそのままお姫様だっこでノアを受け止めていた。
朝から元気だな・・・。
「ヒ、ヒナタ、ちゃん・・・」
「お、のあ。起きたか! おはよう!」
「オ、オハヨー・・・えへへ」
ノアはお姫様だっこされながらひなたの首元にぎゅっと抱きついてほっぺた同士をくっつけている。怖かったのかな。
ううん、きっと違う。いちゃついてるだけかも。
「ひなた、そのまま階段降りると危ないから、ノア下ろして。ほら行くよ」
「お? おー。のあ立てるか? よし、いくぞ」
「う、うん・・・」
ひなたがノアの手を引いて階段を駆け下りていく。ノアも引っ張られながら転ばないように階段を下りていく。私はそんな二人の後に、ゆっくりと階段を下りていって。
いつも通りの、お姉さんのおうちでの朝がはじまった。
04
「ごちそうさまでした」
「おいしかったねー。ごちそうさまー☆」
「さすがみゃー姉! ごちさそうさま!」
「はーい。おそまつさまでした」
お姉さんと一緒に朝ごはんをいただいて、お腹いっぱいの私たち。今日の朝ごはんはみんなパンだったけど、それぞれトーストの上に乗っているものが違っていた。
私のはリクエスト通りたっぷりのリンゴジャムで、甘酸っぱくてパンもサクサクで、とってもおいしかった。
ノアのはレタスやきゅうりの上にロースハムが乗っているサンドイッチのようなもので、見るからに体にもよさそうなものだった。
ひなたとお姉さんはベーコンエッグの乗ったトーストだった。ひなたは確かに朝から走りまわるような子だから、すぐエネルギーになるものがいいんだろうな。
それぞれに体のあたたまるコンソメスープに、小皿のサラダ。私のサラダにはノアと同じロースハムが入っていて、栄養のバランスもとてもいいように見えた。
「お、お姉さん・・・」
「んー? なぁに? 花ちゃん」
「その・・・。いつもすごいですね。お姉さんのご飯」
「えへへ・・・。ありがとう、花ちゃん」
「いつも、その。ありがとう、ございます。私たちのこと考えたメニューにしてくれて」
「みんな育ちざかりだからね。バランスは大事にしてるんだー」
ちょっと花ちゃんは糖質が多いけどね。なんて言いながら、お姉さんはやさしい笑顔で私のことを軽くなでてくれた。
昨日からのこねこの顔を思い出す。頭をなでられて、気持ちよさそうな顔をしていたっけ。
きっと今の私もおんなじ顔をしているはず。恥ずかしいけど、でもお姉さんになでてもらうのは嬉しいし、気持ちいい。
「うなぁー にゃーうぅ」
「お、どうしたー よーしよしよし」
「にゃっ にゃうにゃう~」
「ヒ、ヒナタちゃん・・・。この子とアタシ、どっちがカワイイ・・・?」
「お? なに言ってるんだのあ。のあと猫は比べられないぞ?」
「だ、だよねぇ・・・。アハハ・・・」
「猫はすごくかわいいぞ!」
「うんうん・・・」
「そんで、のあは世界一かわいいぞ!」
「・・・! ヒナタちゃーん☆」
「にゃーん」
リンゴジャムのパンでお腹いっぱいの私は、さらに甘いひなたとノアのいちゃつきにちょっとため息をつく。
そういえば、この子の飼い主を探さないといけないんだった。
「ねぇ、ひなた、ノア。この子の飼い主を探しに行かない?」
「そうだなー。元気になってきたみたいだし、早めに返したほうがいいな」
「そうだねぇ。じゃあ、昨日この子を見つけた駄菓子屋さんのまわりで聞いてみる?」
「そうしようか。駄菓子屋さんの周りってことしか手がかりないし・・・」
私はこねこの写真をスマホで撮ると、出かける準備をする。聞いて回るときに、写真を見せながらのほうが飼い主が見つかる可能性高いよね。
「二人とも出かける準備して」
「おう!」
「はーい☆」
「あと、お姉さん。こねこのこと、よろしくお願いします」
「うん、まかせて。花ちゃんたちも車に気をつけてね」
「はい。ひなたたちの面倒は私が見ます」
お姉さんは嬉しそうな顔で私のことをもうひとなですると、準備の済んだ私たち三人と一緒に玄関まで移動して、お見送りをしてくれた。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「いってきます」
「いってきまーす☆」
「みゃー姉、いってきます!」
駄菓子屋さんはひなたの家から、小学校を過ぎた先のところにある。歩いて15分くらいだけど、それでもおしゃべりがやむことはない。
「ねぇねぇ。あの子、どうして逃げだしてきちゃったんだろうね?」
「そうだなー。ご飯がおいしくなかったんじゃないか?」
「そんなハナちゃんじゃないんだからー☆」
「ちょっと」
でも、確かにご飯がおいしいかどうかは、とても大事なことだと思う。私はお母さんの作るご飯が大好きだし、お姉さんの作るお菓子やお料理も大好きだから、すごく恵まれているんだろうな。
地面に書かれてる白線からはずれないように歩くひなたと、その少し斜め後ろでひなたを見つめながら歩くノア。ひなたは運動神経抜群だけど、それでもノアはいつでもひなたを支えられるようにそこにいるんだと思う。
ひなたが勢いよく転んだらノアが支えられるとは思えないけど・・・。でも、気持ちはなんとなく分かる。私だって支えるのは無理だけど、お姉さんがふらふらしていたらきっとそばについていつでも支えられるようにすると思うから。
「お、着いたな!」
「駄菓子屋さんだねぇ」
「うん」
お姉さんを支えることになったら、きっと一緒につぶれるだろうな。
そんなことを考えていたら、もう駄菓子屋さんに着いちゃった。
「・・・あれ? これ・・・」
そこで見つけたのは、駄菓子屋さんの向かいにある電柱。
正確には、電柱に貼ってあるポスターだった。私はスマホを取り出して今朝撮った写真を見てみる。
うん。やっぱりそうだ。
「こねこだ・・・」
「お? おおー! これそうじゃないか?」
「なになに? わー、この子、うちの子! というか、ミャーさんの子!」
ポスターには写真付きで、「飼い猫を探しています」と書いてあった。そう、飼い主さんが作ったものらしい。住所と電話番号が載っていて、見つけたら連絡してほしいと書かれている。
「ノア、スマホで飼い主さんに連絡してもらっていい? 私はお姉さんの家に電話するから」
「まかせて☆」
こうして、私たちのこねこ探しはあっというまに解決したのだった。
05
ぴんぽーん
「いるといいわね、ひなたちゃんたち」
「う、うん。来る前に連絡しておいたほうがよかったんじゃないかなぁ・・・」
今日は土曜日なので、よりちゃんと一緒にひなたちゃんのおうちに遊びに来ています。
でも、二人でお散歩をしていたら急にひなたちゃんのところに来たくなったってよりちゃんが言っていて。
遊ぶ約束もしていないのに、いいのかなぁって思いながらよりちゃんに引きずられてきたところでした。
「お留守なのかしら」
「やっぱり、急に来ちゃったから・・・」
「こういうのは、あれよね! かの」
「よりちゃん・・・?」
ぴんぽーん
よりちゃんはもう一度インターホンを押すと、たたたっとドアから離れてノアちゃんのおうちのほうまで走って行きました。
「ピンポン押したら、ダッシュする遊びよ!」
「よ、よりちゃーん。それはやっちゃいけない遊びじゃないかなぁ・・・」
ガチャリ・・・
「ど・・・、どちらさま、ですか・・・?」
「あ、お姉さん! こんにちは!」
「みやこおねぇさん、こんにちはー」
よりちゃんのピンポンダッシュが効いたのか、みやこおねぇさんが出てきてくれました。
でも、おねぇさんが出てきてくれたってことは、きっと・・・。
「かのんちゃんとこよりちゃんかぁ。よかったぁ~・・・。ひなたたち外に出てるから、よかったらうちで休憩してる?」
「お姉さんありがとう! そうさせてもらいましょ、かの」
「う、うん。おねぇさんすみません、急に押しかけてしまって。おじゃまします」
「はーい、いらっしゃい」
リビングまで通してもらった私たちは、ソファーに並んで座ってまったりします。
よりちゃんのきれいなツインテールが私の手にかかって、ちょっとくすぐったくて。でも、こんな距離感がほっとするなぁ。
「にゃー にゃぁあぁ」
「わー ネコだー♪」
「あれ? ひなたちゃんネコ飼ってたの?」
「あー、その子迷子のネコでね。昨日ひなたたちが連れて帰ってきちゃったの」
「そうなんですかー かわいいー おいでー♪」
「にゃぁ にゃーっ」
「迷子のこねこ・・・。これは犬のおまわりさんが必要ね!」
「よりちゃん!?」
かわいい白ネコさん。おいでーってしたらすぐに来てくれて、私のおひざの上に乗ってくれました。人懐っこい子だなぁ。首輪もついているから、野良ネコさんじゃなくて飼いネコさんなのかな? それで人に慣れてるんだねー。よしよし。
「かの、本当ネコ好きよね」
「うん、だいすきー。よりちゃんもほら」
「こよりさんにかかれば子ねこ一匹くらい造作もないわ!」
「よりちゃん、それ意味違うよ?」
私はよりちゃんにネコさんを差し出してみました。おそるおそる受け取ったよりちゃんは、目の高さにネコさんを持ちあげてじーっと観察してます。
今回はうまくなついてくれるかなぁ。なんて考えていたその時でした。
「うみゃみゃみゃみゃっ」
「あっ! きゃっ!」
「よ、よりちゃーん!」
ネコさんが暴れ出して、よりちゃんに飛びかかりました。ネコさんはよりちゃんの頭に飛びついたと思ったら、よりちゃんのトレードマークのばってんをはたき落しちゃいました。
「あぁ、よりちゃんが落ちちゃった」
「かの!?」
「えぇ・・・。そっちが本体なの?」
「うみゃー」
「んもー、絶対捕まえるんだから! 見てなさい、かの!」
臨戦態勢のネコさんと、手をわきわきさせているよりちゃん。
私はよりちゃんの本体(ばってん)を拾って、両手で包んで胸の前でぎゅっと握りしめます。
おねぇさんはソファーの近くにあるテーブルとかを横にどかしてくれています。おねぇさんもよく分かってるみたいです。これからよりちゃんが転んだりするってことを。
「にゃー にゃー」
「うなぁーーーー」
「にゃー」
「うなぁ」
ババッ!
ネコさんとよりちゃんが同時に動きました。よりちゃんはネコさんがいたところに滑り込みましたが、もうそこにはネコさんはいません。
はっとして立ち上がるよりちゃんに、ソファーの陰に隠れていたネコさんが飛びかかりました。そして────。
てしっ てしっ
「あ ちょっと、こら!」
「にゃにゃっ にゃーっ」
「やめなさーい! このー、こらー!」
よりちゃんのツインテールをてしてしするネコさん。うん。どっちもかわいいなぁ。
よりちゃんがネコさんの方を見ようとして体を回転させると、ひゅんひゅんとツインテールも動いて、ネコさんの標的になっています。
ネコじゃらしみたいな感じなんだろうなぁ。ネコさんにとってよりちゃん自体が。
「んもー、ちょこざいなー!」
「うみゃーっ にゃっ」
上手に受け身を取りながら転ぶよりちゃんのおなかの上に乗っかるネコさん。あはは、かわいい♪
なんてニコニコしながら見ていたら、ネコさんは私のほうに走ってきて私のおひざの上に座り込みました。それを見たよりちゃんが勢いをつけてこっちに飛びかかってきて────。
どーんっ
「にゃっ」
「わぷっ」
「か、かのっ!?」
よりちゃんが勢いよくジャンプしてきて、私はソファーに押し倒されちゃいました。
ネコさんはひらりとかわして、おねぇさんのほうに逃げて行きました。よかったぁ・・・。
でも、こんな風によりちゃんにどーんってされるの、なんだか久しぶりだなぁ。小さい頃には転んだよりちゃんに巻き込まれてよくあったけど。
痛くはなかったけど、びっくりしちゃってすごくドキドキしちゃう。
「かの、ごめんなさい! 大丈夫?」
「よ、よりちゃん・・・」
私はすごくドキドキしながら、よりちゃんに押し倒されたままで。
心配そうなよりちゃんがお顔を近づけてきてくれたので、私はそのままよりちゃんの首に手をまわしてぎゅっとしました。
「・・・うん。大丈夫だよ、よりちゃん」
「よ、よかったわ。ケガさせちゃったかと思って」
「でも、なんだかドキドキしちゃって。ちょっとだけ、こうしててくれる・・・?」
「いいわよ! こよりさんにまかせなさい!」
私が下になって受け止めて、よりちゃんが上から抱き締めてくれて。
えへへ・・・。ドキドキは収まりそうにないなぁ・・・。
暴れまわってちょっと汗ばんでるよりちゃん。久しぶりのよりちゃんの香りにくらっとして。あったかくてやわらかいよりちゃんをなんだか手放したくなくて。
私たちはそのまま、しばらくの間抱きあっていたのでした。
「(あはは・・・。完全に二人の世界だなぁ)」
「(にゃーん)」
ジリリリリーーーーン ジリリリリーーーーン
「で、電話だ・・・。ど、どうしよう。居留守・・・?」
「あ・・・。おねぇさん、出ましょうか?」
「い、いやさすがにね・・・。で、出ます・・・」
カチャ
「は、はい。星野、です・・・。・・・あ、花ちゃん? うん。 うん。そういえば、スマホどこやったかな・・・」
いつもあんまりスマートフォンを持ち歩いていないみやこおねぇさん。それで花ちゃんもおうちの電話にかけてきたみたいです。
「・・・あ、そうなんだ。すぐに見つかってよかったねぇ。うん。 うん。今、かのんちゃんたち遊びに来ているから、とりあえずみんな帰っておいで」
おねぇさんは電話を切ると、かたわらのネコさんに話しかけました。
「よかったねぇ。飼い主さん見つかったんだって」
「んなぁー」
「最初うちに来た時は衰弱してたから、こうして元気になった状態でお返しできて本当によかった・・・」
「にゃーっ にゃーっ」
「おまえも、もう逃げ出したりしちゃダメだよ? いい?」
「にゃーっ!」
そっかぁ。ひなたちゃんたちは飼い主さんを探しに行ってたみたいです。すぐに飼い主さんが見つかったみたいなので、今日このタイミングでネコさんと遊べたのはとてもラッキーだったのかも。
私はよりちゃんと一緒にソファーで起き上がると、お互いに顔を見合わせて。今日のこの幸運を笑顔で喜びあったのでした。
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── 「わたてん☆にゃんころじー」 完 ──
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おまけ。
────こねこ騒動から一週間が経って。
私たちはまた、いつもの日常に戻っていた。
でも、私はちょっとだけ変化があって。あれから少し、こねこが怖くなくなったんだ。
「よーし! 今日もよりみちしていくぞー!」
「いいよー☆」
「うん。行こうか」
私たち5人は、それぞれ相変わらず。
でも、あのこねこに感化されたのか、ノアはたまにこねこっぽい仕草をするようになった。
「ヒナタちゃーん☆ にゃんにゃん」
「お? おおー、のあネコか。よーしよしよし」
「にゃーん♪」
「そういえば、のあってネコみたいな口してるよなー」
「う、うん」
「ふにふにしてて、とってもやわらかいしな。ちゅーしたくなってくるぞ」
「トゥンク!」
いちゃつきが加速しているように見える二人。6年生になったけど、私たちはまだ小学生なんだから節度あるお付き合いをしないとダメだよ。
そんな、キスだなんて・・・。でも、あれ? お姉さんはもう大人だから、そういうことしてもいいお年頃なのかな。
そんなことを考えていたら、もう駄菓子屋さんに到着していた。
「よーし。駄菓子屋さんだー!」
「着いたねー☆」
「おばさん、これとこれとこれとこれください」
「それ全部食うのか? はなー」
「お姉さんのお菓子もあるし、食べきれないのは持ち帰るよ」
「結局全部食べるんだネ・・・」
両手で抱えられるくらいの量のお菓子を持って、店先のベンチに三人で座る。みんなで分けあいながら駄菓子を堪能していると────。
「にゃー にゃーー」
「あ あのネコだ!」
「わー また逃げ出して来たのかな?」
「えぇ・・・。でも、弱ってないみたいだから、大丈夫そうだね。ただの散歩かな」
こねこは飼い主さんにお返しした時と同じくらい元気そうに見えた。私たちのことをちらっと見ると、そのままブロック塀を歩いて行ってしまった。
「・・・飼い猫も、自由そうだネ」
「そうだなー。ご飯はもらえるし、外にも出られて、私たちみたいだな!」
「うん・・・」
私はお姉さんの飼い猫って訳じゃない。
でも、お姉さんのそばにいられて、おいしいお菓子を食べさせてもらえて。コスプレと撮影はさせられるけど、それもこの頃はもう慣れてきたし。
お姉さんに見つめられるのなら、別に構わないし。
お姉さんかぁ・・・。
「・・・みんな、そろそろお姉さんに会いに行こう」
「ハナちゃんがミャーさんのお菓子じゃなくて、ミャーさんに会いたいなんて、めずらしいネ☆」
「べ、別に。お姉さんひとりでさびしがってるかなって思っただけで」
「にゅふふーん、そうだネ」
「おう! じゃあいくか!」
まったく。お姉さんのことを話し出すと私がからかわれてばっかり。でも、こんな日常も悪くないかな。前の私だとこんなこと考えもしなかったけど。
うん。やっぱり、こういうのもぜんぶまとめて、お姉さんのせいですね。
おしまい。