間接表現の妙
乃愛さんは特に「間接表現」を多く取り入れられているように感じられます。ここまでくると本当に小学生なのかと勘繰ってしまいそうになりますがさすがトリックスターということで(微笑)
間接表現とは、「直接的な表現ではありませんが全体としては意味が推測できる言い方」を指します。ここでの乃愛さんひなたさんのセリフを例文として解説いたします。
乃愛さんの
「いちゃついてるだけで中身入れ替わっちゃうなんて、怖いよネω アタシもヒナタちゃんと気をつけないとー」
というセリフについてよく考えてみましょう。ここでの乃愛さんは「ひなたさんと自分が夏音さん小依さんのように中身が入れ替わってしまう可能性がある」ということをおっしゃっています。
夏音さん小依さんが入れ替わった原因が「ちゅー」であることがこの直前で判明していることから、つまり乃愛さんはこのセリフにより「ヒナタちゃんと普段からちゅーをしている」ということを暗に公表していることになります。
また、ひなたさんの「お? おー、そうだな!」というセリフは非常にひなたさんらしいセリフであり、細かいことを気にしない大らかな性格がストレートに出ることからこちらのひなたさんはよく使われます。そしてちょっと複雑なことになると考えることを放棄してしまうことがあり、そういう時にもこのセリフをおっしゃることがあります(「第10話 また余計なこと言っちゃった」での松本さんとの会話においてこのニュアンスを確認できます)。
ここでのひなたさんの想いを汲んだ形でセリフを補完するならば
「お? おー(のあといっぱいちゅーしてるから、確かに入れ替わっちゃうかもなー。でも、のあとなら入れ替わってもいいけどな。んんー、でもまぁいいか!)、そうだな!」
ということになりますでしょうか。
ちなみに、この後の「おまけ」においても「ちゅー」についてお二人の以下のセリフがあります。
「ちゅーなんてみんないっぱいしてるのに、入れ替わったなんて聞かないぞ。なんでかのんたちはそうなったんだ?」
「んんー、ヒナタちゃん、それはナイショで☆」
乃愛さんとしては前述の間接表現において「匂わす程度に留めておいた二人の秘密」を、ひなたさんが公言しそうになった為に「ナイショで☆」とやさしく釘を刺した形となっていますね。乃愛さんもさすがにストレートに公言するのは恥ずかしいのでしょう。あくまで「匂わす程度のニュアンスに留めておきたい」という意図があるものと思われます。
(補足:ひなたさんが直前で問うているのは「なんでかのんたちはそうなったんだ?」ですが、乃愛さんがナイショにしたかったのはそこではなく、「ちゅーなんて(私たち含めて)みんないっぱいしてるのに」というところですね。文章のどのパートにかかるものであるのか、ここについてはどちらにも取れる為無粋を承知で補足させていただきました)
オンライン☆わたてにんぐ劇場で大活躍の大道具「ソファ」
エプイさんのおっしゃる通り、天使たちの公演においてこの「星野家リビングに設置のソファ」は幾度も登場しています。参考画像としてはこちら。
「第10話 また余計なこと言っちゃった」より。
小学生であれば足を伸ばして横になることができる大きなソファですね。
このソファは、これまでの公演としては
・「わたてん☆にゃんころじー」05にて夏音さんが小依さんにソファにどーんとされるシーンで。
・「ハッピーハロウィン with ディアマイフレンド」03にてみやこさんがだらりと休憩されるシーンで。
・「聖夜の告白」03にて花さんがみやこさんに寄りかかるシーンで。
・「いちばん近い、あの子のために。」にて夏音さんが小依さんにソファにぼふーんとされるシーンで。
という形で最大限有効活用されている大道具と言えるでしょう。
ソファは一人掛けの椅子とは異なり、「誰かと並んで座ることができる」「よりリラックスできる」という性質があり、小説においては「よい雰囲気を作り出す為の舞台装置」として使用することができます。「ベッドサイドに二人で並んで」という表現では小学生としては過激になりすぎるという判断の場合に簡易ベッドとしてソファを使用されることもあるようですね(もっとも、今回の06においては小依さんと夏音さんがその「ベッドシーン」を見事に描き切った訳ですが……)。
なお、別項目できちんと掲載させていただきますが、今回のまいちゃんさん作のイルミネーションアートもこのソファでのシーンでした。
ソファのカラーリングから始まり、すべてにおいて完璧に再現されていますね。今回も素晴らしい作品ですね。
お二人のお洋服は原作7巻54話に登場します「お誕生日デート」でお召しになっていたものです。某小説「ガナッシュ」にて扉絵にさせていただいたことがありますので、以下そちらを参考画像として。
ボーイッシュな小依さんが前に出て、ふんわりと女の子らしい服装の夏音さんの手を引いています。お似合いのカップルと呼べるでしょう。
「付喪神(つくもがみ)」について
付喪神とは、長い年月を使い込まれた道具や家具などに魂(神、精霊)が宿ったものです。「九十九神」とも記載します。道具や家具は百年経つと精霊を宿し付喪神となる為、「煤払い」と称して立春前に古くなった道具類を路地に捨てていたと言われています。
我々日本人の感覚からすると、道具は長く大事に使い込むことが美徳とされており、また「八百万の神」を信仰する我が国では道具に神が宿ることはありがたいことというイメージがあります。室町時代の『付喪神絵巻』に記載の下りを読むと、どうやら付喪神は民衆にとってあまりよい神ではなく、人を誑かすことがあるとされています。その為、付喪神となる前に道具を処分するという習慣があったようです。
八百万の神を信仰する国においては真逆の風習と捉えることができますが、これも恐らく「古くなった道具を使い続けることにより怪我をする事例」が多かったのではないかと推測できます。その為、もったいないとは思いますが、身の回りの道具は一定期間で新調することを推奨し、民衆にも意図が伝わりやすいように「付喪神」という伝承ができたのでしょう。
星野家のソファに「付喪神がすでにいそうであります、縁引き寄せる系の」とおっしゃるちぇろーかさん。咄嗟に付喪神という概念が出てくるところも、またそれが元来の「悪さをする類のもの」ではなく「縁を引き寄せるもの」であるという注釈を即座に入れられる点も、さすが現役の作家先生だと感嘆いたしました。素敵な視点、ありがとうございます。
固定されている「夏音さん>小依さん」というベクトルについて
こちらもコラムにて詳述しようかと思いましたが、ここだけは切り出して記載いたします。
エンジェル Tips03 にて記載しました通り、今回のタイトルは「よりかのよりかのより!?」ということで「夏音さんが小依さんをリードするギャップを楽しんでほしいお話」と宣言されていました。ここはまさにそれを象徴するシーンであり、入れ替わる前の「(小依さんの希望により)夏音さん(in夏音さん)が小依さん(in小依さん)を押し倒す」というシーンの対比として、入れ替わった後の「(戻る術としての)夏音さん(in小依さん)が小依さん(in夏音さん)を押し倒す」という非常に入り組んだ入れ子構造となっているのですが、第三者視点からすれば「夏音さんが小依さんを押し倒す(2回目)」と認識することができます。
ご本人たちの自意識としては1回目と2回目は「押し倒される側、押し倒す側」で役割が逆転している為、傍から見れば昨夜と同じことをされていますがその実ご本人たちはお互いに初めての経験をされているという点がエモーショナルであると思います。
ねむさんのおっしゃる「リバーシブル」というのは、二次創作小説においては「受動側と能動側が入れ替わること」または「入れ替わってもお話が成立する様」を指します。「よりかの」が「かのより」になった、ということですね。ただ、ここでは「見た目」の攻守ベクトルはそのままですので、ねむさんの「リバーシブル」というのは内面的なことを指しています。
いやはや、それにしても。
こうして固定メディアとしてチャットログをいただいて、落ち着いた状況で解析できている為夏音さん小依さんの感情遷移や役割のフロー、その持つ意味を理解できておりますが、これをリアルタイムで考えながら、かつ互いの息をぴったり合わせつつ、即興で物語を紡ぐことはもはやウルトラCなどの「技術的難易度」という概念を超越しており、この現象は「奇跡」と呼んで差し支えないのではないかと思います。まさに「神の遣い(天使)」としか言いようがありませんね……。
乃愛さんの「サービス精神全開☆」
既にこの時、午前1時を過ぎていました。今回は長丁場だったようで、平常時のひなたさんであれば既にこの3時間前には就寝されているという時間帯でした。ひなたさんもおっしゃっていたように「眠気も飛ぶ感じ」とのことで、それだけ目の前で繰り広げられている夏音さんと小依さんの入れ替わりが目を見張るものがあったということでしょう。
ここで取り上げるのは乃愛さんのトリックスターぶりです。エプイさんたちはリアルタイムで観劇された時からお気付きになっていますが、ここのパートで素晴らしいのが「演者と観客の掛け合いにより新たなショートショートが生まれている」という点です。
エプイさんの「2階から戻ってきた面々が入れ替わってそうで草」という期待を込めた呟きを、取りこぼしなく回収された乃愛さんが期待に応える形で「のあー☆」と。
ここで絶妙なのが「☆」ですね。これにより一見、「乃愛さん(inひなたさん)になっているのでは!?」と思わせておいて、花さんひなたさんからの総ツッコミにより冗談であったことが「露呈」します。が、この「露呈する」ところまで含めて乃愛さんの仕掛けたショートショート(寸劇)だったのです。
下の方でねむさんたちがPTチャットで解説されていますが、おっしゃる通り乃愛さんとしては「自分達には夏音さんたちのようにはできない」という尊敬の念を込めての「しっぽ出し」であり、花さんひなたさんからツッコミが入る前提ですのである意味「体を張って楽しませよう」という意図まで感じることができます。更には、エンジェル Tips19 で触れた「間接表現」と同じように、「ヒナタちゃんと入れ替わっちゃったー☆(つまり2階でちゅーしてきたんだよω)」と匂わせることにも成功しています。
これを、もう全員眠かったであろう午前1時という時間帯に、あえて寄り道をする形で「余興」として敢行された乃愛さん。わたてにんぐ劇場の企画・進行・プロデュースだけでなく、お客様との調整役までこなせる「カンペキ☆小学生」であり、かつご自身も公演会の際にはこのようにユーモアのあるかわいらしい小噺を作り出しお客様を楽しませることができるという、熾天使ぶりが遺憾なく発揮されたシーンでしたね。素晴らしい。