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■2023年9月30日
一般チャットで行われた実際の「オンライン☆わたてにんぐ劇場」のチャットログはこちらから。
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公演会開始前、集合時の様子 ~ ご歓談 ~ 血盟チャットによる打ち合わせ ~ お題発表
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ01 ~ ご感想 ~ パーティーチャットによる打ち合わせ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ02 ~ ご感想 ~ パーティーチャットによる打ち合わせ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ03 ~ ご感想 ~ パーティーチャットによる打ち合わせ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ04 ~ ご感想 ~ 血盟チャットによる打ち合わせ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ05 ~ ご感想
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シャーロックさんイベントについての告知 ~ 「私に天使が舞い降りた! feat. 魔法少女まどか★マギカ」への取り組みと今後の公演会について ~ 解散
スクリーンショットは種村小依さん、白咲花さん、白咲春香さん、星野千鶴さんが撮影したものになりますので、チャット内容や環境設定はそれぞれ基準となります。
保護者さまの反応(わたてん保護者会血盟チャット)および公開していただけた天使たちの裏方のやり取り(わたてん公演会部血盟チャットおよび演者パーティーチャット)をすべて時系列で入れ込んでおります。天使たちの微笑ましい舞台裏も含めてお楽しみください。
天使たちの舞台裏は種村小依さんが撮影されたものを、演者パーティーチャットは白咲花さんと白咲春香さんが撮影されたものを、公演会中の保護者さまの会話は星野千鶴さんが撮影されたものを使用し、合成して1枚にまとめております。
今回も主に「天使たちのお友だち(保護者さま)」を対象とした即興劇を、人数制限のない一般チャット(白チャット)にて天使たちが実施してくださいました。
主な出席者は以下の通りでした。
わたてん公演会部:白咲花さん、星野みやこさん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん、種村小依さん、小之森夏音さん
わたてん保護者会:絵笛さん、マイチャンさん、うらりーぬさん、星野千鶴さん、白咲春香さん
総勢11名でのイベントとなりました。いつもご参加ありがとうございます。
なお、マイチャンさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
作品につきましてはいつも通り、花さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。
■2023年10月28日
※この日は公演会ではなく懇親会でした。その為、懇親会として別記事を作成すべきでしたが、懇親会の主な目的が「9月30日の公演会の続きの物語を紡ぐこと」でしたのでこちらにマージしました。
一般チャットで行われた実際の「オンライン☆わたてにんぐ劇場」のチャットログはこちらから。
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公演会開始前、集合時の様子 ~ ご歓談
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懇親会恒例の「2文字しりとり」 ~ 同盟チャットによる打ち合わせ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ06 ~ ご感想 ~ 同盟チャットによる打ち合わせ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ07 ~ ご感想
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公式コミュニティ廃止以降の記事アーカイブ及び連絡手段について ~ 解散
スクリーンショットは白咲花さんとDOSANが撮影したものになります。(懇親会の為、公演会部側の血盟チャットによる相談・打ち合わせはなかったとのこと。種村小依さんいつも公演会側のチャットログ撮影ありがとうございます)
保護者さまの反応(わたてん保護者会血盟チャット)および同盟チャットによる天使たちの相談の様子をすべて時系列で入れ込んでおります。天使たちのファンサービス含めてお楽しみください。
今回も主に「天使たちのお友だち(保護者さま)」を対象とした即興劇を、人数制限のない一般チャット(白チャット)にて天使たちが実施してくださいました。
主な出席者は以下の通りでした。
わたてん公演会部:白咲花さん、星野みやこさん、姫坂ひなたさん、姫坂乃愛さん、種村小依さん、小之森夏音さん
わたてん保護者会:なきぎつねさん、楽笑の看板2さん、千代リンさん、どわまいさん、桜おばあちゃんさん、DOSAN
総勢12名でのイベントとなりました。いつもご参加ありがとうございます。
なお、マイチャンさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
作品につきましてはいつも通り、花さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。
■2024年1月21日
一般チャットで行われた実際の「オンライン☆わたてにんぐ劇場」のチャットログはこちらから。
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公演会開始前、集合時の様子 ~ 血盟チャットによる打ち合わせ ~ ご歓談 ~ お題発表
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ08 ~ ご感想 ~ 血盟チャット及びパーティーチャットによる打ち合わせ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ09 ~ ご感想
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ10 ~ ご感想・シーチキン談義 ~ 解散
スクリーンショットは白咲花さん、小之森夏音さん、D0SANの娘が撮影したものになりますので、チャット内容や環境設定はそれぞれ基準となります。
保護者さまの反応(わたてん保護者会血盟チャット)および公開していただけた天使たちの裏方のやり取り(わたてん公演会部血盟チャットおよび演者パーティーチャット)をすべて時系列で入れ込んでおります。天使たちの微笑ましい舞台裏も含めてお楽しみください。
天使たちの舞台裏は小之森夏音さんが撮影されたものを、WISと演者パーティーチャットは白咲花さんが撮影されたものを、公演会中の保護者さまの会話はD0SANの娘が撮影したものを使用し、合成して1枚にまとめております。
今回も主に「天使たちのお友だち(保護者さま)」を対象とした即興劇を、人数制限のない一般チャット(白チャット)にて天使たちが実施してくださいました。
主な出席者は以下の通りでした。
わたてん公演会部:白咲花さん、星野みやこさん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん、種村小依さん、小之森夏音さん
わたてん保護者会:絵笛さん、マイチャンさん、うらりーぬさん、oなききつねoさん、楽笑09さん、ノノルさん、D0SANの娘
総勢13名でのイベントとなりました。いつもご参加ありがとうございます。
なお、マイチャンさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
作品につきましてはいつも通り、花さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。
■2024年1月28日
一般チャットで行われた実際の「オンライン☆わたてにんぐ劇場」のチャットログはこちらから。
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公演会開始前、集合時の様子 ~ 血盟チャット・PTチャットによる相談 ~ ご歓談 ~ お題発表
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ11 ~ ご感想 ~ 血盟チャットによる打ち合わせ
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オンライン☆わたてにんぐ劇場 「いまの私たち。そして、これから。」 チャットログ12 ~ ご感想 ~ 解散
スクリーンショットは白咲花さん、種村小依さん、星野ひなたさん、星野千鶴さん、みんなのお父さんが撮影したものになりますので、チャット内容や環境設定はそれぞれ基準となります。
保護者さまの反応(わたてん保護者会血盟チャット)および公開していただけた天使たちの裏方のやり取り(わたてん公演会部血盟チャットおよび演者パーティーチャット)をすべて時系列で入れ込んでおります。天使たちの微笑ましい舞台裏も含めてお楽しみください。
天使たちの舞台裏は白咲花さんと種村小依さんと星野ひなたさんと星野千鶴さんが撮影されたものを、公演会中の保護者さまの会話はみんなのお父さんが撮影したものを使用し、合成して1枚にまとめております。
今回も主に「天使たちのお友だち(保護者さま)」を対象とした即興劇を、人数制限のない一般チャット(白チャット)にて天使たちが実施してくださいました。
主な出席者は以下の通りでした。
わたてん公演会部:白咲花さん、星野みやこさん、星野ひなたさん、姫坂乃愛さん、種村小依さん、小之森夏音さん、秩父鉄道車掌さん
わたてん保護者会:絵笛さん、Myまいさん、うらりーぬさん、oなききつねoさん、ノノルさん、白咲春香さん、桜おばあちゃん、星野千鶴さん、姫坂エミリーさん、みんなのお父さん
総勢17名でのイベントとなりました。いつもご参加ありがとうございます。
なお、マイチャンさんが今回も公演会の内容をモチーフとしたイルミネーションアートを作ってくださいました。
いつも天使たちの公演内容に合わせたイルミネーションアートを作ってくださいまして、ありがとうございます。
作品につきましてはいつも通り、花さんがヴァラカスサーバにて撮影してくださいましたので本ページ下部に掲載させていただきます。
■記載ルール■
メイン記述者(進行者。今回は白咲花さん)が直接一般チャットに地の文を書き、他登場人物は「」で囲む形でセリフを書くことで物語を紡いでいきます。
☆☆☆☆☆ イントロダクション ☆☆☆☆☆
── リンドビオルサーバのとある同盟では ──
── 気ままに天使たちが舞い降りては 一遍の物語を協力して紡ぎ 人知れず飛び去っていく──
── という噂がまことしやかに囁かれています ──
こちらの記事は「エンジェリック・ミスリル・ハーツ・フェデレーション」内「天使が舞い降りた」同盟において
天使たちの紡いだ物語を一般公開できる形で記録に残そうと考えまとめたものとなります。(天使たちの公開許可はいただいております)
「私に天使が舞い降りた!(わたてん!)」という作品世界から、こちらの世界に飛ばされてしまった天使たち。
戻る術が見つからない日々の中、お友だちの代理露店をこなしながら元気に楽しげに生活されています。
時折、突発的に始まるリアルタイムでの「物語の編纂(即興劇)」というお遊戯は、その完成度の高さ、内容の睦まじさにより
見る人に癒しと潤いを与えてくれるものとなっており、まさに【天使】のような存在となっています。
今回のメイン記述者は「白咲花」さん。
主なキャストは「星野みやこ」さん、「姫坂乃愛」さん、「星野千鶴」さん、「白咲春香」さん、「種村小依」さん、「小之森夏音」さんでした。
私に天使が舞い降りた! TVシリーズ公式サイト
より、プロフィール画像はこちらになります。(コンパクトにまとめました)
──────────────────────────
── いまの私たち。そして、これから。 ──
──────────────────────────
■作品イメージタグ■
#私に天使が舞い降りた! #わたてん! #白咲花 #星野みやこ #姫坂乃愛 #種村小依 #小之森夏音 #星野千鶴 #白咲春香 #花みや #よりかの #熾天使 #相思相愛 #シュークリーム #シリアス #集大成 #総括編
■作品文体■
一人称小説
■お題■
-2023年 9月30日- 第1章~第5章
「宝石」
「アンニュイ」
「ろ過」
-2023年10月28日- 第6章~第7章
「桃のゼリー」
「ぬりぬり」
「ドカーン」
-2024年 1月21日- 第8章~第10章
「プリン」
「真っ暗」
「好きです」
-2024年 1月28日- 第11章~エピローグ
「王子様」
「蝶」
「資格」
※オンラインでのわたてにんぐ劇場では、白咲花さんがメイン記述者に「3つのお題」を開始直前に出されることが慣例となっています。
メイン記述者もしくは参加者はランダムで出されるその「お題」を地の文やセリフのどこかに取り入れてお話をリアルタイムで紡ぎます。開始直前に発表される為、事前に考えておくことができません。
今回は白咲花さんがメイン記述者となることから、9月30日は姫坂乃愛さんが、10月28日は姫坂ひなたさんが、1月21日は種村小依さんが、1月28日は小之森夏音さんがお題選出と発表を担当されていました。
事前にお題を出され、じっくり考えた場合でもランダムキーワードを取り入れて物語を紡ぐことはかなりの高等技術ですが、毎回みなさんすんなりとオンラインリアルタイムでこなされているので驚愕しております。
──── 普通の人には普通じゃない、私にとっての普通。
──── この先も普通であるために、今決断しなきゃ。
──── でも、していいのかな。奪っていいのかな。
──── だから委ねよう。あの人に。
──── 世界で一番大切な、あの人に──。
「・・・・・・。・・・ねぇ、ノア」
「ハナちゃん?」
「その、えと、月末の土曜日なんだけど」
「うんうん?」
「ひなたとおでかけしたりする予定、あったりしない?」
「・・・・・・」
──────────────────────────────
── いまの私たち。そして、これから。 ──
──────────────────────────────
01
9月21日(木)
まだまだ暑い日が続いている、9月の下旬。
今日も学校帰りにお姉さんのおうちに寄って、撮影されたりおいしいお菓子を食べさせてもらったりしていた。
今はお姉さんのおうちから家に帰ろうとしていて、お姉さんたちにごあいさつしてから徒歩で十秒くらい歩いた場所にいる。つまりノアのおうちの前。ノアともあいさつをして帰ろうとしたときに私から声をかけてみたんだ。
「・・・あるよー? ちょうどヒナタちゃんとおでかけしようと思っててー」
「・・・そっか」
「ってコトでいい?」
「え・・・?」
「なんとなくだけど分かっちゃって。うまくいくとイイネω」
「ノア・・・。ありがとう」
隠そうと思っていたわけでもなくて、あとでちゃんと理由は言うつもりだった。でも、なんとなく気恥ずかしくて後回しにしちゃった。
ノアは私のそんな感情も考えもお見通しみたいで、恥ずかしくて説明しにくいことを私が言葉で伝えなくてもいいように察してくれた。
思い返せば、ノアとの会話はこんな感じのものが多い。つい先日のお姉さんのお誕生日のときもそうだった。
お姉さんにいつものお礼としておいしいカップケーキを食べてもらいたくて、一週間くらいお母さんに特訓してもらっていて。そのことは誰にも話していなかったのに、お誕生日当日に私がカップケーキを渡せないでいるときにノアはすべてを察してエスコートしてくれた。
そんなノアが友だちでいてくれて、本当に嬉しい。いつもありがとう、ノア。
「それじゃあ、また明日☆」
「うん。またね」
手をかわいらしくフリフリして玄関に入っていくノアを見届けて、私は自分のおうちへと足を向ける。
「・・・お姉さん、かぁ・・・」
このごろ、ひとりのときによくお姉さんのことを考える。
お姉さんは・・・好きなことになると後先考えられなくなることが多い。でも、そんないっしょうけんめいなお姉さんは、キライじゃない。
お姉さんは・・・手先がすごく器用で、お洋服もお菓子もお料理もなんでも作れちゃう。そんなすごいお姉さんはやっぱり、キライじゃない。
お姉さんは・・・自分で気がついていないけどすごくきれい。美人だと思う。お姉さんが変なことを考えているとすぐに分かるのは、その整ったお顔がひきつったように歪むからで。そんな美人なお姉さんは、キライじゃない。
カン カン カン・・・
帰り道にある歩道橋。その階段を上る。
ちょっと風が強くなって、髪が左から右にたなびくのを感じる。風が髪の間をやさしく吹き抜けていって、とても気持ちがいい。
こんな感じに、お姉さんに髪をなでてもらいたいな。前に髪型を変えてもらったときのように。
「ふぅ・・・・・・」
なんでだろう。いつもこうなっちゃう。
お姉さんのことを思い浮かべると、お姉さんのいいところばかり出てきちゃう。もっとダメなところもあるのに。でも、そのダメなところにもちゃんと理由があるってことを今の私は理解もしていて。
「・・・まぶしい・・・」
歩道橋の真ん中で、沈んでいく夕日を見つめる。空は曇っているけど、雲のすきまから輝く夕日が透けて見えている。
それはまるで、お姉さんの左目のようで。
宝石のようにまぶしいそれを見つめていられなくなった私は、足下に目線を戻して、歩道橋の下り階段を降りておうちへと帰っていった。
02
「いたただきます」
「はい、めしあがれ。いただきます」
今日のお夕飯はお刺身と冷や奴、温野菜のサラダに、ご飯とお味噌汁。
冷や奴には刻んだネギだけ乗っていて、そこに好みでかつおぶしとすりおろしのショウガ、おしょうゆをかけていただくことになっている。
私はちょっとショウガが苦手だから、かつおぶしとおしょうゆだけ少しかける。ちょっとざらっとした食感だから、木綿豆腐なんだと思う。おしょうゆが絡みやすくて絹より好きかも。
「むぐむぐ・・・」
「花ちゃん、最近どう?」
お母さんにそう聞かれて、ちょっとだけ考える。
お母さんに話しても大丈夫なことで、伝えておくことや聞いておきたいことあったかな・・・。
あ、そうだ。
「今日の帰りにノアから聞いたんだけど、月末に二人でデートするんだって」
「あらっ いいわねぇ」
お母さんはとても嬉しそうな笑顔になった。
というか、ノアが誰とデートするかを言ってないんだけど・・・まぁいっか。
「それでね、お姉さんがひとりぼっちになってかわいそうだから、その日にお姉さんを誘っておでかけしようかなって」
「まぁ!」
お母さんがお口に手を当てて、すごく驚いた顔をしている。気持ちは分かるよ。
ノアたちがデートするって言ったすぐ後に私もお姉さんと似たようなことしようとしてるって伝えたんだから。
「・・・みやこちゃんって、おうちから外に出られるの?」
「そこなの?」
というか、お母さんだって学校行事でお姉さんと学校で会ってるし、水族館や動物園や長瀞旅行のときに保護者としてお姉さんが一緒に行ってるの知ってるのに。
「冗談よ。うふふ でも、そう・・・。楽しみね」
「まぁ、うん。仕方なくだけどね」
また嘘をついている。
さっきも「お姉さんがひとりぼっちでかわいそうだから」って言ったけど私が一緒に行きたいからノアにお願いしたんだし。だからぜんぜん、仕方なくじゃないのに。
お母さんにお姉さんのことを伝えるとき、どうしてもこうなっちゃう。なんでかな・・・。
「・・・ふふ ほんと花ちゃんはみやこちゃん好きね」
「な・・・」
前にも言われたことがある。どうして分かっちゃうんだろう?
お母さんは笑顔のまま、私のサラダを小皿に取り分けてくれる。ゆでたカリフラワーとブロッコリー、ベイビーコーンにお豆とかぼちゃ。まだまだ暑い日が続いてるけど、体を冷やさないようにってお母さんは温野菜のサラダを作ってくれることが多い。
「冷めないうちに食べてね」
「うん・・・」
恥ずかしいからお母さんの顔を見られなくて、うつむき加減でご飯をすすめる。
かぼちゃおいしいな・・・。ゆでるとほっこり甘くてお菓子みたい。前にお姉さんが作ってくれたハロウィンのお菓子を思い出す。かぼちゃのプリン、パウンドケーキ、かりんとう・・・。
あのかぼちゃプリン、また食べたいな・・・。
「おいひ」
「そう? よかった。 今日はデザートも作ってあるからね」
「本当!? なんだろう」
「みやこちゃんに教わった、かぼちゃのプリンよ。ご飯食べ終わってからね」
ちょうど食べたいと思ってたかぼちゃのプリン。しかもお姉さんのレシピの!
私は嬉しくて、お刺身やお味噌汁をいつもよりちょっとだけ早いペースで、でもちゃんと噛んで味わって平らげたのだった。
03
「はい、どうぞー」
「わぁ~~~☆ いただきまふっ」
すっ・・・ つゅろ くぷっ
スプーンを持ち上げて、カラメルソースとプリンの海を少しだけ崩してすくい上げ、それをお口に。
「ん~~~ おいひぃ!」
「ほっ・・・。よかったわ」
お母さんは何故かほっとしたような様子だった。
お姉さんのプリンとは違って、表面のコツッとしたカラメルの板はなくてとろとろのカラメルソースだった。でもこれはこれで、その下のプリンとよく絡まってすごくおいしい。
「みやこちゃんのレシピだとキャラメリゼといって、グラニュー糖をプリンの上にまいて、それをバーナーで炙るんだけど・・・うちにバーナーがなくってね」
「・・・んくっ でもすごくおいしいよ。ありがとうお母さん」
「ふふ どういたしまして」
心底ほっとしたという顔のお母さん。さっきからどうしたんだろう?
「・・・ほっとした、の?」
「ん・・・。花ちゃんをみやこちゃんに取られちゃいそうで。それで、ね?」
「お母さん・・・」
スプーンを置いて、お母さんの椅子のところへ。
そしてお母さんのおひざに乗っかって、お母さんの首のところに抱きついた。
「・・・大丈夫だよ、お母さん」
「花ちゃん・・・」
「お姉さんのお菓子はすごいけど、お母さんのお菓子もおいしいよ」
「ありがとう・・・」
「大好きだよ、お母さんのことも。・・・だから安心してね」
お母さんの目を見つめてみると、喜んでくれているように見えた。
でも、ちょっとだけ、何かを諦めているような。そんな表情にも見えた。
「花ちゃん。お母さん、応援しているからね」
「え? う、うん・・・?」
応援って、なんだろう。今度の学芸会かな?
お母さんは私をお姉さんに取られちゃうって心配してるから、お姉さんとのことを応援してくれてるわけじゃないと思うし。うーん。
ちょっとすっきりしなかったけど、お母さんは笑顔になってくれたから安心。
私は自分の椅子に戻っておいしいかぼちゃプリンを堪能したのだった。
04
9月30日(土) 午前11時
ピンポーン
「はーい」
「白咲です。こんにちは」
「あら、花ちゃんいらっしゃい。悪いけど、ひなたは今日朝一でおでかけしちゃってるのよ」
「あ、はい。それはひなたちゃんから聞いてます」
「そうかい。私もすぐ出ないといけなくてね。みやこしかいなくて悪いけど、ゆっくりしていってちょうだい」
「ありがとうございます」
ついに月末の土曜日。
今日のことはいろいろと計画をして、お姉さんにお願いのメールをしてあった。
『午前中におじゃまします。コスプレはお外に着ていける落ち着いたデザインのものにしてください』
『お菓子はお姉さんの作ったシュークリームがいいです。お外に持っていけるようにしておいてください』
『お昼ご飯はお姉さんのおうちで食べたいです』
こんな感じ。
本当はお昼はお外のおしゃれなお店でしたかったけど、お姉さんが入れないと思うからおうちで。
それに、お姉さんのご飯はいつもとってもおいしいから、それもあってお願いしちゃった。
他の二つは読んだら分かっちゃうけど、私はお姉さんとお外におでかけしたいと思ってる。
そう、前にお姉さんといっしょにシュークリームを買いに行ったときのように。
「それじゃ、花ちゃんのお母さんたちとおでかけしてくるわね。みやこのことよろしくね」
「はい。いってらっしゃい」
玄関で靴を脱いで揃えてるとき、お姉さんのお母さんがすれ違いで出かけていった。私も軽く頭を下げてごあいさつする。
そっか。今日はお母さんたち三人でランチしたりお買い物したりするって言ってたな。めずらしくうちのお母さんが言い出したみたいだけど・・・気を使ってくれたのかな。
それにしても、お姉さんのことよろしくって。どういうことなんだろう。
普通逆じゃない? 別に今に始まったことじゃないからいいけど。
トン トン トン トン トン・・・
玄関からお姉さんのいる二階へと上っていく。
一階でちらっとリビングをのぞいたけど、キッチンにお姉さんはいなかったからきっと上にいるはず。
・・・なんだろう。ちょっとドキドキしてきた。いつも上ってる階段なのに、変なの。
コンコン
「お姉さん、おじゃまします」
返事がない。ただのしかばねのようにまだ寝てるのかな。
前々から今日のことは連絡しておいたのに・・・なんだかもやっとするけど、入っちゃおう。
カチャ・・・
部屋の中をのぞいてみると、お姉さんはベッドじゃなくてちゃんと作業机の椅子に座っていた。
こちらからは背中しか見えないけど、何かに集中しているような感じに見えた。
「入りますね」
そのままお姉さんに近づいて、左側から回り込むように手元を見てみる。どうやら撮影に使うカメラの手入れをしているようだった。
マスクをして、カメラのレンズに空気を吹きかけながらやわらかい毛ばたきで細かいほこりを取っているみたい。
メガネをかけて真剣なまなざしで手入れをするお姉さん。普段は見せないような顔だからみとれそうになる。
机の上にはタブレットとペンも置かれていて、今後作るコスプレのイメージが描かれていた。私は絵を描いたりするのが苦手だから、頭の中のイメージを絵として描き出せるのはすごいなって思う。
お菓子だけじゃなくて他もプロみたいなことができるお姉さん。そんなお姉さんもやっぱりキライじゃない。
いけない。お姉さんの目の前でこんなこと考えたら、いつもの私でいられなくなっちゃう。
私は頭をふるふるして目を閉じる。
「・・・あ え? 花ちゃん!?」
「あ・・・」
目を開けると、目をまんまるにして驚いているお姉さんがいた。
頭をふるふるしたとき、私の髪の毛がお姉さんの左手に当たっちゃったんだろうな。
「びっくりしたー・・・」
「ノックも声かけもしたのに、気づいてくれなかったので入ってきちゃいました」
「ご、ごめんね・・・」
お姉さんは目を泳がせながらおろおろしている。
そんなお姉さんもおもしろいから見ていたいけど、でも今日はやることいっぱいあるから早速撮影してもらおう。
「いいんですよ。作業に集中してるお姉さん、かっこよかったです」
「は、はずかしい・・・>ミ ありがと・・・」
「じゃあ、さっそく着替えてきますね」
お姉さんは真っ赤になりながら、でもちょっと嬉しそう。
私はお願いしておいた「落ち着いたデザインの服」をお姉さんから受け取って、ひなたの部屋に移動する。
二人きりといっても、さすがにお姉さんの目の前で着替えるのははずかしい。
ひなたの部屋に入って、姿見を探す。
あ、そういえばひなたの部屋には姿見はないんだった・・・。細かいところはあとでお姉さんに直してもらうとして、さっと着替えちゃおう。
しゅるしゅる・・・ ぽふっ
着ていたお洋服を脱いでひなたのベッドに置く。ひげろー、またあとでね。
すいっ すいっ ぽちぽち・・・ ふぁさぁ・・・
真っ白なレースのブラウスに袖を通して、ボタンをすべてとめる。
首元に青いリボンをつけるみたいだけど、これはお姉さんにやってもらおう。
髪の毛をブラウスの外に出して一息つく。
しゅるり・・・ きゅっ くいっ
濃紺のロングスカートをはいて、ちょっと太めのベルトをバックルに通す。
いつも思うけど、特になんの説明もなく簡単に着られちゃう。
でも、デザインはちょっと大人っぽい落ち着いたもので、上半身はレースでフリフリしたかわいい印象なのに、スカートはシュッとしてかっこいい。
前に、お姉さんに「撮ってください」って私からお願いをしたときの服に似てる。でも、細かいところだとリボンは赤じゃなくて青だったり、バックルがついていたりと完全に別のデザインだった。
早く姿見で見てみたい。そう思いながらお姉さんのお部屋に戻ると、今度はお姉さんはちゃんとこっちを見てくれた。そして、顔を赤くしながら早くもカメラを構え始めていた。
「お姉さん、ちょっと待ってください。この青いリボンつけてください」
「うん、いいよー おいで」
お姉さんにリボンを結んでもらう。ものの10秒くらいで、形の整った青いリボンが首元につく。本当、お姉さん器用だな・・・。
そのまま姿見で全身を見てみる。改めて今の私のサイズにぴったりだし、ぜんぜん窮屈じゃないのに背筋が伸びるくらいビシッとしたデザイン。いつものお姉さんの作るコスプレとは違って、落ち着いた大人の女性──お母さんみたいな──が着てるようなお洋服だった。
これも何かのコスプレなのかもしれないけど・・・そこは考えないようにしようっと。
「いい・・・」
「・・・お姉さん?」
「いいね・・・ いいよ花ちゃん。イメージ通りだよ・・・」
お姉さんがカメラを構えて、真っ赤な顔をしながら呼吸が荒くなっている。
あんまりお預けするのもかわいそうだから、撮影に入ろうかな。
私はいつもと同じように、その場でくるりと一回転すると、お姉さんを横目で見ながら右手を首の後ろに当てて、ちょっとあごを上にあげる。
撮り始めていいですよのサインだった。
パシャ パシャパシャ パシャシャシャシャシャ
「ひゅー! いいね花ちゃん! そうそこで両手を腰に当てて・・・ そう!」
「ちょっと床に座ってみて。スカートは周りに流すように・・・いいね! そのまま上目遣いで目線こっち・・・花ちゃんかわいいっ」
「今度はそのまま、伏し目がちに目線を下げて・・・ちょっと憂いのある表情でね・・・ ああ、最高!」
「次はそこの椅子に座って頬杖ついてみて。あ、花ちゃん立つの大変でしょ? 支えるからね。 うん、そう。これくわえて遠くを見つめて・・・」
最初だけ私の合図から始まったけど、あとはもうお姉さんのペース。
でも、ポーズの切り替えが無理な動きにならないから楽。立ち上がるときもお姉さんが手を引いてくれるし。
小道具のポッキーを受け取って、お口でくわえる。あんまりお行儀良くないけど、仕方ないかな。言われた通り、椅子に座りながら足をぷらぷらさせて、頬杖をつきながらポッキーをくわえて遠くを──窓から見えるノアの部屋を──見てみる。
ノアの部屋はカーテンが引かれていて、様子は分からない。今はひなたとデート中だろうから、部屋にはいないと思うけど。
なんだか、二人を無理にデートさせちゃったかも。ひなたは気にしなさそうだけど、ノアはどうかな。ひなたとおでかけとはいえ、予定にないことを強要しちゃったわけだし。楽しんでくれてるといいな・・・。
「いいよー イメージ通り! そのアンニュイな表情たまらないっ!」
あ、いけない。顔に出ちゃってたかも。でもイメージ通りならよかったのかな。
今日のお姉さんはどうやら元気で明るい感じより、ちょっと物憂げな様子を撮りたいみたい。大人っぽいお洋服だからかな。
いつもひなたとノアがいるときに、お姉さんの指示通りに動いて撮影されてるけど、それはやっぱり慣れないというかどうしても恥ずかしい。
だから顔をしかめたりすることが多いけど・・・。今日は二人きりだからかな。お姉さんの考えてる通りに動いてあげたいって気持ちが大きい気がする。
これも今日一日をかけた、「お誕生日プレゼントとしてお姉さんと二人きりの時間を過ごす」という計画の一部。
お誕生日パーティーのときにひげろーシャツと手作りカップケーキは渡したけど。今年の本命のプレゼントは、お姉さんと二人きりのときに渡したかったんだ。
でも、普通にお誘いするのは恥ずかしかったから、「ひなたとノアがいない時に仕方なくお姉さんと二人きりになる」ってシチュエーションを作り上げた。
お姉さんも、まさかお誕生日が過ぎた後に追加でプレゼントをするなんて絶対分からないだろうと思って今日この日にしたんだ。
ノアにはすぐ気づかれちゃったけど・・・お姉さんは鈍いというか朴念仁というか、あんまりそういうの気づかないから安心。
「ふぃー いやーいい写真いっぱい撮れて満足!」
「ふぅ・・・」
「花ちゃん、ありがとうね。すぐお昼の準備するから、休憩しててね」
「あ・・・はい」
私もお姉さんといっしょにお昼作りたかったけど、でもお姉さんの気持ちも嬉しいからこのままここで座ってようっと。
私はそのまま、お姉さんに呼ばれるまでの間。
お姉さんの甘い匂いのするベッドに横になりながら、カメラやミシン、壁にかかっている作りかけの衣装たちを見つめていたのだった。
05
お姉さんに呼ばれてリビングに降りると、テーブルがお皿でいっぱいになっていた。
「シュークリームがいいって言ってたから、お昼もフランス料理でまとめてみたんだ」
「すごい・・・」
コース料理みたいに一皿ずつ順番に出てくるのとは違って、色とりどりのお皿が所狭しとテーブルにひしめいている。これはこれで、レストランというより家庭料理みたいでほっとするかも。
でも、ナイフとフォークがいくつか並んでいて、ちょっと緊張する。
どれを使って食べたらいいのかな・・・。
「花ちゃん。お箸で食べてもいいよ?」
「え・・・ でも」
ナイフとフォークは両サイドに縦に置かれていて、お箸は私の目の前に横に置かれている。
フランス料理なのに、お箸で食べていいの?
「・・・お料理ってね、食材をおいしく食べてもらうためにするものなの」
「はい・・・」
「せっかく作った料理だから、あんまりお作法にとらわれないでおいしく食べてほしいな」
「・・・。それじゃあ・・・」
私は手を合わせていただきますをする。
お箸を手に取ろうとしたけど、このお料理だと最初はスープからになりそう。
視力検査で使うような大きなスプーンを手に取って、スープのお皿も近くに持ってくる。
すぃ・・・ つぅっ こくん
白っぽいスープに、パセリが浮かんでいる。よくあるポタージュスープかなって思ったけど、これはひんやりとした冷たいスープだった。
冷たいのに、じゃがいもの香りがお口からお鼻まで抜けていって、不思議な感じ。
じゃがいものスープだっていうのは分かったけど、でもぜんぜんざらりとしていなくて、口当たりは絹のようにやさしい。
お姉さんにかかるとじゃがいももこうなるんだ。すごいと思って顔をあげてみると、目を細めて私のことを見つめていたお姉さんと目が合った。
「・・・気に入ってくれた?」
「はい。すごくやさしいスープでおいしいです」
「ふふ よかったぁ。裏ごししたり、布でろ過したり、意外と手間のかかるスープでね。ヴィシソワーズっていうんだけど」
「びしそ・・・? ポタージュかと思ってました」
「そう思ってて大丈夫だよ。ヴィシソワーズもポタージュの中の一つだからね」
「そうなんですね」
お姉さんとお料理のお話をすることはあまりないけど、でもすごく楽しくてうれしい。
お姉さんが気持ちを込めて作ってくれたお料理をいただきながら、そのお料理を作ってるときのことを話してくれる。
とってもぜいたくな時間を過ごしているように思う。
チーン・・・
キッチンのほうでオーブンのような音がする。なんだろう?
「お、焼けた焼けた。取ってくるね」
お姉さんはオーブンのほうへ小走りで移動すると、オーブンを開けてなにやら取り出している。焼きたてのパンのようなとっても香ばしいにおいが立ち込める。
「はーい、あったかいパンだよ。薄めにスライスしてあるから、スープにつけたりお魚をのせて食べてね」
白いお皿にきれいに並べられたパン。フランスパンを薄切りにしたような感じで、軽くバターが塗られてパセリをかけた状態で焼かれてるみたい。茶色い部分が香ばしそう。
お姉さんに言われた通り、まずはさっきのスープにひたして食べてみる。
ひたひた・・・ あーん サグッ じゅわぁ
わ、すごい。そんなに硬くなくて内側がふんわりしたパンをスープにひたすと、パンがスポンジみたいにスープをたくわえてお口に運んでくれる。
パンがあったかいから、スープの温度が少し上がってさっきは感じられなかった香りが強くなった気がする。
じゃがいもと、これは・・・・・・おネギ?
「いい香りでしょ。ヴィシソワーズはポロネギっていうネギとじゃがいもを使ったスープなんだよ」
「香りまでぜんぶおいしいです。お姉さん、やりますね」
「でへへぇ・・・」
お姉さんは頭の後ろに手をまわして、「いやー」って感じのしぐさをしてる。顔も赤いしかわいいな。
そういえばさっき、お魚をのせてもいいって言ってたっけ。お魚って、これかな?
私は赤い皮と白い身のお魚を発見して、その真っ白なお皿ごと手前に引き寄せる。お箸でお魚を切ろうとしたけど、皮のところがカチカチになっててうまくいかなかった。
「花ちゃん、ちょっといい? このナイフで切ってあげるね」
お姉さんはナイフとフォークを使って器用にお魚を一口サイズに切り分けてくれた。お姉さん、ありがとうございます。
皮ごと切り分けてくれたから皮ごとぜんぶ食べるんだろうな。パンに一切れのせて食べてみようっと。
あーん カリリッ ジャグジャグ とろぉ・・・
「んん~~~、おいひい! なんへふかこれ」
「これは紅葉鯛のポワレ。この時季に獲れる鯛の切り身を、皮の部分を中心にカリッと香ばしく焼いたものだよ」
「これ、大好きです! 皮のところがザクザクで香ばしくて、でも白い身のところはしっとりとろりとしてて」
「うん。この時季の鯛は脂がのってるからね。こういうお料理にぴったりなんだ」
お姉さんのお菓子はいつも感動するくらいおいしいけど、お姉さんのご飯で感動したのは久しぶりかもしれない。
味付けはお塩とコショウだけみたいなのに、お魚がすごくおいしくて。ううん、お塩とコショウだけだから、お魚の味がとてもよくわかるんだろうな。ああ、これお母さんにも食べてみてほしい。
さっきのスープにもおネギが入ってたみたいだけど、さっきからテーブルの上のお皿にもおネギが乗ってるお皿があって。
いつも見かけるネギとはちょっと形が違っていて、なんというかこう、太くてまるっこい、かわいい形をしていた。
「今日はあとでシュークリームを食べるから、デザートは用意してないんだけど・・・」
「これ、ちょっと食べてみて?」
お姉さんはそのおネギのお皿をこちらに寄せてくれた。おネギの周りにスープが注がれているからこれもスープ料理みたいに見えるけど・・・
おネギの繊維にそって、お箸で切り込みをいれて一口サイズに。お口に入れてみる。
はくっ とるっ とるとる・・・とろ・・・
え、なにこれ・・・?
すごくやわらかい。溶けてなくなりそうなくらいやわらかい。
それに、味が・・・。お菓子より甘いかもしれない。
すごい。お姉さんがデザートのお話をしながら出してくれたのも分かる気がする。
「軽くコンソメで味はつけてあるけど、花ちゃんにおネギそのものの甘さを味わってほしくて。作ってみたんだ」
「ありがとうございます。おネギなので辛いのかなって身構えてましたけど、とっても甘く感じました」
「そうでしょ。ポワローのコンソメ煮っていうお料理なの。ポワローは西洋ネギといって、さっきのヴィシソワーズにも入っていたんだよ」
「さっきのスープはあんまり甘くなかったですけど、同じものが入ってるんですね」
「同じ食材でも、調理の仕方で変わってくるんだ。おもしろいでしょ」
お姉さんは、まるでこよりのような満足げなお顔をしている。そのお顔もかわいいな。
楽しい。お姉さんはいつもお菓子を作って運んできてくれるけど、食べるときは別々というか・・・離れたところから見ていることが多い。
こうしていっしょにおんなじものを食べて、食べているもののことを教えてくれながら食べるってことが、こんなにも楽しいことだったなんて。
これから先も、こうして、お姉さんといっしょに食卓を囲んでいけたらいいな・・・。
おなかもこころもあたたかくなるご飯を、お姉さんと二人きりでいただきながら。
穏やかで幸せな時間を過ごしたのだった。
06
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
おなかいっぱいになって、両手をあわせてごちそうさまをする。
お姉さんのいれてくれたアップルティーをいただいてまったりしながら、お昼ご飯を思い返す。食感がとっても楽しいものばかりで、するするじゃぐじゃぐとろり。おいしかったな・・・。
うっとりしながらお姉さんを見てみると、テーブルの向こう側で頬杖をつきながら私のことを見つめていた。
お姉さんに見られるのは慣れている。でも、二人きりでこういう近い距離だとやっぱり恥ずかしい。
いつもなら恥ずかしいので無理矢理怒ったような顔を作ってお姉さんをジトッと見返すんだけど、今日はなんだかちょっと違う気分。
自分のほっぺが赤くなってることを自覚しながら、ちょっぴり笑顔でお姉さんのことを見つめる。
「花ちゃんに全部食べてもらえて、うれしいな」
「・・・私も、お姉さんのおいしいごはん食べられてうれしいです」
「おいしく食べてるときの花ちゃん、やっぱりかわいかったなぁ・・・ふへへ・・・」
「・・・・・・」
またお姉さんが気持ち悪いこと考えてる。まったくもう・・・。
でも、よく思い出してみると、お姉さんはいつも二言目には「かわいい」って言ってくれるような気がする。
私はいつも笑顔でいることが少なくて、仏頂面をしているのは分かっている。だから、お母さんもおばあちゃんも言葉で「かわいい」って言ってくれることはあまりない。
もちろん、娘として、孫としてかわいいって思ってくれているのはすごく伝わってくるから、そういうものかなと思って特に不思議には思わなかった。
それなら、お姉さんは?
お姉さんは、私のことをどういう意味で「かわいい」って言ってくれてるんだろう?
「・・・お姉さんは・・・」
「うん?」
「私のこと、その・・・ よく、か、かわいいって、言ってくれます、けど・・・」
「うん」
あれ、なんでだろう。すごく恥ずかしいことを言ってる気がする。お姉さんの顔を見られない。
でも、今しかこんなこと聞けない気がして。お姉さんの白いシャツを見つめながらがんばってみる。
「ど・・・どういう意味で、かわいいんですか・・・?」
「意味、かぁ・・・」
真っ赤になってる私を前に、お姉さんは考え込んでしまった。
やっぱり、聞いちゃダメだったのかな。
顎に手を当てたり、手をおでこに当てたりしながら、目をつぶってうんうんうなっているお姉さん。でも気持ちは分かる。普段無意識で言ってることを改めて考えると分からなくなるもんね。
「・・・かわいいってことなら、もちろんひなたもかわいいし、ノアちゃんもかわいい。こよりちゃんもかのんちゃんも、それぞれかわいいから、みんなかわいいってことになるけど・・・」
「・・・そうですよね」
「でも・・・ ううーん・・・」
お姉さんはそのまま腕を組んで考え込んでしまった。
確かにみんな女の子だし、それぞれみんなかわいいのは私もその通りだと思う。かわいいっていうよりかっこいい子もいるけど。
「・・・花ちゃんは特別っていうか、なんだろう・・・」
「とくべつ・・・?」
「花ちゃんがね、最初にうちに来たとき。私は救われたような気がしたんだ」
「救われ・・・?」
「なんかこう、ドカーンと!」
「はぁ」
お姉さんはあのときのことを思い出しているみたいで、だんだんお顔が赤くなっていく。そして撮影の時のお顔になった。
「あぁ、天使だ・・・って・・・。花ちゃんはどうしようもない私に舞い降りてきた一筋の希望、天使なんだって思った」
「天使・・・」
「今動かなきゃ、今花ちゃんをつなぎ止めておかなきゃ、私の前から飛び立っていなくなっちゃう! そう思っていろいろがんばったの」
「・・・そうでしたか」
お姉さんがあれだけ積極的に、初めての人に声をかけたこと。それも「お友だちになりたい」と妹の友だちに迫ったこと。
そのどれもが、お姉さんにとってどれだけ普通じゃなかったか、どれだけがんばらないとできなかったことだったのか。確かに今ならよく分かる。
「・・・どうしてあのとき、あんなに必死だったんですか? ひなたの友だちならまたいつでも会えると分かってたと思うのに」
「どうしてかなぁ・・・。考えればその通りなんだけどね。でも、あのとき花ちゃんを一目見たら、胸がもにょっとして居ても立ってもいられなくなったんだ。花ちゃんとお近づきになりたい。そのためにはなんでもできる!って」
「もにょ・・・」
それ、ふつう「ひとめぼれ」って言いませんか・・・?
そう聞いてしまいたかったけど、なぜか言えなかった。
「違うよ?」ってさらっと言われるのが、こわかったのかもしれない。
「だから、あのときは「お友だちになりたい」ってことでがんばって花ちゃんとお近づきになって、その後お友だちにもなれたけど、本当はそうじゃなくて・・・」
「え・・・?」
「その・・・横に置いてたことを思い出したというか・・・」
「よこ?」
「と、とにかく! 私は花ちゃんのかわいいところを見られたらそれで満足だし、すごくうれしいんだ」
「・・・・・・」
「横に置いてたこと」が気になるけど・・・。
お姉さんのお話を聞いていて、最近私もおんなじだなってことに気がついた。
今もそうだけど、お姉さんが(私のことで)赤くなったり、(私のことを)かわいいって言ってくれることがすごくうれしく感じるし、それだけで満ち足りるような感覚になる。
それはまるで、お姉さんのプリンだけでおなかいっぱいになったときのような。そんな甘くて幸せな感覚。
もしかしたら私・・・・・・。
お姉さんのお菓子がなくても、お姉さんがいるだけで・・・?
07
ギッ・・・ すくっ
「・・・花ちゃん?」
「さて。行きましょうか」
「・・・・・・え? どこに?」
「前に二人で行ったベンチのある公園です。さぁ着替えてください」
「えぇ~~~ やっぱり行くの~~>ミ」
この想いを確かめるには、あの場所に行くのが一番。
そんな根拠のない確信が胸に芽生えて、私は立ち上がった。
「で、でも、着ていく服がないし・・・」
「この間のお誕生日会の時にみんなからもらったものがあるじゃないですか。あれを着てください」
「えっ あれを!?」
テーブルの上の紅茶セットをシンクのお水につけるだけつける。洗うのは帰ってきてからで。
イヤイヤをしているお姉さんを引っ張って二階のお姉さんのお部屋に連れて行く。
みんなからのお誕生日プレゼントはまとめて同じ引き出しに入っていたからすぐに見つかった。
私のあげたひげろーシャツ。
松本さんからもらった黒いジャンパースカート。
ひなたとノアからのシルバーのアクセサリ。
これに前に私があげたペアのヘアピンをつけてもらおう。
「この☆型のメガネつけて外に行くのはちょっと・・・」
「これは・・・無理につけなくてもいいですよ。ひなたいないですし」
「あはは・・・ そうだね」
「でもちゃんとネックレスはつけてあげてくださいね」
「う、うん」
お姉さんにぜんぶ身につけてもらったら、ちょっとひげろーシャツが子どもっぽいような気がする・・・。どうしようかな。
押し入れの中のお姉さんの衣装が入ってる箱を開けて眺めてみると、ちょうどよさそうな長袖シャツを見つけた。
薄手のフリースのようなベージュの長袖の上着。これなら黒いジャンパースカートでも合うような気がした。
「・・・うん。花ちゃんいいチョイスだね」
「ありがとうございます。ひげろーが隠れちゃうのが残念ですけど」
「いや、そこも含めていいチョイスだよ。うん」
「そうですか・・・」
何となくもやっとするけど、お姉さんが気に入ってくれたのは素直にうれしい。
私も並んで姿見で見てみる。うん。二人ともいい感じじゃない?
「・・・お姉さん、きれいですね」
「あ、ありがとう・・・。花ちゃんもよく似合ってて、か、かわいいよ・・・?」
お互いにちょっと赤くなって。でも、今度は目を合わせながらほほえむことができた。
ここまできれいだと、もっとすごいお姉さんを見てみたくなる。これ以上ないってくらい、きれいなお姉さんを。
「お姉さん。せっかくなのでお化粧もしましょう」
「えぇ・・・ うーん、じゃあ三分だけ待ってもらえる?」
お化粧って、三分くらいでできるものなの?
お姉さんはいつもの作業机のところに座ると、お化粧の道具と小さな鏡を取り出してゴソゴソしはじめた。
やっぱり、何か集中しているときのお姉さんは見ていて飽きない。ずっと見ていたくなっちゃう。お姉さんはさらりとしたお水みたいなのでお顔を洗って拭き取ると、肌色のクリームをお顔につけてぬりぬりしている。
肌色の朱肉?みたいなのを取り出してスポンジみたいなものにつけて、お顔にするすると塗ってる・・・と思ったら今度はまゆげをえんぴつみたいなものでささっとなでてる。
ほっぺにもピンク色のクリームみたいなのを塗って、薄い桃色のリップクリームもささっと唇に塗って。
カタ・・・ パコン
「・・・うん、完成。花ちゃんお待たせ」
「あ・・・ いえ・・・」
お姉さんの仕草に吸い込まれそうになっていた私は、お化粧道具をしまう音で現実に戻ってきた。
ぜんぜん待ってない、というか見とれちゃってて時間分からなかったけど、たぶん三分もかかってないんじゃないかな。
お姉さんがこっちを向く。さっきまでもすごくきれいだったけど、なんだろう。劇的に変わったと思う。
きれいだったお姉さんが、美人になってる・・・。お化粧ってすごいんだな・・・。
お肌もさっきより透明感があって食べちゃいたいくらいだし、唇も桃のゼリーみたいで食べちゃいたい。すごく甘いと思う。
すごく、ドキドキしてきた。前にお姉さんが松本さんにお化粧されてたときとおんなじようなドキドキだけど、もっと強いような。
「お化粧教わったからちょっとならできるよ」って言ってたお姉さん。こんなすごいお化粧を数分でできちゃうなんて、やっぱりお姉さん器用なんだな・・・。
「・・・大丈夫?」
「う、あ・・・ 大丈夫、です。行きましょうか」
すごく美人さんになったお姉さんといっしょに部屋を出て、階段をおりていく。
お姉さんが先におりて、私の手を取り支えてくれる。ロングスカートをはいている私のことを気遣ってくれるお姉さんに、胸がもにょっとする。ほっぺがさっきから熱い。
「・・・・・・あ」
玄関で靴をはこうとして・・・はっと気がついた。
私、いつもの運動靴で来ちゃってた────。
せっかくのきれいなお洋服なのに、合わないかも。
せっかくのお姉さんとのお出かけなのに。
せっかくお姉さんがこんなに美人さんになったのに。私・・・っ
「花ちゃん」
私がうつむいていると、お姉さんが声をかけてくれた。
泣きそうになりながらお姉さんのほうを振り向くと、お姉さんが何かを両手でうやうやしく持ってきてくれた。
「・・・こ・・・れ・・・?」
それは今の私のお洋服にぴったりの、黒い革製のブーツだった。
お姉さんはそれをささっと私にはかせてくれて、ほほえんでくれた。
まさか靴まで用意してくれていたなんて。
本当に・・・もう。
どうしてお姉さんは・・・いつもそうなんですか。
ふわっ きゅぅ・・・
「は、花ちゃん!? ど、どどどうしたの?」
「・・・なんでもないです・・・」
お姉さんはいつもいつも、私が困ってるときに助けてくれる。
それは、お姉さんにとってはとても大変なことのはずなのに、私のためにしてくれる。
想いがあふれちゃいそう。でも、まだもうちょっとがまん。
「・・・ありがとうございます。靴まで用意してくれて」
「・・・うん。おでかけしたいんだなって分かったから、揃えちゃったんだ」
新しい靴。でも、足が当たって痛いとかきついとかまったくなくて。
革靴なのに、まるで私に合わせて作られたようなフィット感だった。
「足、痛くない?」
「はい。歩いてみないと分からないですけど、今は大丈夫です」
「軽くもんだりしてほぐしておいたからね。途中で痛くなったらおんぶしてあげるからね」
「子どもあつかいしないでください。それに・・・」
「うん?」
それに、おんぶじゃなくてお姫様だっこがいいです。
なんてことは言えないからごまかさなきゃ。
「・・・お姉さんも黒い靴でおそろいですね。似合ってますよ」
「あ、うん。ありがとう」
「じゃあそろそろ行きましょう」
おうちの中だとお姉さんへの想いで窒息しそうだった私。
お姉さんの手を引いて、いつかのシュークリームデートのときのように明るい陽の光の中へ飛び出していった。
08
道ばたに咲いているコスモス。あのときとおんなじだな・・・。
お姉さんと並んで歩きながら、そんなことを思う。
あのときのお姉さん、迷子になってたっけ。それで恥ずかしいけどそのあとずっとお姉さんと手を繋いでいたんだった。
はしっ ぎゅむ
「え えっと、花ちゃん? その、て、手が・・・」
「・・・今日も迷子になられると困るので、最初から手は繋いでおきますからね」
「はっ、はい」
なんて。お姉さんと手を繋ぎたかったから繋いでるだけ。去年の迷子騒動があったから、自然と口実にできちゃった。ふふ。
長瀞で私がなくした髪飾りをお姉さんが一緒に探してくれたときも、私がお姉さんの手を引いて道案内をしたっけ。
大切な髪飾りをなくしてしまって、心細かったあのとき。お姉さんに触れていたかったのが本当の理由だった。
お姉さんの手、今日もあのときとおんなじであったかいな・・・。ひなたは熱いくらいだけど、お姉さんはもうちょっと穏やかなあたたかさで。
触れているとなんだかここちよくて落ち着く。今日はそんなに寒くはないんだけど、ずっと触れていたくなる。
「・・・懐かしいね」
「そうですね。去年はここに二人で買いにきましたね」
「うん。・・・あれからもう一年経つんだね」
去年、お姉さんについてきてもらった「限定30個のシュークリーム」のお店。今年も大盛況みたいで、多くのお客さんがお店の前で並んでいた。
お店の中を見てみると、見慣れた人影が。ぴょんぴょんしている赤色の髪と、ゆらゆらしている亜麻色の髪が、楽しそうに寄り添っていた。
「かの、今年は買えるといいわね!」
「そうだねー」
「まぁ、買えなくてもかののシュークリームの方がおいしいからいいんだけどね!」
「・・・! よりちゃん、ありがとう。えへへ・・・」
それをお店の中で言っちゃうの? と思って冷や冷やしたけど、並んでいる他のお客さんもお店の人も二人の様子に自然と笑顔になっていた。二人のふりまく幸せなオーラを感じて、私もお姉さんと顔を見合わせて笑顔になる。
かのんとこよりはお互いに想いが通じ合っていていいなって思う。
この間お姉さんのおうちで「かのに愛してるって言うなんて、当たり前のことだから恥ずかしくないわよ?」と真顔で言い切ったこより。あのときのかのんの幸せそうな顔は今でもはっきり覚えている。
たまにこよりはずれてることあるけど、二人ならきっとこの先も大丈夫だと思える。
いいな・・・。二人がうらやましい。
「ここだね」
「・・・ここですね」
大きな通りの横断歩道を渡った先に、その公園はあった。
去年、ここのベンチでお姉さんに「プロポーズ」をされた。
あのときの私はよくわかっていないまま、お姉さんのおいしいお菓子をこの先もずっと食べられるんだって考えて「よろしくお願いします」ってお返事したけど・・・。
あれから一年経って、いろんなことがあって、いろんなことを考えた。
文化祭や運動会に無理をして見に来てくれたお姉さんのこと。不審者みたいに捕まってたりテンション高すぎて騒ぎになってたけど、「私のことを見たい」ってお姉さんの気持ちが伝わってきたから内心ちょっぴりうれしかった。そこまでして来てくれたんだ、ってことが。
みんなで行った長瀞旅行でお姉さんにひざまくらをしたり。起こさないように意識してたら体がこわばっちゃったけど、あったかくて甘いにおいがしてたのをよく覚えている。
町中で着ていたみんなお揃いのお洋服。きっとお姉さんは徹夜で仕上げたんだろうな。普通のお洋服でよかったのに、どうしてお姉さんはあそこまで頑張れたのか、ってこととか。
かのんとこより、ひなたとノアの「なかよし」を越えた熱い関係についてもよく考えてみたりした。
そして思い出した、小さい頃に話してくれた桜おばあちゃんたちの生き方。
「・・・。・・・・・・」
私は・・・。私の答えはもう決まってる。それを今お姉さんに伝えよう。
でも問題は「伝えた後」なの。
コトン パコ ペコ
「花ちゃん、シュークリーム出したよ。食べる?」
「ありがとうございます。でも・・・、その前に」
その前にやることをやらなきゃ。
ベンチに座るお姉さんの正面に立って、お姉さんを見つめる。去年と対になる形で。
今、私はどんな顔をしているんだろう。固い決意の元に、怒ったような顔になってるのかな。それとも、お姉さんのこたえが分からなくて不安で、泣きそうな顔になってるのかな。
分からない。その両方が入り交じって、よく分からない顔になってるのかも。
そんな私に見つめられたお姉さんは、何かを感じ取ったのかひざの上に置いたシュークリームの箱をベンチに下ろして、私を見つめ返してくれた。
お姉さんと目線の高さがおなじになる。
「・・・私は、お姉さんがおうちを出ても、出なくても、このさき一生お姉さんのお菓子を食べ続けたいです」
「花ちゃん・・・」
「まぁ、お姉さんは私といっしょ、に ケーキ屋さん開くので、おうちから出ることになると、思いますけど、・・・ね」
軽い口を叩いてリラックスしようとするけど、言葉の端々がふるえているのがわかる。
「だ・・・、だから、だから・・・っ」
ダメだ。涙出ちゃう。
泣き落としなんてしたくない。
私とお姉さんは年は離れてるけど、対等なの。
まちおばあちゃんと桜おばあちゃんのように。
だから、泣きやめ私・・・!
「わ、わだし、お姉さんのこと・・・この一年で、好きに・・・うぅ・・・」
「好きに、なっちゃいました・・・っ!」
言えた。
短いけど、今の私の本当の気持ちを。
「キライじゃない」じゃなくて「好き」だと、やっと言えた。
去年のベンチでの「プロポーズ」から、ことあるごとにお姉さんのことを考え続けてきた。その結果を、実った想いを、伝えることができたんだ。
言われたお姉さんはぽかーんとしたお顔をしていた。10秒くらいしてからお顔が真っ赤になってきて、目がぐるぐるし始めて、そして両手でお顔を隠しちゃった。
そのまましばらく待っていると落ち着いたのか、お姉さんのまゆが八の字を描く。そしてとても悲しそうなお顔で私のことを見上げた。
「花ちゃん・・・。ごめん。・・・ごめんね・・・」
「・・・・・・え・・・?」
え・・・?
ごめんねっ・・・て・・・
そんな、お姉さん・・・・・・。
09
目の前が真っ暗になって、今にも崩れ落ちそうになる。
そんな・・・。これって、お断りってことだよね。
お姉さんの顔を見られない。
私、お姉さんに好かれてると思ってたけど、それはただの・・・。
「ごめんね、花ちゃん。本当は私から言わないといけないことなのに」
ただのうぬぼれで・・・
って、あれ?
お姉さん、今なんて?
「私、花ちゃんを最初に見たときから、好きだったの」
「去年もここで、ごまかしながら「ずっと一緒にいてほしい」って伝えたけど、私の気持ちは最初からずっと変わってないんだ」
「好き、です。これからもずっと一緒にいて・・・一緒にいさせてほしい、です・・・!」
────────
ひゅう、と風が吹いて。
濡れたほっぺが、ちょっとだけ冷たくて。
目の前には真っ赤になって涙をにじませながら私を見つめるお姉さんがいて。
そして、公園には他にだれもいなくて。
二人きりで。
タッ ばふっ ぎゅう
「は、花ちゃん・・・!」
「うれしい。うれしいです・・・。好き 好きです。お姉さんのこと」
「花ちゃん、私も大好きだよ・・・!」
お姉さんも私も泣いていた。
お姉さんは私に抱きしめられるままになっていたけど、私のことを抱きしめてはくれなかった。
「お姉さん。ぎゅっとしてください」
「い、いやぁ お外でそれすると捕まっちゃうから・・・ね?」
知ってる。そういうキマリがあるんだってこと。
だからお姉さんはこれまで一度も自分から私に触れてくれたことはない。クレープ食べてたときにぐいっとほっぺ拭かれたくらい。
でも、「年の差なんて愛には関係ない」ってみんなが思ってることも知ってる。
それなら、そんなキマリは純愛の邪魔にしかならない。
私がまだ子どもだから、間違った判断するかもしれない。私を守るためにあるキマリなんだというのも知ってる。
でも、もう一年間もじっくり考えたの。だから私は、間違った判断だなんて思ってない。
「・・・今、ここには誰もいないんですよ?」
「う、うん・・・」
「防犯カメラありますけど、それは「事件」になったら必要になるものですよ?」
「うん。だから」
「私がいいと言ってるんですから、事件にはならないですよ?」
「そ、そうかもだけどぉ・・・」
分かりました。お姉さんはたぶん勇気が出ないだけなんですよね。
それなら、対等の私が、お姉さんを導かないと。
ふらっ・・・・・・
体の力をぜんぶ抜いて、お姉さんから離れるように地面に倒れ込もうとする。
「あっ あぶっ!」
ぎゅうっ
でも、お姉さんが抱えてくれて、私の髪の先端がちょっと地面を擦ったくらいで痛い思いをすることはなかった。
「・・・やっと抱きしめてくれましたね。もっとお姉さんのあったかさ感じたいです」
「うぅ、うん・・・」
お姉さんは真っ赤な顔をしながら私のことを抱きしめてくれた。
うれしい。どれだけこのぬくもりがほしかったことか。
やさしくて、あったかくて、とても甘いにおいの抱擁。
「・・・これからは、花ちゃんがしてほしいときに、ちゃんとしてあげるから」
「だから、お願いだから、危ないことはしないで。花ちゃんに何かあったら、私もう・・・!」
「ごめんなさい・・・。でも、うれしい・・・!」
本当に大事なものをあつかうように、私のことをやさしく包み込んで号泣しているお姉さん。試すようなことをしてごめんなさい。
本当は透き通るようなその桃のゼリーも食べてみたかったけど。
お姉さんにぎゅっと抱きしめられていたから、それはできなくて。
でも、ひだまりのようにじんわりあたたかいお姉さんの抱擁だけで、今は他になにもいらないような気がした。
10
「いただきますっ」
「はい、花ちゃん。あーん」
「あーーーーーーーーーんっ」
かふしゅっ とぅろ にゅむにゅむ・・・
落ち着くまで抱きしめてくれていたお姉さん。私の涙をきれいに拭き取ってくれて。
今はお姉さんの左に座って、お姉さんに寄りかかりながら、お姉さん手作りのシュークリームを食べさせてもらっている。
「んん~~~~~・・・ おいひぃでふ」
「よかったぁ。今日はいろんな味のを作ってみたからね」
シュークリームはそんなに大きくなくて、二口サイズくらい。
最初のはカスタードクリームのオーソドックスなものだったけど、バニラビーンズの黒いぽつぽつが目立つ、ふくいくとしたいい薫り。
「次はこれかな。はい、あーん」
「あーーーーーーん」
サクぷりっ ぷるとぅる どゅるサク
「~~~~~! これ、ぷりゅんふぇすね!」
「ふふ、あたり。こぼれないように固めのプリンとカラメルソース、生クリームが入ってるよ」
もう芸術作品みたい。パイ生地みたいにサックリとしたシュー生地は上下半分に切られていてその間に中身が入っている。上半分の生地がフタみたい。
生地・プリン・カラメルソース・生クリーム・生地 の順ではさんであって、プリン・ア・ラ・モードそのものだった。
パイ生地だからしっかりしていて、水っぽい中身でもふやけて破れたりしていない。すごくよく考えられてる・・・。
お姉さんが水筒から注いでくれたあたたかいほうじ茶でお口の中をリフレッシュする。カスタードクリームもプリンもバニラの香りが強かったけど、それぞれの違いはちゃんと分かった。たぶん、食べさせてくれる順番にも意味があるんだろうな。
「小さめだからまだまだあるよ。次はこれ」
「なんだか黒っぽいですね。あーーーーんっ」
サクコリッ ザクサクコリッ コリッ
「ふぉれは・・・ ふっひー、ですか?」
「そう。シュー生地にココアを入れて固めに焼いてるから生地がサクサクになっているのと、中にはチョコチップクッキーのイメージでココアクリームとキューブ状のチョコクッキーが入ってるよ」
「やっぱり、生地もぜんぶ違うんですね」
「うん」
お姉さんはさも当然といったお顔をしている。これ作るのにどれだけ時間かけたんですか・・・。
でも、その手間のおかげでそれぞれの中身にぴったりのシュー生地になっていたと思う。カスタードのは普通のふしゅっとしたシュー生地、プリンのはサックリとしたパイ生地、チョコクッキーのは生地自体がクッキーみたいにザクザクで。
こういうのをケーキ屋さんで、ケーキの隣に並べてみたいな。
お姉さんといっしょに開く予定の、二人のケーキ屋さんで。
「・・・ふふ」
「花ちゃん?」
「どれもとってもおいしかったです。お姉さんも食べましょう」
「うん。いただこうかな」
はしっ
お姉さんが箱から取り出したシュークリームを私が取り上げる。
そして────。
「ん?」
「はい、あーん」
「う、うぇぇ、は、花ちゃん!?」
「お口開けてください。じゃないと私が食べちゃいますよ」
「うぅ あ、あー・・・ん」
ぱぷっ
はじめて、私からお姉さんに「あーん」をした。
なんだか、胸の奥に灯がともったような感じ。悪くない。
このシュークリームはお姉さんが作ったものだけど。
食べてもらえるって、こんなにうれしいものなんだ・・・。
ちょっとだけ、お姉さんの気持ちが分かった気がした。
「・・・うん。今日もおいしくできてた。よかった」
「・・・・・・」
お姉さんは私を見つめてほほえんでくれた。
さっき灯った胸の奥の熱が、まわりに広がっていくように感じて。
あぁ、これが「好き」ってことの実感なんだな・・・。
私はそのまましばらくお姉さんを見つめたまま、予想外の胸のときめきとここちよさにひたっていた。
11
西日が射すにはまだもうちょっと早い時間帯。
でも誰もいない公園には冷たい風が吹き始めていた。
「・・・ちょっと寒くなってきたね。そろそろ帰ろうか」
「・・・・っ。・・・・・・・・」
私とお姉さんは両想い。今日はそれがはっきりして、泣きそうなくらいうれしい。実際泣いちゃったし。
でも・・・。
私とお姉さんの場合、それだけじゃどうにもならないことがある。
そう。「女の子同士」ってところ。
ノアもかのんも言葉には出さないけど、将来のことを考えるとき絶対にぶつかっているはずの壁。
誰にも──それこそお相手の子にすら──気軽に相談できないこと。そのくらい考え始めるとゆううつになるような、そんなことがら。
「お姉さん」
「うん?」
ベンチから立ち上がって、お姉さんの正面へ。
想いが通じ合った今だからこそ、はっきり伝えておきたい。
そうじゃなきゃ、この先お姉さんが後悔するかもしれないから。
──── 普通の人には普通じゃない、私にとっての普通。
──── この先も普通であるために、今決断しなきゃ。
──── でも、していいのかな。奪っていいのかな。
──── だから委ねよう。この人に。
──── 世界で一番大切な、この人に──。
「もしこの先・・・」
「お姉さんが誰か男の人と結婚するとしても」
「私との約束、守って・・・くれますか?」
これはお姉さんのため。
おばあちゃんやお母さんたちみたいに、異性と結婚した方が幸せだと考えるときがくるかもしれないから。
それから、お姉さんのほうが年上だから、お姉さんに決めてもらいたい。
私とお姉さんは対等だけど、最後の最後の決断は私じゃなくてお姉さんに────。
「・・・花ちゃん」
「はい・・・」
ずるいって分かってる。
逃げてるだけかもしれない。でも・・・。
でも私は、お姉さんに後悔してほしくない。ただそれだけなの。
「・・・そこに触れてくれてありがとう。そこまでちゃんと考えてくれて、ありがとう」
「お姉さん・・・」
「私のために言ってくれてありがとう」
「いえ・・・」
「でもね」
すっ・・・
ベンチに座ってるお姉さんは、そのまま私に両手をさしのべてくれた。
私が言わなくても、お姉さんの方から私を抱きしめようとしてくれている。
私はなにも考えることなく、甘い蜜に引き寄せられる蝶のようにお姉さんに吸い込まれていった。
ぽふっ・・・
「私は、花ちゃんを離さない」
「捕まえておかないと飛んでいってしまうかもしれない天使のような花ちゃんだもの」
「花ちゃんがいない生活なんて、もう私には考えられないよ」
「そんな私が、花ちゃんを捨て置いて誰か他の人を愛するなんて、できると思う?」
「お姉さん・・・」
もぞもぞとして、お姉さんのお顔を見上げてみる。
お姉さんは────泣いてはいなかった。
それどころか、いっさい、なんの感情も感じられないお顔で。
怖いほど力のこもった左目が、私のことを見つめていた。
「・・・もしこの先、私が花ちゃんと別れることがあるとしたら、それは」
「・・・それは・・・?」
「おばあちゃんになって、私の方が先に寿命で亡くなるときだけだよ」
──── おばあちゃんになっても、いっしょだよ ────
「おねえ、ざん・・・ うぅ・・・ ごべんなざい・・・」
「うんうん・・・いいんだよ。ありがとう・・・」
「花ちゃんが舞い降りてくれなかったら、私はきっと一生独りだったと思う」
「花ちゃんと両想いだって分かった今なら、なんでもできる気がするんだ」
「もし女同士ってことで何か言われても、私が花ちゃんを守りきってみせるから」
「花ちゃんと開くケーキ屋さんも、どうせやるならとってもおいしいって評判のお店になるようにしてみせるから」
「だから、どうか私のことを捨てないで・・・私の天使として、これから先の人生を一緒に歩んでほしい」
はっとする。
私はお姉さんのためを想って言ったけど、それはお姉さんから見れば「私に捨てられる」ってことでもあって。
自分が捨てられてもかまわないって気持ちしかなかったけど、そうだよね。
やっぱり私はまだ子どもなんだ。そんなことにも気づけなかったなんて。
しゅるり・・・ とんっ
お姉さんの心地よさからちょっとだけ離れて、ベンチに膝をついて。
あったかいお姉さんのほっぺを両手で包んで────。
ちゅぷ ちゅう・・・
その透き通るような桃色のゼリーを。
燃えるように熱くなっているお姉さんのくちびるを口に含んで。
今日、一番甘くて大事なスイーツを、大切に大切に味わったのだった。
エピローグ
1月28日 日曜日
ガタン ゴトン ガタン ゴトン
ポォーーーーー・・・・・・・・・
ガタン ゴトン・・・
年が変わって、1月。
花さんとみやこさんは二人きりで汽車に乗っていました。
ガタン ゴトン ガタン ゴトン・・・
ゴーーーーーーー・・・
トンネルに入り、真っ暗になると、去年の9月からのことが思い出されます。
あの公園で愛を誓い合ったあの日以降、いろいろなことがありました。
まずあの日、帰り道に花さんのお母様へご報告に行きました。
あのときのみやこさんの「む、むむ、娘さんを、くだひゃい!」という切羽詰まった声は、今でも花さんの耳に残っています。
白咲家ではお母様があまりの吉報に泣き崩れてしまい大変でしたが、お互いに改めて「よろしくお願いします」とご挨拶を交わしました。
10月に入ってから、みやこさんのお母様の鶴の一声で関係者全員が集まり、みなさんへの報告会が開かれました。
みやこさんはしどろもどろになりながら、お隣に控える花さんの為に精一杯頑張り、見事にひとりですべてのご報告をすることができたのでした。
その後、みやこさんは大学に通いながら経営の勉強も進めました。現在もお勉強中ですが、今後開業するために必要となる資格・許可証をひとつずつ取得していくことでしょう。
花さんは中学校に上がる準備をしながら、これまでよりも真剣にみやこさんのコスプレに袖を通し、ノアさんに立ち居振る舞いを指導してもらっています。
そしていろいろな場所のケーキ屋さん巡りをみやこさんと共にし、おいしいケーキをいただきながら将来のお店のアイデアを二人で語り合うことが週末の楽しみになっていました。
【──次は長瀞、長瀞です。お忘れ物のございませんようご注意ください──】
車内のアナウンスで我に返った花さんは、隣に座るみやこさんを見上げました。
みやこさんは真っ青なお顔をしており、緊張のためかぎゅっと目をつぶってうつむいていました。
「・・・緊張してるんですか? お姉さん」
「う、うん・・・ほら、一昨年の夏に会ったきりだから・・・」
「そうでしたね。でも大丈夫ですよ。お姉さんは甘いですけど取って食べられたりは・・・」
「・・・?」
「・・・しないはずなので。おばあちゃんも甘いの大好きですけどね」
「ひぃぃ~~>ミ」
冗談のつもりで言った花さんでしたが、みやこさんにその余裕はなさそうでした。
「・・・去年の10月、みんなに報告したときのこと、覚えてますか?」
「う、うん。あのときも緊張したな・・・」
「あのとき、みんな私たちのこと祝福してくれたじゃないですか。おばあちゃんもきっとおんなじですよ」
「ど、どうかなぁ・・・ 厳格な方だから・・・」
「お姉さんから言えそうにないなら、私から言いますよ。どうします?」
花さんはそう伝えると、ずっと握っていたみやこさんの手を少しだけ強く握りなおしました。
真冬だというのに、みやこさんは大汗をかきながら花さんの目を見つめます。
「・・・ううん。これは、これだけは、私が言わないといけないと思うから」
「よかったです。まだその気持ちはあったんですね」
「で、でも、花ちゃん、その間手を繋いでてね・・・
>ミ」
「はい」
キキィーーーーー・・・
プシューーーー
【──長瀞~ 長瀞~ です。 ご乗車お疲れさまでした。お出口左側です──】
電車から降りると曇天の寒空が広がっており、雪は降りそうにありませんが冷たい風が吹きすさんでいました。
その冷たい向かい風を受けて、寒さに弱い花さんは身震いしました。
しかし、それを見たみやこさんは花さんの前に出て、自らの体で冷たい風を遮りました。
手を繋いでいますので、さながら小依さんに手を引かれる夏音さんのような状態に。
自分たちを小依さん夏音さんと重ね、笑顔になる花さん。
自然と自分をかばってくれたみやこさんに、これから先何があっても自分たちは大丈夫だと気持ちを強く持ちました。
←クリックするとBGMが流れます。
「お姉さ・・・ いえ、みやこさん」
二人の、甘く厳しい道は、まだ始まったばかり。
「ん、んん? なぁに? 花ちゃん」
この先数多の困難が二人を待ち受けていることでしょう。しかしながら、周囲の理解ある天使たち、保護者さまがいればきっと大丈夫。
「これから先も、よろしくお願いしますね。未来の私の王子様」
「えぇ・・・ 花ちゃんが王子様だと思ってた・・・」
「何言ってるんですか、まったく」
そう。二人なら。
この二人なら、何があろうと乗り越えていけると信じて。
「ほら、行きますよ」
「う、うん。がんばろう」
「終わったら、おばあちゃんのところで何か甘いもの作ってください」
「そうだねぇ。お台所お借りしちゃおうかな」
「やった! そうと決まれば急いでいきましょう」
「あっ 花ちゃん、待って~~~>ミ」
白く輝く息を弾ませる天使に手を引かれ、導かれるみやこさん。
もう先ほどのような不安を感じることはありませんでした。
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これまでの彼女たちは────
ある日、みやこさんに天使が舞い降りました。
飛び立って行かないよう必死に繋ぎとめたあの日を境に、生活が一変しました。
無垢な天使は、みやこさんのよいところ、悪いところを見つめ、そして気づかぬうちに胸に愛を芽吹かせました。
等しき目線にて共に暮らすうち、お互いに大切なことに気づいてゆきました。
それぞれがより距離を縮めるために、前進と後退を繰り返しゆっくりと成長してきました。
いまの彼女たちは────
芽吹いた愛は大きな花を咲かせました。
先に動いたのは天使でした。そして、天使の想いをしかと受け止め、みやこさんも覚悟を持ちました。
将来のことを共に語らい、芽吹いた愛を燻らせ、ゆわえ、なじませ、定着させていきました。
そして、これからの彼女たちは────
みなに祝福されながら、大切なお相手のことを常に想い、慈しみ、愛に満ちた日々を形作っていくことでしょう。
お互いに手と手をたずさえ、新しい世界へと飛び立ってゆく天使たち。
苦手なところ、得意なところを認め合い、常に二人で吹き荒れる強風を上手に乗りこなしてゆくでしょう。
天使たちの歩み進める道に、幸多からんことを。
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── いまの私たち。そして、これから。 完結 ──
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