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■本作について

 本作は当ミスリルHPにあります「隊員専用BBS」におきまして、2020年3月27日~2020年5月9日の期間に私DOSANが投稿したお話となります。

 ※リネージュ2内での同盟チャットを使用して織り成される天使たちの即興劇とは異なり、オフラインで推敲を重ねたごく普通の二次創作小説となります。

 こちらの「天使たちの物語展示場」のこの位置(小之森夏音さんの『あの子を振り向かせるには』のひとつ上)に掲載しました理由としては時系列的に正しいというだけではなく、これ以降の天使のみなさんの作品『あの子を振り向かせるには』『天使の涙の、その先に。』は本作『わたてにんぐ☆オペラ』の内容を前提とした展開やギミックがあることから、この2作品の前に載せるべきであろうと判断した為です。小依さん、夏音さん。お二人の作品の間に割り込んだ形となってしまい申し訳ございません。
 (私が天使のみなさんに触発されて趣味で書いた本作が、思いの外「オリジナル」である天使のみなさんに大きな影響を与えているという誤算から、本来掲載予定になかった本作を急遽ねじ込む形となりました)

 ※お絵かきサイトであるpixivにも本作はDOSAN名義で投稿しております。 (pixivでのDOSANページ)
  pixivでの本作は「えんじぇりっく☆オペラ」というシリーズ名で投稿しておりますが、内容は同じです。

 これまではリネージュ2内において本作を薦めていただける場合はpixivに誘導をお願いしておりましたが、pixivはアカウント登録必須となることから敷居が高いというご意見をいただきました。
 今回、こちらのページを急遽作りました背景にはそのような事情がありましたが、個人的にはpixivでなくとも多くの方にお読みいただけるならステージは問いませんので前々からこちらにも掲載すべきとは思っておりました。
 背中を押していただけて、ご意見に感謝しております。ありがとうございます。


■おしながき

 01.グラン・マルニエシロップ(三人称神視点客観型)
  生地に染み込ませるオレンジリキュールシロップ。主に暖色系のひなたさんと乃愛さんが主役となるお話です。

 02.ガナッシュ(散文詩)
  オペラケーキのベースとなる味。生チョコレートを用いたガナッシュは、わたてんという作品における小依さん夏音さんのようにオペラケーキに盤石な安心感と安定感をもたらします。

 03.コーヒーバタークリーム(一人称小説)
  香ばしいコーヒー風味のバタークリームです。お名前の「香子」という文字が表す通り、物語におけるスパイシー担当の松本香子さんのお話です。コーヒーのように、目の覚めるような活躍が期待されます。

 04.ビターチョコレート(一人称小説)
  オペラケーキ全体を覆うビターチョコレート。ほろ苦い漆黒のチョコレートでコーティングされた艶やかなオペラケーキは大人の味わい。花さんとみやこさんによるほろ苦いお話です。

 05.オペラケーキ(三人称神視点客観型)
  「オペラケーキ」とは、薄いスポンジ生地にグラン・マルニエシロップを染み込ませ、生地と生地の間にガナッシュクリームとコーヒーバタークリームを塗り重ねて作ります。
  その層は7層であることが多く、7層の味わいが渾然一体となるオペラケーキのように全員参加のお話であり、それまでの章がすべて結実するまとめのお話。

 ※自身の文章力向上の為に、章ごとに人称などスタイルを変えております。一人称、三人称、散文詩など一体感がないと感じられると思いますが、何卒ご了承ください。






01 「グラン・マルニエシロップ」



 ■作品イメージタグ■
  #私に天使が舞い降りた! #わたてん! #星野ひなた #姫坂乃愛 #白咲花 #ひなノア #三人称神視点客観型



「ヒナタちゃん……。ミャーさんにどんな風にキス、されたの……?」

それは、乙女の矜持。

「なぁ、ノア」
「ん? なぁに? ヒナタちゃん」
「ノアは、ちゅーってしたことあるか?」



  ──────────────────────────
  ──   わたてにんぐ☆オペラ         ──
  ──   01 「グラン・マルニエシロップ」   ──
  ──────────────────────────



 それは、3月下旬のこと。白咲花さんの11歳のお誕生日会にて星野みやこさん監修での花さん手作りケーキが振る舞われた日から、二週間ほどが経った頃。
 その日はいつ空が泣きだしてもおかしくないどんよりとした空模様でした。まだまだ肌寒い気候の中、今日も元気に下校されている二人の人影がありました。星野ひなたさんと姫坂乃愛さんです。お二人はいつも通り仲良く下校し、今はひなたさんの自室にいらっしゃいます。同級生の花さんはあいにく日直当番とのことで、お二人だけで先に帰宅されたようです。
 お二人とも小学校の制服のまま寝そべったり、ベッドの上でゴロゴロされたりと自由気ままにくつろいでいましたが、先のひなたさんの一言によりお二人の雰囲気が一変しました。

「ヒ、ヒナタちゃん!? 今、なんて?」
「えっとなー、ノアはちゅーしたことあるのかなって思ってな」
「聞き間違いじゃなかったー! え、えっと。ちゅ、ちゅーって、アレだよね? クチヅケとかセップンとかの
「おう! キスのことだ!」
「うぅ、その、アタシは

 乃愛さんのお母様は外国籍であり、更にはかなりオープンな性格をされていることから、乃愛さんはご両親の「挨拶代わりのキス」を目にする機会の多い環境で育っています。その為、幾ばくかはその手の話に耐性をお持ちのご様子ですが、他でもないひなたさんからそのようなお話を持ちかけられたことで赤面してしまったようです。

 そして、今ひなたさんが問うているのはそのような「ご挨拶としてのキス」のことではないと直感でお気づきになったようです。それもまた、乃愛さんの赤面具合に拍車をかける要因となっているのでしょう。

「アタシは、そういうのは。あ、でもママとパパから、おでこにチュッってされることはあるよ?」
「おー、さすがノアだな!」
「で、でっしょー! にゅふふーん」

 微妙に話がずれていると言いますか、乃愛さんは恥ずかしさから意図的にお話をずらしたのでしょうね。
 恐らく、二人きりの時にこの手の話に深入りすると、真っ赤になってしまい何も言えなくなってしまうことを乃愛さんも重々ご理解されているのでしょう。

「私もちゅーされたことあるぞ! みゃー姉に!」
゛えっ?」

 お話を逸らせたと乃愛さんがほっとした矢先、ひなたさんによりお話がまた本筋に戻ってしまいました。
 しかも、そのひなたさんの告白は乃愛さんにとって衝撃的なものでした。

ヒナタちゃん。それって、いつ頃のこと?」
「お? うーん、あれはー 小学校に入る前だったな」
「そ、そうなんだ

 乃愛さんは端から見ていてもはっきりと分かるくらいに落ち込んでしまいました。感情のバロメーターである飛び出た髪の毛もしおれてしまい、その美しい碧眼の輝きも失せてしまいました。
 そのような乃愛さんの変化が心配になったひなたさんは、うつむいてしまった乃愛さんの顔を覗き込むように近づきました。

「だいじょうぶかー? ノア」
「ヒナタちゃん。ミャーさんにどんな風にキス、されたの?」
「そうだなー こんな感じだぞ」


 チュッ


 ひなたさんは乃愛さんの左の頬に軽く口づけをすると、再び心配そうな面持ちで乃愛さんのことを見つめます。
 一方の乃愛さんは、先刻までの生気のないお顔から一変して血色のよい健康的なお顔になりました。むしろ、先程赤面されていた時よりも赤らんでいるようにすら感じられます。

「ヒ、ヒヒヒヒ、ヒヒ ヒ」
「なんだ!? 笑ってんのか? そんなにおかしかったかー?」
「ヒ、ヒナタ、ちゃん! こーゆーのは、好きな女の子とだけするものなのっ! 誰にでもこんなことしてたら、ヒナタちゃんイケメンだしみんなカンチガイしちゃうんだからってあれ? ほっぺ?」

 漸く声を発することができるようになった乃愛さんは、様々な感情が混ざりあって混乱しながら一気に捲し立てました。それこそ、キスされた場所を正確に捉えられないほどの勢いで。
 感情の波に飲まれ、涙をこぼしながら訴える乃愛さんを前に、ひなたさんはその大きな瞳で乃愛さんをまっすぐに見つめ、温かな両手を乃愛さんの両腕にそっと添えました。

「────好きだぞ」
「っ!?
「ノアのこと。好きだからいいだろ?」
「────!!

 トゥンク!と、乃愛さんは全身でその鼓動を感じました。いつぞやのようにそれを言葉に出す余裕すらなく、まさにイケメンそのものと化したひなたさんからの愛をストレートに受け取り、そしてその意味を瞬時に理解されたのでした。

「────っ」
「ノアっ!  んっ」

 太陽のような、その暖かなひなたさんの愛を受け取った乃愛さんには、もう言葉は要りませんでした。
 感極まった乃愛さんはひなたさんにぎゅっと抱きつき、その勢いで押し倒しながらひなたさんの唇を奪いました。
 乃愛さんのその大胆で積極的な行為に、ひなたさんは面食らいつつも、やさしく乃愛さんを抱き寄せて受け入れてゆきます。
 互いに抱き締めあいながら、キスを交わすお二人。しかしながら、お二人は小学五年生ということもあり、知識も不足していることからそこまで止まりでした。
 乃愛さんはそれ以上どうすればひなたさんと結ばれたことになるのかが分からずに、嬉し涙と悔し涙で頬を濡らしながら、幾度もキスを重ねてゆきました。

「ごめん、遅くなって。早く下でお姉さんのお菓子

 そこに、遅ればせながら日直のお仕事を終えた花さんがおいでになりました。さすがのひなたさんたちも恥ずかしいところを見られてしまったという意識が強いのか、お互いにおずおずと距離をおきながら真っ赤になって俯いてしまいました。

「は、花ぁ
「ハハナちゃん。その、これはね」
「ご、ごめん、二人とも。ごめんね

 花さんもまさかこのようなことになっているとは露知らず、ノックをせずに立ち入ってしまったことに罪悪感を感じているご様子。
 ごめんとしか言えないまま、ドアを閉めて階下へと走り去るより他ありませんでした。







02 「ガナッシュ」



 ■作品イメージタグ■
  #私に天使が舞い降りた! #わたてん! #小之森夏音 #種村小依 #よりかの #散文詩



「やっぱりかのってすごいのよね くやしいけど ありがとう」

それは、盤石な安心感。

 ひゅうひゅうと 強い風が 私たちに吹きつけてきて
 でも 風は私たちを 二人をそばにいさせてくれるの

 私と よりちゃんと 風がひとつになって
 どうしてだろう 冷たい風なのに こんなにもあたたかくて

 いつもの二人きりの下校時間 今日も大切にかみしめて
 今日は お友達のやさしいおねぇさんのところに よりちゃんといっしょに

 よりちゃんは 今日もかっこいいんだよ?
 ほら 今もこうして 私の手を引いてくれるの

 よりちゃんとは ものごころついたころから いつもいっしょ
 そして いつもいつも 私の手を引いてくれて
 いつもいつも 私の知らないところに連れていってくれるの

 ほら すごいでしょ?
 よりちゃんは 私が助けてほしいときに いつも助けてくれるの

 このごろは 私もよりちゃんに頼ってもらえることが増えたけど
 それでもやっぱり 私はよりちゃんがいないとなんにもできないから
 私がよりちゃんに甘えちゃってるんだろうな

 きっと よりちゃんもそれは気づいていて でも
 なんにも言わずに そばにいてくれるの
 やっぱり よりちゃんはすごいなぁ

 私の半身みたいな いつでも頼れる かっこいいよりちゃん
 これからも ずーっと いっしょにいようね


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  ──   わたてにんぐ☆オペラ         ──
  ──   02 「ガナッシュ」          ──
  ──────────────────────────

 どよどよと うす暗い雲が 私たちの上に広がっていて
 でも 雨は私たちに 二人がいっしょにいられる理由をくれるから

 もし雨が降ってきたら かのの為に私の傘を広げてあげる
 どうしてかしら 濡れるのは嫌なのに こんなにも雨が待ち遠しいなんて

 いつもの二人だけの下校時間 今日も大事に過ごすのよ
 今日は お友達のかっこいいお姉さんのところに かのといっしょに

 かのは 今日も笑顔でそばにいてくれるの
 ほら 今もこうして 私のすぐ後ろをついてきてくれるわ

 かのとは それこそ覚えている限り一番最初から ずっといっしょにいるわ
 そして いつもどんなときも 私のことを支えてくれて
 いつも必ず 私がいきづまると救ってくれるのよ

 ほら すごいでしょ?
 かのは 私がなんにも言わなくたって いつも手をさしのべてくれるんだから

 さいきんは 私もかのに助けてもらうことが増えたけど
 それでもやっぱり かのは私がいないとダメなんだから
 お姉さんの私は かのがいつでも甘えられるように そばにいてあげてるのよ

 なんてね 本当はかのがいないと 私もどうしてかいつもどおりにはできないの
 なぜかかのに頼ってもらえると 私はいつもどおりの自分でいられるのよ
 やっぱりかのってすごいのよね くやしいけど ありがとう

 妹っていうのとはちょっと違うけど でもとっても大切で 私の一部みたいなかの
 これからも ずっと いっしょにいてちょうだい







03 「コーヒーバタークリーム」



 ■作品イメージタグ■
  #私に天使が舞い降りた! #わたてん! #松本香子 #松本友奈 #星野みやこ #小之森夏音 #種村小依 #白咲花 #一人称小説



「みやこさん! どうしたの……一体何が……」

それは、ストーキングの昇華。

 今日は雨に降られてしまうかもしれないわね。雨は苦手だけれど、でも、これも日課の為。二人分のレインコートも用意してきていることだし、降るならいつでも降りなさい。
 そして、今日もいつものようにみやこさんのお宅に到着したわ。でも、別に疚しいことは何もなく、ただの日課を消化しているだけ。
 そう、これはただの散歩。偶然散歩のルートにみやこさんのお宅が含まれていて、更に偶然にもみやこさんのお部屋が散歩の目的地に重なっているだけのこと。そうよ。これはごくごく普通のことなのよ。うふふ
 今日は正攻法でお庭からお邪魔しようかしら。それとも、意表を突いて屋根づたいに二階の窓から?
 どちらもみやこさんの驚く顔が見られそうな、素敵なシチュエーションよね。悩ましいわね。迷ってしまった私は、結構長い時間玄関前に立ち尽くしてしまっていた。けれど、この悩む時間も私の好きな時間。この先の展開を想像して約束された感動にうち震えるこの至福の時間も、いつも通り。
 ただ、いつもと違うことがひとつだけ。それは、今日は妹の友奈が一緒ということ。

「おねぇ?」
「うぅ、今日に限ってゆうがお昼寝してくれなかったわ。でも、今日はみやこさんのところでイベントがあるから、ストーカーとして覗かない訳にはいかない! うふ、うふふふ」
「おねぇ、おかお へん」





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  ──   わたてにんぐ☆オペラ         ──
  ──   03 「コーヒーバタークリーム」    ──
  ──────────────────────────




01

 ゆうが寝てくれない時は日課の散歩を諦めることもあるのだけど、今日はみやこさんのお宅でイベント──お友達を招いてのお茶会──があるとマイクから聞こえてきたから、行かない訳にはいかないわよね? みやこさんの素敵な笑顔が沢山見られるはずだもの。
 そんな理由でゆうを連れてきてしまったのだけど、ゆうもお出かけや散歩は好きな子だから楽しげな様子でよかったわ。ぐずったりしないで笑顔でいてくれてありがとう。まだ小さいのに我ながらよくできた妹だと思うわ。

「おねぇ、ここ、みゃーこ?」
「そうよ。みやこさんのおうちよ。前にも来たことがあるでしょう?」
「ある! みゃーこ、リリキュアだった!」
「あの時のみやこさん、かわいかったわぁ

 私は秘蔵のコレクションで結構見慣れているけどね? でも、何度見てもみやこさんのコスプレ姿は素敵なのよ。
 ああ、この「みやこさん素敵!」って気持ちを、誰かと共有したいわ! 今度妹さんと一晩語り明かそうかしら。それもいいわねぇ

「あ! あの時のお姉さん!」
「松本おねぇさんだねー。こんにちはー」

 ゆうと手を繋いだまま妹さんとみやこさんについて語り合う妄想に浸っていたら、聞き覚えのある声で呼ばれて。はっと我に返り振り向いてみると、そこには仲睦まじく手を握っている二人の姿が。
 確か、種村小依ちゃんと小之森夏音ちゃんね。

「あ、あらー、こんなところで偶然ね。こんにちは」
「こんにちは! あれ、その子は?」
「学校で松本おねぇさんと一緒にサングラスしてた子だねー」
「妹の友奈よ。ゆうって呼んであげてね。ほらゆう、お姉さんたちにご挨拶しましょう?」
「おねぇちゃ、こんちあ」
「かわいいわね! 私はこよりお姉さんでいいわよ!」

「わー ちゃんとご挨拶できたねぇ。ゆうちゃんえらいね。私はかのんだよー」
「こよねーちゃ! かのねーちゃ!」

 よかった。ゆうもちゃんとご挨拶できてるわね。
 見つかってしまったから、このまま散歩は続けられないわね。残念だけれど、このまま潔く引き下がることにしましょう。うぅ、残念だわ
「それじゃ、お姉さんもいっしょに行きましょ!」
えっ?」
「みやこおねぇさんにお呼ばれしているんですよね? 私たちもなので、ごいっしょにー」

 あら? あららら?
 私が戸惑っていると、二人が私の手を引いてみやこさんのお宅に入ってしまったわ。
 こうして私は散々時間を使っていろいろと悩んだ挙げ句、お庭からでも、二階の窓からでもなく、玄関からみやこさんのお宅にお邪魔することとなったの。

でも、私お呼ばれされていないんだけど。まぁ、そこは大丈夫よね。みやこさんだもの! うふ、うふうふ
「おねぇ、やっぱりおかお、へん」

02

 こうして、お呼ばれもしていないのにみやこさんのお宅に正面切ってお邪魔することになったのだけど、いつものストーキングじゃなかった、散歩とはやっぱり感覚的なものが異なるわね。なんというか、こう、後ろめたさや背徳感といったものが足らないというかまぁ、でもこれが普通なのよね。
 そんなことをぼんやりと考えながら、玄関で靴を脱いで上がり込んだ、まさにその時。私のお腹辺りに何かがぼふっと音を立てて飛び込んできたの。

「────────っ!」
「あ、あら? あなたは
「あれ? 花ちゃん、どうしたの?」
「わー、びっくり。花ちゃん大丈夫?」

 小依ちゃんと夏音ちゃんが言う通り、それは白咲花ちゃんだった。普段はまるでお人形さんのようにおとなしくて、みやこさんのお菓子を心底おいしそうに食べているという印象の強いこの子が、今は青ざめた顔をして私に向かって飛び込んできた。
 そう、花ちゃんは青ざめている。みやこさんのお宅でこんな顔になっている花ちゃんは、これまでの私の秘蔵の写真データや録画データにもなかったはず。一体、何があったのかしら?

「ご、ごめんなさい、その、わた、私っ!」
「あっ 花ちゃん!」
「花ちゃーん。行っちゃったねぇ」

 花ちゃんは私たちと目を合わせずに一言だけつぶやくと、階段を駆け上がるようにして二階へと上がっていってしまった。花ちゃんは一階のリビングというよりはキッチンから走ってきたように見えたわ。キッチンでは今日のお茶会の準備が進められているだろうし、そこには当然みやこさんがいるわよね。
 みやこさんの元から、花ちゃんが青ざめて走ってきた

みやこさんっ!」
「おねぇ?」

 なんだかとても嫌な予感がして、気付けば私はキッチンに向けて走り出していた。

 リビングに入ったとき、そこから見えるキッチンには誰も立っていなかった。おかしいわね、別の場所にでも──と考えを巡らそうとした時、私の鍛え抜かれたみやこさんセンサーが「この部屋にいる」と教えてくれた。
 私はその直感に従って恐る恐る死角になっているキッチンの足元を覗き込んでみる。そこには、引き戸を背にしてうずくまっているみやこさんがいた。

「みやこさん! どうしたの一体何が
「うぅ~~ ぐすっ こ、香子ちゃん?」

 みやこさんは大泣きしていたみたいで、そのきれいなお顔が真っ赤になっていた。

「香子ちゃん花ちゃん、ごめんね花ちゃん! うぅ、うっ~~!」

 すがり付くように、みやこさんは私の袖を掴み、抱き付いてきた。なにこれ、まさに私に天使が舞い降りてきたという感じ! もう私、ここで死んでもいいわ
 でも、ここで死んでしまったらみやこさんを慰められないじゃない。しっかりするのよ香子!
 みやこさんはうわ言のように花ちゃんのことを呼んでは、ごめんと繰り返している。さっぱり要領を得ないけれど、花ちゃんのことで深く傷ついていることだけはよく伝わってきたわ。さっきの花ちゃんの蒼白な顔と重ねて考えると、みやこさんが花ちゃんに何かを言って、もしくはしようとして、ドン引きされた。といったところかしらね。それならこれまでも何度もあったことだし、理解できるわ。
 でも
 目の前のみやこさんは、私がこれまでに見たことがないくらいにうちひしがれている。これは何かおかしいわ。普段の二人の関係性であれば、例え花ちゃんに「お姉さん気持ち悪いです」と言われたとしても、みやこさんはここまで瓦解するほど泣き崩れたりはしないはず。何故なら、私の見立てでは表面的には嫌がってるように見える花ちゃんも、本当のところはみやこさんに心を許していると思うからで、つまりはみやこさんがここまで傷つくようなことは決して言わないであろうから。
 そして、みやこさんも花ちゃんのことを心から愛していてベタ惚れ状態なのだから、本気で花ちゃんが嫌がるようなことを押し通すとはどうしても思えないのよね。総じて、二人に限ってこのような取り返しのつかないレベルでの傷つけあいが起こるとは私には思えないという結論に達したわ。
 こうなると、いくらみやこさん以上にみやこさんのことを知り尽くしている私であってもお手上げね。泣き崩れているみやこさんには悪いけど、事情を話してもらわないといけないわね。

 私はもう少し楽な形で抱きとめられるように、一旦みやこさんを抱きしめ直すと、みやこさんの頭をなでながら話しかけてみたの。

みやこさん。花ちゃんのことで何かあったのね。とても辛そうに見えるわ」
「ぐすっ こ、香子ちゃん。私、もうどうしたらいいのか
「花ちゃんとケンカしてしまったの? 何があったのか、話してもらえるかしら?」
「うん。さっき、ね

 そして、その後私はみやこさんからにわかには信じられないようなことを聞くことになった。
 花ちゃん、どうしてそんなことを
 涙ながらにすべてを話してくれたみやこさんは、また涙が溢れてきたみたいで、声をあげて私の胸の中で泣きはじめた。
 私はそんなみやこさんを抱きしめながら、次の行動を考えはじめていた。やっぱり、花ちゃんに話を聞く必要があるわね。きっと何か理由があるはずだから。でも、花ちゃんも顔面蒼白だったし、これは私が考えているよりも根が深い問題なのかもしれない。

 今日は優雅なお茶会だと思っていたのに、まさかこんなことになってしまうなんて。
 みやこさんの笑顔が何よりの生きがいであるこの松本香子。みやこさんの為、そしてみやこさんを慕って集まってくれている天使のような子たちの為に。
 今こそ私が動くべき時が来たのだと確信したわ。

あら? そういえば、ゆうはどこに行ったのかしら?」

 私は胸の中のみやこさんのお顔をハンカチできれいにすると、名残惜しいけれどみやこさんを楽な姿勢で座らせて、立ち上がった。
 ふとみやこさんを見ると、床の一点を見つめたまま先ほどと同じく花ちゃんを呼び続けている。まるで私のことが目に入っていないようでショックだけれど、でも今はみやこさんの為に動かないと。
 そうして私は、ゆうと花ちゃんを捜す為にみやこさんの元を離れ、玄関の方へと移動したのだった。







04 「ビターチョコレート」



 ■作品イメージタグ■
  #私に天使が舞い降りた! #わたてん! #白咲花 #星野みやこ #松本友奈 #松本香子 #種村小依 #小之森夏音 #一人称小説



「……お姉さん。一生私の為にお菓子作ってくれるって言ってくれて、私、幸せでした……」

それは、魂の慟哭。

01

「お、お姉さん、の顔なんて、見たくない、ですっ!」

 私は恥ずかしさをごまかすために、その場で思いついたことを口に出してしまっていた。言ってしまった後に、その意味に気がついてキッチンの向こう側のお姉さんを見ると、手にしていたボウルを床に落としながらお姉さんが泣き崩れていくのが見えた。
 ああ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう。私はただ恥ずかしかっただけで、お姉さんを傷つけるつもりなんてなかったのに
 すぐに謝ろうと思ったけど、どう謝ればいいのかが分からなくて、何も言葉が出てこない。もういつものような「ごめんなさい」では済まないだろう。でも私は謝るための言葉をそれしか持っていなかった。何も言えず、何もできないジリジリとした時間が積み重なっていくのを感じて、その場に留まっていることができなくなってしまった。
 もうダメ。今日は私のせいでお茶会どころではなくなってしまった。これ以上私はここに居てはいけないと感じて、玄関の方へと走った。
 玄関で靴をはいて、そのまま家まで帰ろう。そう考えながら走っていたら、何かやわらかいものに正面からぶつかってしまった。

「────────っ!」
「あ、あら? あなたは

 それは松本さんだった。松本さんだけでなく、妹さんと、かのんとこよりもいるみたいだった。

「あれ? 花ちゃん、どうしたの?」
「わー、びっくり。花ちゃん大丈夫?」

 無理。無理だよ。今の私には、今日のお茶会を楽しみに集まってきたみんなに、本当のことを伝えられる勇気なんてないよ

「ご、ごめんなさい、その、わた、私っ!」
「あっ 花ちゃん!」
「花ちゃーん。行っちゃったねぇ」

 とにかくこの場を離れたかった。お姉さんから離れて、みんなから離れて、まずは落ち着かないと。それで、どうしてこうなったのか、どうしたらいいのか、考えないと
 そして私は、無意識のうちに二階に上がっていて、更には無意識のうちにお姉さんの部屋に飛び込んでいたのだった。

02

 ひなたの部屋には今は入れない。だって、ひなたはノアと。だから、こうしてお姉さんの部屋に飛び込んでしまったのは仕方のないことだった。
 どうしてこうなってしまったのか、少し前のことから思い返してみる。
 今日は前々からお姉さんと約束をしていたお茶会の日だった。いつものように私がコスプレをした対価としてお菓子をもらうのではなく、今日は純粋にお姉さんがお友達を呼んでお茶とおいしいお菓子をごちそうしてくれるという、天国のようなイベントの日。それも、お姉さんに私からおねだりをしたわけではなく、なんとお姉さんのほうから提案をしてくれて実現した奇跡のようなお茶会だった。

「みんないつもありがとうね。私にはこういうお礼しかできないから

 お姉さんはお茶会の理由としてそんなことを言っていた。私たちは特に改まってお礼を言われるようなことをしている自覚がなかったから、私だけでなくノアもひなたも頭にハテナを浮かべていた。
 お姉さんは時々、自分の評価がとんでもなく低くなることがある。きっと、今回もそういうことなのかな? とは思ったけど、でもその時は喜びの方が大きくてそのことについて深く考えることはなかった。
 そして今日。残念なことに私は日直だったのでひなたたちに先に帰ってもらい、日直の仕事を急いで終わらせてひなたのうちまで走ってきた。それで、まずはひなたたちと合流しようと思ってひなたの部屋に行ってみたらひなたとノアが、その、キスをしていた。
 私は前々からノアの想いには気づいていたから、このことはそれほど驚くことでもないと思っている。むしろ、ひなたの考えがよく分からなかったのもあって、ひなたが嫌がらずに受け入れていたのが意外といえば意外だったくらい。
 私も親友として二人のことは応援したいと思っているから、むしろ喜ぶべきことだと感じている。でも、さすがにそういう場面を見てしまうと気恥ずかしくて、見てはいけないところを見てしまったという意識も混ざっておろおろしてしまっただけ。

 問題はその後だった。

 ひなたの部屋を後にして、お姉さんのいる一階に降りようとしたときのことだった。ふとお姉さんの顔を思い浮かべたら、さっきのひなたたちが重なってしまって。

 お姉さんのそのやわらかそうなクチビルとか、普段からの甘い香りとかで頭の中がいっぱいになってしまって、私とお姉さんが、ひなたたちのようにキキスをしているところを想像してしまったんだ。
 階段を一段ずつ降りながら、私は自分のほっぺがすごく熱くなっていること、そしてお姉さんのことを考えて胸がドキドキしていることに気がついた。
 これじゃ、まるで私、お姉さんのことが

「あ、花ちゃーん。いらっしゃい。今日は来てくれてありがとう!」

 一階に降り立って、キッチンの方へ無意識に足が向いたとき。お姉さんはその、いつもどおりにやさしい笑顔で声をかけてくれた。
 私はさっきまでの想像がまた始まってしまいそうで、それを何とかして止めようと必死に頭をぶんぶん振って、そしてなんにも考えずにその言葉を言ってしまったんだ。

「お、お姉さん、の顔なんて、見たくない、ですっ!」

03

 お姉さんの部屋で、お姉さんのベッドに腰かけて、今日あったことをすべて思い返した私は、自分のほっぺが濡れていることに気がついた。どうやら、今もとめどなく大粒の涙が流れ出ているようだった。
 私に泣く資格なんてない。ひなたたちの邪魔をして、お姉さんにひどいことを言ってしまった私が被害者ぶる訳にはいかない。
 でも、分かっていても、涙は自分の意志では止められなかった。誰にも見られていないのが、今はとてもありがたかった。
 涙の理由は、この部屋を見渡せばすぐに思い当たる。壁にかかっているのは、私のためにお姉さんが作ったお洋服。お姉さんが徹夜して作ったんだと言っていたものもいっぱいある。本棚には私の写真だけを集めたと言っていた「白咲花写真集」が、大事そうに置かれているのが見える。そして、机の上には写真を撮る為のカメラが何台も。お姉さん、最初はスマホだったのに、何度かカメラを買い替えていたっけ。どれも同じでしょって言ったら、私を少しでもかわいく残したいから、なんて。今ではプロ仕様の黒く大きなカメラまである。それらはすべて、私をあたたかく包んで溶かそうとするものばかり。だからこんなに涙が止まらないんだ。
 お姉さんの、私に対する想いが、感情が、結晶化したようなこの部屋。今はいないけどお姉さんの甘くてやさしい香りも漂っているように感じる。

「お姉さん

 前にお姉さんがひなたに冗談を言って、ひなただけがそれを真に受けて涙を浮かべていたことがあった。そう、あれはみんなで水族館に行ったときだった。その時私はお姉さんに「自分の影響力を考えて発言してください」と言ったのを覚えている。それなのに、私はお姉さんにあんなことを言ってしまったのだ。お姉さんがいつも私を人一倍大事にしてくれていることを理解してるつもりだったのに。私がお姉さんにあんなことを言えば、やさしくて繊細なお姉さんは深く傷ついて壊れてしまうかもしれないと分かっていたはずなのに。

「ごめんなさい。お姉さん、ごめんなさい

 お姉さんは、私のことを「天使」だと言ってくれたことがある。それの為に、文化祭で主役のアネモネを演じることになったんだから、忘れることなんてできない。

 でも、今の私は天使のリングが割れてしまい、純白の翼もボロボロになって薄汚れてしまっている。他でもない、私を天使だと言ってくれたその人を深く傷つけてしまったから。当然、私は堕天使──ううん、むしろ悪魔──の烙印を押されてしまったことだろう。でもこれは仕方のないこと。いまさら、こぼれてしまった水は元に戻ることはないのだから。

お姉さん。一生私の為にお菓子作ってくれるって言ってくれて、私、幸せでした

 ああ、もう。
 あとからあとから、お姉さんの顔と声が浮かんでくる。
 それはどれも私のことをやさしく呼ぶ声ばかり。
 今さらながら、私がお姉さんにどれだけ大切にされていたかを、痛みを持って思い知った。

「うぅ、うっ~~~!」
「はなねーちゃ?」

 自分の嗚咽しか聞こえない静かな部屋に、小さく、でも凛とした声が響いた。この声は、ゆうちゃん

「ぐすっ ゆう、ちゃん
「はなねーちゃ、いいこいいこ」

 いたいのいたいの、とんでけー!
 ゆうちゃんはベッドでうずくまって泣いてる私の頭をさすると、そう言って小さな手をぱっと上の方に伸ばした。きっと私が痛くて泣いていると思っているんだろうな。

「ありがとう、ゆうちゃん。ぐすっ 痛いのは取れたよ」
「みゃーこのへや?」
「ここ? うん。そうだよ」

 ゆうちゃんは不思議そうな顔をしながら、部屋の中を見まわしている。特にお目当てのものは見つからなかったのか、しばらくすると私の顔を覗き込んできた。

「みゃーこ、すき?」
へっ?」

 唐突に聞かれた私は、一瞬何を聞かれたのか分からなくなってしまい、しばらく考えた挙句に間抜けな声を出してしまった。
 でも、もう私の答えは決まっている。ゆうちゃんにごまかしても、何の意味もないだろう。私は素直になって答えることにした。

うん。お姉さんのこと、好き。大好きだよ」
「ゆうも、だいすき! えへへ」

 ゆうちゃんの、その天使のような笑顔につられて、私も笑顔になる。相変わらず涙は流れているけど、さっきよりはだいぶ収まってきているように思えた。

「みゃーこ、いるよ? いこ?」
「うん。でも

 私は、お姉さんの前には、行けない。行けないよ
 私が行けば、またお姉さんを苦しめてしまう。もう私の顔なんて見たくもないだろう。それにさっき松本さんが来ていたから、きっとお姉さんは松本さんになぐさめてもらえているはず。うん。きっとそうだ。そのはずだ。お姉さんは松本さんに任せておけば大丈夫。大丈夫
 胸にちくりとした痛みが走るけど、私はその痛みを感じないふりをした。

ごめんね、ゆうちゃん。私は下には行けないの」
「どして?」
「どうしても。ほら、ゆうちゃんはみんなのところに。ね?」

 ゆうちゃんに、みんなのところに戻るようにと伝える。それにしても、ゆうちゃんにうまく説明できない自分が悲しい。「どうしても」なんて言われて納得できる子がいるわけがない。ゆうちゃんから「なんでどうして」と聞かれるだろうと覚悟した私は、考えをまとめる為に目を閉じる。すると、目の奥に残っていた涙がつぅとほっぺを伝っていくのを感じた。

「ゆうもいる」

えっ?」
「はなねーちゃといっしょにいる」

 ゆうちゃんはそう言うと、私がうずくまっていたベッドの横にごろんと寝そべった。そして、いろんなことを私に話しかけてくれた。

「きょう、おねぇときたの」
「うん。お姉さんもいたね」
「おねぇ、みゃーこのとこくるとうれしそう」
「うん。松本さんもお姉さんのこと、大好きだもんね」
「ゆうも、おねぇがうれしいと、うれしい」
「そっか。そうだよね」

 もしかすると、ゆうちゃんは話し相手がほしかったのかな。松本さんはここに来てからお姉さんのことで手一杯だろうし、相手してくれる人もいなかったんだろう。それなら、せめて私がゆうちゃんのお相手をしなきゃ。

「ふぁ きょう、おひるねしてないの」
「そうなの? 無理しないで寝ていいよ」
はなねーちゃ
「なぁに?」
げんきに、なった?」
うん。ゆうちゃんのおかげだよ。ありがとう」
よかっ。すぅすぅ

 ゆうちゃんはそのまま寝てしまった。私はお姉さんのベッドの掛け布団をゆうちゃんにそっとかけると、静かにベッドから降りた。
 「げんきになった?」「よかった」とゆうちゃんは言っていた。なんだ、お相手をしてもらっていたのはゆうちゃんじゃなくて、私の方だったんだ。ゆうちゃんは落ち込んでいる私に寄り添ってくれて、話を聞いてくれて、励ましてくれた。まだこんなに小さいのに

ありがとう。ゆうちゃん。私、頑張ってくるね」

 ゆうちゃんの無垢な寝顔を見つめながら、そう決意を固めてドアの方に歩きだす。

 すると、ドアの向こう側からノックの音が聞こえてきて、ゆっくりとドアが開いた。

入るわよ? 花ちゃん、こっちだったのね。ゆうは
「はい。ゆうちゃんはお昼寝をしていなかったみたいで、寝てしまって」
「あら、寝かしつけてくれたのね。ありがとう、花ちゃん」
「い、いえ。私は何も

 ゆうちゃんを探しにきたのであろう、松本さんだった。松本さんはゆうちゃんの様子を確認すると、安心したような顔になった。

みやこさんから、ちょっとだけ話は聞いたわ。花ちゃんは
「ご迷惑かけて、ごめんなさい」
「ううん。私は大丈夫よ。でも、みやこさんがね
お姉さん、は?」

 松本さんはお姉さんの様子を教えてくれた。やっぱり、思っていた通りひどい状態のようだった。

「私がどうなぐさめても、効果がないみたいなのよ。悔しいけど」
えっ?」
「きっと、今のみやこさんを救えるのは、あなたしかいない。ここに来たのも、花ちゃんにお願いをするためなの」

 松本さんはそう言うと、私に目線を合わせてしゃがみこみ、私の両肩に手を乗せた。

「お願い、花ちゃん。この通り。いろんな思いが入り乱れているのはよく分かるけど、今はみやこさんの為に仲直りしてあげて。お願いだから!」

 松本さんは私に頭を下げてきた。こんな、自分の半分しか生きていないような子ども相手に。いつもどこかに余裕を残している松本さんだけど、今はその余裕はどこにもなくて、本当にこれ以外に手段がないというかのように私にすがりつくような形になっていた。

私ね、みやこさんのことなら、みやこさんを想う気持ちなら誰にも負けないと思っていた。だから当然、みやこさんの傷も私なら癒せると思っていたの」
松本、さん
「でも、ダメだった。私じゃダメだったのよ。みやこさんの涙を拭うことはできても、癒すことはできなかった。みやこさんが今、魂から求めているのはね、花ちゃん、あなたなの。私じゃないのよ!」
 お願いよと、松本さんはゆうちゃんを起こさない為なのかとても静かに、でも非常に重たい声で私に言った。

「みやこさんを助けてあげて。お願い、花ちゃん」
「松本さん。大丈夫です」
「え?」
「私も、そのつもりです。さっきゆうちゃんと話をしていたら、素直にならないとダメなんだって、よく分かったので」
「花ちゃん! ありがとう、ありがとう!」
「私も後で、ゆうちゃんにありがとうってちゃんと伝えます。だから

 私はしゃがんでいる松本さんの右手を取ると、固く握りしめた。

「だから、安心してください。お姉さんは、私がなんとかしてみせます」






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  ──   わたてにんぐ☆オペラ         ──
  ──   04 「ビターチョコレート」      ──
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05 「オペラケーキ ★☆☆☆☆」



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  #私に天使が舞い降りた! #わたてん! #種村小依 #小之森夏音 #星野ひなた #姫坂乃愛 #松本香子 #ひなノア #よりかの #三人称神視点客観型



「それなら、なにも問題ないじゃないの。お互い大好きなんでしょ?」

それは、紅蓮の正論。


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  ──   わたてにんぐ☆オペラ         ──
  ──   05 「オペラケーキ ★☆☆☆☆」   ──
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みんな行っちゃったわね」
「そうだねぇ

 星野家の玄関口にて、二人だけ取り残されてしまった小依さんと夏音さん。花さんが二階へ走り去るところを見届け、松本さんがリビングに駆けて行くところを見届け、友奈さんが少し遅れて二階へ上がっていくところも見届けたお二人。自分達は果たして、リビングに行ってもよいものなのか、それとも二階へ行くべきなのか、すぐには判断できずにお互いに顔を見合わせてしまうのでした。

「こういうときは、小依さんにまかせなさい!」
「よりちゃん?」
「お友達のおうちに来たんだもの。まずはお友達と合流してからおうちの人にごあいさつよ!」
「よりちゃん! うん、そうだねー」

 小依さんがまた突拍子もないことを言いだすのではないかと不安げなご様子の夏音さんでしたが、意外ともとい、しっかりと常識的な提案をしてくれたことに安堵されたようです。
 しかしながら、二階には先程の尋常ではないご様子の花さんがいるはず。迂闊に刺激してはいけないのではないかと、階段を上る足取りも自ずと慎重になってゆきます。これから待ち受けているであろう普段とは異なる展開を予感し漠然とした不安を感じた夏音さんは、前を行く小依さんの手に自らの手をそっと触れさせました。小依さんは後ろを振り向くことなく、その手を暖かく包み、握りしめるのでした。
 手を繋いだまま、二人はひなたさんのお部屋の前に辿り着きました。二人とも思わずドアの前で耳を澄ませてしまいますが、特に激しい物音などは聞こえてこないようでしたのでほっと一安心という面持ちになりました。

それもそうよね。あの三人だもの。何があるっていうのよ」
「でも、花ちゃんが普通じゃなかったから
「んー。とりあえず入ってみましょ」

 ガチャリと、小依さんは何の前触れもなくドアをお開けになりました。器が大きく何事にも動じない夏音さんですが、さすがにこれには驚かれた様子。握っている小依さんの手をくいくいと引っ張って合図しましたが、時既に遅し。ドアは開かれてしまいました。

「よ、よりちゃん! ダメだよーノックしないで入っちゃ」
「そうなの? でももう開けちゃったわ。ひなたちゃん──────」

 ひなたちゃん、いる? と声をかけようとした小依さんでしたが、目の前の光景に言葉を失いました。お隣の夏音さんもまったく同じご様子。

「こ、こより。かのん
「うぅ、アタシのバカぁ~~~ う~~~

 そこには、部屋の隅でうずくまりながらクッションに顔を埋めて号泣している乃愛さんと、乃愛さんのそばで力なくうなだれているひなたさんがいらっしゃいました。
 ひなたさんとはもう2年ほどのお付き合いをしている小依さんと夏音さんでしたが、このようなひなたさんを見たことがなかったようでお二人とも驚愕の表情で固まってしまいました。

な、なに? どうしちゃったのよ?」
「こより。あ、あのな、これはな
「ノアちゃん泣いてるじゃない! ひなたちゃん、何があったの!? ねぇってば!」
「よ、よりちゃん! ダメだよ、まずはお話を聞こう? ね?」

 小依さんは夏音さんの手を振りほどき、ひなたさんに駆け寄ると力なくうなだれているひなたさんの肩を掴みました。目を合わせようとしないひなたさんに激昂しそうになった小依さんを、同じく駆け寄った夏音さんがなだめます。
 その時でした。クッションから顔を上げた乃愛さんが、小依さんを見つめながら口を開きました。

違う! 違うの。ヒナタちゃんじゃないの。アタシなのっ!」
「ノア
「ノアちゃん?」

 乃愛さんは涙で酷いお顔となっていましたが意に介さず、これだけは言わなければという気迫を感じるまなざしで、こぼれる涙もそのままに語り始めました。

さっき、この部屋でね。ヒナタちゃんとキスをしたことがあるかってお話になってね」
「ノア。その話はもう」
「ヒナタちゃんが、ミャーさんに、キス、してもらったことあるって嬉しそうで。ぐすっ それで、アタシ
「ノア。ノア。辛いのに言わなくていいぞ」
「ヒナタちゃんのクチビルを、奪っちゃったの! アタシがっ!」
ノア

 それだけを言い切ると、乃愛さんはまたクッションに顔を埋めました。しばらく放っておいてほしいというオーラが滲む、なんとも辛そうな雰囲気です。
 ひなたさんは泣いてはいませんが、床を見つめたまま悲しそうなお顔をされています。
 とても断片的ではありますが、乃愛さんが落ち込んでいる理由が分かった夏音さん。さりとてどう声をかけるべきか悩んでいる様子で、話の内容のショッキングさも相まってうまく考えをまとめられずにいるようです。

「それで、ひなたちゃんは」
こより?」
「ひなたちゃんは何をしてるのよ。いつもみたいに、ノアちゃんに声をかけてあげないの?」
「よ、よりちゃん! 今、そんなこと言ったらかわいそうだよ。ひなたちゃんだってびっくりしてるんだし、それに」

 夏音さんが考え終わる前に、小依さんがひなたさんに話しかけていました。聞いている限りでは、ひなたさんを責めているかのような言いぶりに、夏音さんは言葉を尽くして何とか止めようとされています。
 しかし──。

「私だってそのくらい分かるわよ! でも、じゃあ友達として聞くけど、ひなたちゃんはノアちゃんのこと嫌いなの!?
「よりちゃん、もうそのくらいで」
「そ そんなわけないぞ! ノアは
「嫌いじゃないけど、好きでもないってこと? それなのに、いつもあんなにイチャイチャしてたってわけ!?
「よりちゃんっ!」

 夏音さんは小依さんの左腕を強く引っ張りました。少しだけよろけた小依さんでしたが、転ばずに耐えています。

かの。あとで私のことひっぱたいてもいいから。だから、今は言わせて。友達として言わなきゃいけないことなの」
「よより、ちゃん

 夏音さんは、おさななじみのここまで強い意志を感じたことはありませんでした。いつも突拍子もないことを突然言い出したり行動したりする小依さんですので、夏音さんはいつも先回りをしてフォローできる体制を整えています。
 しかしながら、今の小依さんは夏音さんであっても押さえることはできそうにありません。夏音さんは小依さんの強い意志を感じると、ここはひとつ任せてみようと意を新たにしたのでした。

よりちゃん、約束して。絶対に叩いたりしちゃダメだからね?」
「分かってるわよ。ごめんね、かの」

 夏音さんはコクリとひとつ頷くと、一歩下がりました。小依さんを含めた三人を静かに見守ることにしたようです。

私、不思議なのよ。いつものひなたちゃんなら、何があってもノアちゃんをなぐさめたり、勇気づけたりできるはず。そうでしょ? それなのに、どうして今はそれができないのよ」
コヨリちゃん、お願い。ヒナタちゃんを責めないで
「こより。それが、私にもわからないんだ。いつもみたいにしたいんだけど、なんだか意識すると急にそれができなくなってな

「何が分からないのよ。そんなの分かりきってるじゃない。ノアちゃんのことが好きだからでしょ?」
「え?」
「コヨリちゃん?」

 ひなたさんも乃愛さんも、小依さんの言葉の意味を真剣に考えています。乃愛さんは不意を突かれたからか、涙も止まったご様子でひなたさんとお顔を見合わせています。

「本当にノアちゃんのことが好きだから、急にとっても大切だってことに気がついたから、いつもみたいにできないだけでしょ? 違うの?」
「そ、そうなのか? これ、そういうことなのか? 確かにノアのことは大好きだぞ」
「ヒナタちゃん
「あと、ノアちゃんにも。ノアちゃん、ひなたちゃんが大好きで、ひなたちゃんもノアちゃんのこと好きって分かって、それでノアちゃんからキスしただけよね?」
「そ、そうだけど。でも、そんなキスしただけだなんて。もっとこう、最初のキスは大事にしないとって」
「事故みたいなものだったってこと?」
「う、いやー。勢いに任せて、奪っちゃったカナーって」
「それって、やっぱりひなたちゃんが大好きだからでしょ? それとも、好きでもないのにクチビルぶつかっちゃっただけなの?」
「そ、そんなことない! ヒナタちゃんのこと、アタシ、大好きなのっ!」

 気付けば、ひなたさんと乃愛さんはお互いにお互いを「大好き」と告白しあっていました。話の流れとはいえ、さすがのお二人もお顔がトマトのように真っ赤になっています。

「それなら、なにも問題ないじゃないの。お互い大好きなんでしょ?」
「お、おう! ノア大好きだぞ!」
「ア、アタシも、ヒナタちゃん大好きだよ!」
「じゃあ、どうすればいいか分かるわよね? さあ、二人とも!」

 小依さんはどうだと言わんばかりに腕組みをして、今までで最高のドヤ顔をされています。

 言うだけのことは言いきったわ。あとはよきにはからいなさい。とそのお顔が言っているように感じられます。

「ノ、ノア
「ヒナタ、ちゃん!」

 一方のひなたさんと乃愛さんは、小依さんの後押しもあったことからお互いを見つめあい、どちらからともなく近づいていきました。
 そして────。


 チュッ


「ヒナタちゃん、アタシ、アタシごめんね。いきなりでごめん」
「ノア、いいんだ。私も嬉しかったのに、態度に出せなくてごめんな」
「よ、よかったぁ。ひなたちゃんたち、仲直りできたんだねぇ」

 感動的な仲直りの瞬間に立ち会い、涙を滲ませる夏音さん。すべて丸く収まったかのように見えましたが、ただお一人だけ驚愕の表情を浮かべる方がいらっしゃいました。他でもない、小依さんその人でした。

「えぇっ!? な、なんでキスしてるのよ!? あの流れならお互いにごめんなさいってするところでしょ?」
「こより!?
「コヨリちゃん!?
「よ、よりちゃーん! ちょっと、ちょっとこっちに!」

 夏音さんは小依さんの両手を取ると、力まかせに部屋の外に引きずって行き、一旦ドアを閉めました。

「な、なにするのよ! かの! ちょっと!」
「もー、よりちゃんは、もー! さすがに今のはないよー。はぁ
「だって私、ひなたちゃんたちがごめんなさいってできるようにって思って」

「うんうん。よりちゃん本当にありがとう。でもね、さっきの場合はもうあれで────」

 夏音さんが小依さんに愛し合う女の子同士の心理をいちから説明をしようとした、その時でした。階段を上りきった松本さんに、二人同時に気がつきました。
「あ、お姉さん。って、あれ?」
「ま、松本おねぇさん。大丈夫ですか? その、お顔真っ青ですよ?」
こっちにゆうと、花ちゃん来てないかしら?」

 思いつめたような松本さんのお顔を見て、小依さんも夏音さんも心配そうなお顔になりました。

「えっと、そういえばひなたちゃんのお部屋には、花ちゃんもゆうちゃんもいなかったわね」
「うん。ということは、お隣のみやこおねぇさんのお部屋の方、なのかなぁ?」
「二人ともありがとう」

 松本さんはそれだけ告げると、足早にお隣の部屋に移動していきました。そして、軽くノックをしてみやこさんのお部屋へと入っていかれました。
 それを見届けたお二人は、我に返ったかのようにお互いに見つめあいました。

「かの」
「よりちゃん?」
さっきは、強引だったわ。ごめん
「よりちゃん
「私ね、二人が好き同士だって、前から分かってたから。勢いに任せて沈み込んでるだけの二人を、早く元どおりにさせてあげたかったの」
「うんうん」
「でも、あんな言い方ないわよね。好きでもないのにイチャイチャしてたの? とか、クチビルぶつかっただけなの? とか。はっぱかけたかっただけだったのに。なんで、私いつも」


 ぴっ

 小依さんが反省していた、その時。夏音さんが小依さんのお口にご自分の人差し指をぴっと当てました。
 はっとした小依さんを、夏音さんはそのまま抱きしめ、いとおしそうにほっぺた同士をすり合わせました。

それ以上は、ダメだよ? よりちゃん」
「か、かの
「よりちゃんは、あのとき誰にもできない、よりちゃんだけのやり方でひなたちゃんたちを元どおりにできたの。きっと、私にもできないやり方で」
「そうかもしれないけど、でも」
「いいの。いいんだよ、よりちゃん

 夏音さんは小依さんを抱く力を少しだけ強めました。でもそれは、小依さんが苦しくない程度の、ほんのわずかな力加減で。

「私、嬉しかったんだ。よりちゃんが二人のことを真剣に見ていて、真剣に何とかしてあげたいって思ってて、真剣に行動できたことが。よりちゃんかっこいいって思っちゃった」
「あ、当たり前じゃない。二人とも大切なお友達なんだもの」
「うんうん。でも、その当たり前のことができるよりちゃんは、本当にすごいんだよ?」
「そ、そうなのかしら」
「私のお友達でもあるから、助けてくれて、ありがとう。よりちゃん」

 夏音さんがいとおしそうに抱きしめ、小依さんもついに同じように夏音さんのことを抱きしめ返しました。

これからも、こういうときは私にまかせるのよ。かの
「うん。いつも頼りになるなぁ。ありがとう、よりちゃん

 お二人はしばしそのままの姿勢で、無言のままお互いを称えあい、癒し、癒される時間を過ごされたのでした。







06 「オペラケーキ ★★☆☆☆」



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  #私に天使が舞い降りた! #わたてん! #白咲花 #星野ひなた #姫坂乃愛 #種村小依 #小之森夏音 #松本香子 #三人称神視点客観型



「……花。なんで、みゃー姉にそんなこと言っちゃったんだ……?」

それは、涙の詰問。


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  ──   わたてにんぐ☆オペラ         ──
  ──   06 「オペラケーキ ★★☆☆☆」   ──
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 キィ  パタン


あ、花ちゃん」
「それに、松本おねぇさんも

 ドアの音が聞こえた小依さんと夏音さんは、抱き合う体勢から手を繋ぐ姿勢にするりと移行し、音のした方へと目を向けました。そこにはみやこさんの部屋から出てきた花さんと松本さんがいらっしゃいました。

「こより、かのん
「え? 花ちゃん、目が真っ赤よ!? あっ もしかして、花ちゃん
よりちゃん?」
「花粉症なんでしょ!」
「よ、よりちゃーん! たぶん違うと思うなぁ」
「かの!?

 何があったのかを瞬時に察した夏音さんと、いつもと変わらない小依さん。しかし、お二人とも花さんを心配している気持ちは同じようです。

「その。さっきは、ごめん。下で取りみだしちゃって
「いいのよ、そのくらい! どうしたのかなって心配はしたけど」
「いいんだよー、花ちゃん。それより、もう大丈夫なの?」
「うん。私は大丈夫」


 ガチャ  キィ

 花さんのお話を聞いて、小依さんと夏音さんが安心したお顔で胸をなでおろした、そのときでした。目の前のひなたさんのお部屋のドアが開き、外の様子が気になったのかひなたさんと乃愛さんが揃って出てきました。
 ひなたさんと乃愛さんは廊下に佇む花さんを見つけると、揃って頬を染めて恥ずかしそうにお互いに顔を見合せました。

「花。さっきは、ごめんな!」
「ハナちゃん。びっくりさせてゴメンネ? アタシたち、実は────」


 バサッ


 自分達がお付き合いをすることになったことを花さんにお伝えしようとした乃愛さんでしたが、それを言い終わる前に花さんがお二人に対して頭を下げていました。その長く美しい黒髪が足元の廊下に当たり、音がするくらいに深々と。

「ふたりとも、ごめん。ごめんなさい
「は、花! どうしたんだ!?
「そ、そうだよ! アタシたち、怒ってないよ? むしろ、ハナちゃんに謝らなきゃって」
「違うの」
「花?」
「ハナちゃん?」

 花さんは頭を上げると、ひなたさん、乃愛さんのことを順に見つめます。そのお顔には、これまでにお二人が一度も見たことのない思い詰めた色が浮かんでいました。

ノアがひなたのこと好きなの、知ってたから。だから、ちょっと驚いたけど私も嬉しいの」
「そっか。花も喜んでくれるのか。ありがとな、花!」
「ハナちゃんアリガト!」

 ひなたさんも乃愛さんも、親友である花さんが自分達のことを理解し、祝福してくれることを素直に喜んでいます。

 しかし、しばらくして先程の違和感を思い出したのか、二人とも頭に「?」を浮かべました。

「アレ? ハナちゃんは、なんでゴメンナサイしたの?」
「そうだぞ。何かあったのか? 花」
私ね、下でお姉さんに


 ────ひなたさんと乃愛さん、そして、小依さんと夏音さんは、この時初めてリビングで起きたことを知りました。
 小依さんは愕然としたお顔で、そして夏音さんは両手をお口に当てて、花さんのことを見つめます。
 乃愛さんはひなたさんの左肩に右手を、左腕に左手をそっと添えるようにし、心配そうにひなたさんの横顔を見つめています。

花。なんで、みゃー姉にそんなこと言っちゃったんだ?」
ごめんなさい
「みゃー姉は、みゃー姉はな、花のことが。花のことが本当に大好きなんだぞ? それなのに」
ごめん。私、お姉さんのこと、深く傷つけてしまったの
「なんでだ? なんでなんだ!? 花はみゃー姉のこと、好きじゃないのかっ!? あんなにみゃー姉に大事にされてるのに、なんで、なんでだ、花っ!!
「ヒナタちゃんっ!」

 ひなたさんは花さんの両腕を外側から掴むと、前後に揺らしながら叫びました。乃愛さんもこうなることを予見された上でひなたさんの肩に手を乗せ腕を掴んでいましたが、ひなたさんの熱い思いに裏付けられたその動きを止めることはできませんでした。
 ひなたさんの脳裏に、みやこさんが花さんのことを語るときの夢見るような口調と表情がよぎります。そういったときのみやこさんは、誰が見ても花さんへの想いが本物なのだとすぐに分かるくらい幸せそうにされていました。それは、みやこさんのことを世界で一番好きと豪語するひなたさんであっても認めざるを得ないといった様相でした。ひなたさんはそのようなみやこさんの幸せそうな様子をこれまで何度も目にしてきましたので、当の花さんの言ったことを理解できない、いえ、理解したくないと思ってしまったのでした。

「うっ うぅ~~、みゃー姉えぇ
「ヒ、ヒナタちゃん!」

 ひなたさんは大粒の涙をこぼしながら、花さんの足元にうずくまりました。乃愛さんも座りこみ、ひなたさんにそっと寄り添います。
 乃愛さんも花さんに言いたいことがありそうでしたが、花さんのお顔を一瞥するとすぐひなたさんに視線を戻されました。恐らく、乃愛さんも一目ですぐご理解されたのでしょう。花さんが心の底から後悔して自分達に最大限の謝罪をしているということを。
 ひなたさんは花さんによるみやこさんへの「仕打ち」を理解したくはありませんでした。しかし、先ほどからの花さんの様子を間近で見つめたことで、花さんが自分自身の言動にひどく動揺していること、悪気はなかったのであろうこと、そしてこれからどうされようとしているのかを感じ取ったようです。常に親友としてそばにいただけでなく、周りの人の感情の機微に聡いひなたさんは、自らの激情に任せてひとしきり泣いた後はすっきりしたお顔になり、自らの足で立ち上がって花さんと改めて対峙されました。

ひなた。ごめん。謝りきれないけど、ごめんなさい。ひなたの大切な人を、私が泣かせてしまって
「ぐすっ 花。いいんだ。私も、ごめんな? 強くしちゃって腕、大丈夫か?」
「うん。平気だよ。ノアもごめんなさい。私のせいで、ノアの大事な人を悲しませて
「ハナちゃん

 そのように花さんから言われた乃愛さんは、しばし瞳を閉じて右手を自らの胸に当てました。その様はまるで、痛みを抑え込もうとされているかのように見えました。先程までの辛そうなひなたさんの姿を思い浮かべているのかもしれません。

ううん、ヒナタちゃんは強い子だから。ハナちゃんも知ってる通りに、ネ!」

 乃愛さんは花さんにそう返すと、いつも通りにかわいらしくウィンクをしてみせました。それは、もうこれで謝るのは終わりにしよう、今まで通りの自分達に戻ろうという、乃愛さんなりの意志表示のように感じられました。

 ひなたさんは花さんの左手を。乃愛さんは花さんの右手を。そして、ひなたさんと乃愛さんも互いの手を取り合いました。
 みなが硬く手を結びあうことで、それぞれが許し、許され、仲直りの証としたのでした。

「っはぁー。ドキドキしたけど、なんとかなったみたいね!」
「よかったぁ。よりちゃん、私、いろいろありすぎて、涙出てきちゃったよぉ
「かの!? まったく、仕方ないわね。胸くらい貸してあげるわ!」

 ひなたさんたち三人の様子を、間近で見守っていた小依さんと夏音さん。一時はどうなることかと冷や冷やされていましたが、ひなたさんたちらしい解決をしたことで、お二人とも安堵の表情を浮かべています。特に夏音さんは、身近な大切な人である小依さんとひなたさんそれぞれが強い口調で声を張り上げる様を目にしたことで、精神的に疲弊してしまったご様子。しかし、辛うじて円満な形で事態が収束したことから、今は緊張の糸が切れたのでしょう。小依さんの胸にお顔をうずめ、癒しを得ているようでした。
 素直に小依さんを頼り、甘えることのできる夏音さん。そして、夏音さんに自ら胸を貸すことのできる小依さん。お二人の関係性は見る者に安心感と安定感を与える盤石なものと言えるでしょう。

花ちゃん」
「はい

 子どもたちの様子を、傍からすべて見守っていた香子さん。一段落したと認識した彼女は、花さんにひとこと声をかけました。花さんもそれだけで意図を汲み取ったのか、ひなたさんと乃愛さんから手を離し、一歩下がりました。

「松本ォ! いたのか! なんだか顔が暗いぞ?」
「マツモトさん

 それまで香子さんが目に入っていなかったひなたさんとは違い、乃愛さんは廊下に出た時から花さんだけでなく、香子さんの様子も気になって仕方がなかったようです。乃愛さんは改めて今の状況について考えを巡らせ、瞬時にどのような状況となっているのかを理解されたようでした。

ねぇ、マツモトさん。ミャーさんって、今
「ええ。ノアちゃんの考えている通りよ。だから花ちゃんを、ね?」
。よし、じゃあみんなでみゃー姉のところにいくぞ!」

 これから花さんが何をされようとしているのか、ひなたさんも察していました。そして、その花さんの顔色が蒼白かったことから、ここは花さんをサポートすべく全員で下に行こうと提案されたのでした。
 しかし────。

ひなた、ありがとう。でも、ごめん。一人で行かせてほしいの」
「花ぁ。だいじょうぶなのか? 顔がまっさおだぞ? なぁ、ノアもそう思うだろ?」
「ヒナタちゃん。これはね、ハナちゃんとミャーさんの問題なの。二人きりにさせてあげよ?」
「ノアぁ
「ひなたちゃん。ごめんなさいね。私もさっきみやこさんを元気づけようとしたんだけど、きっと今のみやこさんは花ちゃんにしか救うことができないと思うの」
「松本ォ

 みるみる残念そうなお顔になっていくひなたさん。誰よりもみやこさんのことを理解しているはずの自分が、何もすることができないと言われているようで悲しいのでしょう。しかし、ひなたさんは実際にみやこさんの様子を見た香子さんのことを信じて、他でもない「みやこさんが天使と呼んだ花さん」にすべてを託そうと思い直されたようでした。

花。ひとつだけ聞かせてくれるか?」
「うん」
「花は、みゃー姉のこと、好きか?」

 それは先ほど、友奈さんから問われたことと同じでした。花さんは「みやこさんの実の妹であるひなたさん」を前にして、どう伝えるべきか逡巡されました。しかし、結局はストレートに伝えることにしたようです。

好き。大好きだよ。お姉さんのこと」
わかった。花、みゃー姉のこと、頼んだからな!」

 その言葉が聞きたかったと、お顔に書いてあるようなひなたさんの表情。先ほどより若干ではありますが、顔色がよくなったようです。
「うん。お姉さんは、私が傷つけたんだから、私がなんとかしないといけないの。ごめんね、ひなた。ありがとう」

 花さんはひなたさんに、今できる精一杯の笑顔を向けました。それは、その日花さんが星野家に入られてから初めて見せた笑顔でした。
 こうして、花さんはひとり階下へと降りてゆきました。残されたひなたさんたちは、花さんとみやこさんが無事に仲直りできますようにと天に祈りながら、ひなたさんのお部屋で待機することとなったのでした。







07 「オペラケーキ ★★★☆☆」



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  #私に天使が舞い降りた! #わたてん! #星野みやこ #白咲花 #花みや #みや花 #三人称神視点客観型



「私のこと……好き、なんですよね……?」

それは、愛の同定。


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  ──   わたてにんぐ☆オペラ         ──
  ──   07 「オペラケーキ ★★★☆☆」   ──
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花、ちゃん

 花さんに言われてしまった後。駆け寄った香子さんにお話を聞いていただき、抱きしめていただき、そしてお顔をきれいに拭いていただいたみやこさんでしたが、しかしながらその心は一向に晴れない状況が続いているようでした。

私、どうして。こんなに、打たれ弱かったっけ

 心は晴れないながらも、先程よりは落ち着きを取り戻してきたみやこさん。今の自分が、自らが思っていた以上に打たれ弱かったことにもショックを受けているようです。
 ボウルに入っていた生クリームがフローリングの床に広がっています。しかし、それをきれいにしようという前向きな心持ちには到底なれずに、キッチンの床で膝を抱えて縮こまっています。

「花ちゃんも、香子ちゃんも、行っちゃった。追いかけたいのに、なんで、私、動けないんだろう
まるで私みたい。私はこんなに真っ白じゃないけど

 足元の生クリームを見つめながら、みやこさんは誰にともなく呟きました。そのお顔は徹夜明けの朝よりも淀んでいるように見えます。

ふわふわと浮かれて、好きなことしかしないし、みんなから叱られても、直そうともしない
「ふわふわしてると、こうしてひっくり返ってみじめになっちゃう。さっきまできれい、だったのに

 はぁと、震える声で大きなため息をつくみやこさんは、自分の膝にお顔をうずめ、耳を塞ぎました。それは、ご家族であるひなたさんが過去に幾度か目にしていた姿でした。中学時代に人間関係で失敗し、心を閉ざしてしまった頃によく見られたその姿は、まるで外界からの接触を拒むかのように自らの殻を強固なものにしようとする強い意志の表れのようにも見えます。

私の顔なんて見たくない、か。そりゃそうだよね。普通にお菓子をくれる訳でもないし、花ちゃんがお菓子を好きだと知った上で、それで釣ってコスプレさせて写真まで撮るような私だもんね。むしろ、よく今まで付き合ってくれたな
「花ちゃん。あの日、あの時、うちの玄関で花ちゃんを初めて見た時。本当に、私に天使が舞い降りたんだって、そう思った。いつもなら知らない人に近づいたりしないのにあの時はすごく頑張ったんだよ。私

 みやこさんは目を閉じ、耳を塞ぎつつ、心の中を整理するかのように自らの想いを訥々と呟いていきました。

ひなたは私のこと、いつでも本当に支えてくれる。お母さんも厳しいけど、私のこと理解してちゃんと見てくれる。私にはもったいないくらい、素敵な家族。それが、私の唯一の居場所だったんだ。でも
「あの時、花ちゃんを見た時。これを、この機会を逃したら、私は一生今のままかもしれないって、そう思った。そう思うことができたんだ。だからね、必死だったんだ。あの時の私」
「人見知りだし、初めて見る人だし、ひなたの友達でもあるし。ヘタなことはできないし、できるつもりもなかったけど。でも、胸の奥がね、もにょっとしたの。あんなの、初めての感覚だった
「そんな感覚知らなかったけど、今思えばあれは、間違いなくひとめぼれだったんだと思う。今でも、花ちゃんのこと考えると、胸がもにょっとするんだ
「私のそう。運命の人。今動かなきゃ、今話さなきゃ、運命が手から零れおちていっちゃう。舞い降りた天使が、また飛び立って行っちゃう。そう考えたら、何もかも後回しにして、体が、口が、動いてたの

 みやこさんの、紛れもない本心が語られてゆきます。それはこれまで、誰にも──それこそ妹のひなたさんにすら──話すことができなかった、心の奥底の真実でした。

 花さんを失った悲しみから、心の箍が外れたのでしょう。何はばかることなく洗いざらい吐き出してゆきます。

「花ちゃん花ちゃんっ! 好き。大好きなんだよ。気持ち悪いかもしれないけど、それでもいい。私、花ちゃんのこと、愛してるんだよっ! うっ うぅ!」

 枯れたと思われた、みやこさんの涙。想いが極まった今、再び堰を切ったかのようにとめどなく溢れてきました。

「うぅ~ 花、ちゃん 好きなの。好きで、ごめんね。愛してて、ごめんね。こんなこと言われたくないよね、花ちゃん ごめんぐすっ」

 みやこさんは溢れてきた涙をジャージの袖で拭う為、両耳から手を離されました。
 その時────。
 みやこさんは自らのものとは異なるすすり泣く声を、すぐそばから聞いたような気がしました。

「ぐすっ。うっ、うぅ~
えっ?」

 みやこさんが涙に濡れるその瞳を開きました。すると、目の前には他でもない、花さんその人がいました。
 花さんはみやこさんの目の前に座り込んで、みやこさんのことを見つめながらボロボロと大粒の涙をこぼしています。

「お、おねえおねえ、さん。ぐしゅっ」
「ええぇ? 花、ちゃん?」


 パサッ   シュリ


 みやこさんが訪ね終わる前に、花さんが動きました。涙にまみれながら、まるで泣き崩れるかのようにフローリングの床へとその上体を触れさせました。

 キッチンには二人のすすり泣く声と、花さんの美しい黒髪が床に当たる音のみが響いています。

は、花ちゃんっ! ど、どうし」
「お姉さん」
「花ちゃん?」

 花さんのその艶然とした黒髪の動きに、不謹慎ながらも見惚れてしまったみやこさん。はっと気を取り直して、泣き崩れてしまった花さんに声をかけました。
 しかし、そのみやこさんの声に被せるように、凛とした花さんの声が響きました。

「お姉さん、ごめんなさい」
「私、お姉さんのこと、傷つけてしまいました」
「本当に、ぐすっ、ごめん、なさい

 花さんは理由を言いませんでした。それは、例の発言に至った背景を語ることで謝る対象のみやこさんの同情を買うまいという、強い決意の表れであるかのように感じられました。

「あのとき、なんにも考えないで、言ってしまいました」
「お姉さんを、深く傷つけるとわかってたはずなのに、なんにも考えないで、私っ」

 ただひたすらに、傷つけてしまった事実に対しての謝罪を重ねる花さん。先ほどからの体勢を維持したまま、花さんの謝罪は続きました。

「お姉さんに、そこまで好かれていたなんて、気づきもしないで、私、ひどいことをぐすっ」
「お姉さん、本当に、もうしわけ、ありませんでした!」


 花さんの硬い決意の元に行われた謝罪。それが一通り終わりを迎えた今、先ほどまでの気迫は影を潜めました。ごく普通の「泣いている女の子」に戻った花さんは、先ほどと同じ姿勢で肩を震わせながら、耐え忍ぶかのようにむせび泣いています。

 一方のみやこさん。蛇に睨まれた蛙のように動くこともできず、ただただ花さんの様子を見つめることしかできませんでした。目の前の小さな、うずくまる花さんの様子に圧倒され、声を発することができないようです。
 みやこさんは花さんの涙をこれまであまり見たことがありませんでした。以前、みやこさんが驚かせた時に涙を浮かべていたくらいで、今のように感情をストレートに発露させたことで涙している花さんを、みやこさんは初めて目にしました。愛する人の後悔の涙を、自らへの謝罪によって見ることとなったみやこさん。そのことに混乱もしていましたが、泣きじゃくる花さんを前にして、みやこさんは漸くその謝罪の意味を少しずつ考えることができるようになったようです。

「(花ちゃんそんなに泣いて私のせいで、ごめんね。花ちゃんにあんなことを言わせた私が、本当は謝らなきゃいけないのに)」
「(私と顔を合わせたくないんだろうな。それで突っ伏してるんだよね? 床に突っ伏しあれあれ? まさかこれって)」

 みやこさんは花さんの様子をまじまじと見つめて、漸く悟ったのでした。

「────────っ!! あ、あぁああっ! はな、花ちゃん、ダメ、ダメだよっ! そんなのっ!!

 そう。花さんのそれは「土下座」でした。以前、花さんに問い詰められ、みやこさんが答えられない時に奥の手として使った「それ」を、花さんは実践したのでした。決して顔を合わせられないからではなく、もうそれしか謝る方法がないと花さんが思い詰めた結果の「最終手段」でした。
 花さんの真意を瞬時に悟ったみやこさんは、目の前の花さんが頭の前で揃えている小さな両手を取り、花さんの上体を床から引き剥がし、自らの胸にその細い体を抱き込みました。そして、心底いとおしそうに花さんの額に頬を当て、痛くないようにゆっくりすり合わせました。

「花ちゃん、花ちゃん! ごめんね、ごめん
「お、ねえ、さん。なんで悪いのは、私で、謝るのは私、なのに。なんでお姉さんが、謝ってるんですか

 みやこさんは少しだけ腕を緩め、花さんの瞳を見つめました。互いに濡れている瞳に、互いの顔が映りこみます。

いい? 花ちゃん。もう土下座なんてしちゃダメだよ? 確かに花ちゃんに言われて、死にたくなったけど。でも、それでもやっぱりダメ」
「ぐすっ。なんで、ですか? お姉さんは、私たちにしてたのに。私だって、ぜんぶ投げ捨てて謝らないといけない時が、あるんです!」
「私がね、許せないからだよ。花ちゃんに、土下座させるような人、ぐすっ 絶対に許せないから! 何があっても、もう絶対にしないでね?」
おねえ、さん

 「それ、今だとお姉さんですよ?」と心に浮かべた花さんでしたが、みやこさんの溢れる想いを一身に受けて空気を読まれたようです。
 みやこさんの熱い想いを確認した花さんでしたが、しかし、どうしてもはっきりさせておかなければならないことがありました。

「おねえ、さん」
「なぁに? 花ちゃん
「私のこと、怒らないんですか? 私に言われて、死にたくなったんですよね?」
「怒るわけないよ。口が滑っちゃっただけなんでしょ? それだけなのに、私がショックを受けすぎたからこんなことさせちゃったんだし
「許して、もらえるんですか?」
「許すよっ! 花ちゃんなら、私、何されてもいいって思ってるもん!」
「お姉さん

 みやこさんは再び花さんを抱きしめました。花さんもみやこさんの想いを受け止め、みやこさんの胸に顔を埋めつつ、背中に両腕を回されました。

「い、痛い
「は、花ちゃん、ごめん。強かった?」
「いえ


 ジジッ  ジイィィーーーーッ


「花ちゃん、な、なに?」

ジャージのチャック、痛いので」

 花さんはみやこさんのジャージのチャックを下げると、現れた真っ白なみやこさんのシャツに再び顔を埋めました。痛くなくなったのでしょう、そのお顔はとても安らかなものに見えました。
 みやこさんは花さんの言葉がうっかり出てしまっただけのものと分かりほっとされました。しかし、安心されたことで今の密着具合がとても恥ずかしいものであると思えてきたようです。今さらながら、お顔が耳まで真っ赤になっています。

「は花、ちゃん。その、ね? ちょっと、恥ずかしいかなーなんて」
「すん、すん。お姉さん、今日も甘くていいにおい
「ちょ、ちょっと、花ちゃんーー!?
「お姉さん」
「は、はひ」
「私のこと好き、なんですよね?」
「そ、それは
「その。愛して、くれているんですよね?」
「────っ!!

 お口をぱくぱくとさせているみやこさん。直接伝えたことのないその想いを花さんが知っているという事実に打ちのめされているようです。
 回らない頭で考えたみやこさんは、漸くひとつの可能性に辿り着きました。

「も、もももしかして、さっきの私のひとりごと、もしかして花ちゃん?」
当たり前じゃないですか。ぜんぶ聞こえてましたよ
「ああああああああああぁっ! あああぁぁああぁあああああーーーーーーっ!」

 絶叫されるみやこさん。それはかつて乃愛さんにホワイトリリィの名乗りを見られた時をも上回る声量でした。
 それを至近距離で耳に叩きこまれた花さんでしたが、みやこさんの胸で両耳がぴったり塞がれていたこともありあまりダメージはなかったご様子。むしろ、みやこさんの胸づたいに聞こえる声がいつもの声より幾分か低く聞こえて心地よく響いているのでしょう。とても幸せそうなお顔に見えます。

「もう。なに恥ずかしがってるんですか。今、二人しかいないのに
「二人っきりだからだよっ! ああ、もう、恥ずか死ぬ!」

 みやこさんは今の真っ赤なお顔を見られないようにと胸元の花さんを軽く抱きしめながら、先ほどまでとは違った意味合いの涙を目尻に浮かべられています。
 花さんはうっとりとした表情で目を閉じながら、みやこさんの感触を堪能されたのでした。

はぁ。お姉さん、まだまだですね







08 「オペラケーキ ★★★★☆」



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「お姉さん、今日のお菓子はなんですか?」

それは、かけがえのない日常。


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  ──   わたてにんぐ☆オペラ         ──
  ──   08 「オペラケーキ ★★★★☆」   ──
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「みゃーこ! はなねーちゃ!」

 たたたっと小さな人影が抱き合う二人に走り寄りました。そう、友奈さんでした。お昼寝から覚め、香子さんたちと合流した友奈さん。みなさんと共に階下へと降りていらしたようです。
 走り寄った友奈さんは、みやこさんと花さんの近くで座り込み、お二人の様子をじっと見つめていらっしゃいます。

「あー! ゆうずるいぞ! 私も混ぜろーっ!」
「ちょっとヒナタちゃん!? さすがに今は二人きりにさせてあげよ? でも、ミャーさんよかったネ! にゅふふ」
「これで一件落着ね! ほっとしたわ」
「うんうん。よかったねぇ、よりちゃん」
「あぁ、みやこさんいい笑顔だわ! カメラ、カメラどこにやったかしら

 みやこさんの絶叫で何事かと階下へと降りていらしたみなさんでしたが、その後もしばらくお二人が落ち着くまでキッチンには入らず、リビングでじっと息を潜めていらしたようです。
 乃愛さんはみやこさんへ突撃しかかったひなたさんを両腕で抑え込み、ご自分の方へと引き寄せつつみやこさんたちを祝福されています。
 小依さんは腰に両手を当て安堵の表情を浮かべ、その傍には満面の笑みを浮かべている夏音さんがいらっしゃいます。
 香子さんは紅潮するみやこさんのベストショットを撮ろうとカメラを探していましたが見つからず、仕方なく事前に仕掛けておいた星野家内の定点カメラによる映像を後で堪能されることにしたようです。

「────────っ!!
あ。ゆうちゃん
「はなねーちゃ、だいじょぶ? ないてるの?」
「うん。これはね、嬉しいんだ。大丈夫だよ。ゆうちゃん、ありがとう」

 再び真っ赤となり声も出せないみやこさんとは対照的に、落ち着いた対応をされる花さん。みやこさんの胸に顔を埋めつつ、友奈さんに顔を向けて幸せそうなお顔をしています。

「お姉さん」
「う、は、花ちゃん?」
「大丈夫なら、やりましょう」
「な、なに、を?」
今日はお茶会だって言ってたじゃないですか。なんだかとても甘い匂いもするので」
「あそ、そうだったね。うん」
「お姉さん、今日のお菓子はなんですか?」

 まるでいつも通りであるかのような会話が繰り広げられています。それこそ、二人をそれとなく気遣う周囲のみなさんが拍子抜けするほど「何もなかった」かのように花さんはみやこさんに接されています。唯一普段と異なることといえば、お二人が未だに抱き合ったままということくらいでしょうか。
 みやこさんは花さんに密着されて平静さを失っているようですが、それでも花さんの為に普段通りに接しようと努力はされているようです。必死に花さんからの問いかけに応えようとされています。

「そういえば、なんだかチョコレートみたいないいニオイするね☆」
「みゃー姉! 今日はチョコのお菓子か!」
「本当だねー。でもバレンタインデーは先月だったかなぁ」
「かの、別にいいんじゃない? チョコレートおいしいんだからいつ食べたって」
「それもそうだねー、よりちゃん♪」

 みなさん思い思いに、おいしそうに漂う香りに心を弾ませているご様子。
 花さんはみやこさんから離れると、キッチンの布巾を手に取りみやこさんのすぐそばに戻られました。

 そして、床に広がる生クリームを拭き取り、きれいにされていきます。
 花さんが離れたことで少々名残惜しそうなみやこさんでしたが、花さんの行動を見て慌てて立ち上がりました。

「は、花ちゃん! ごめんね、私が片付けるから
「いえ、これは私がきれいにします。お姉さんはお茶会の準備をしてください」

 みやこさんは花さんにそう言われましたが、しかし、その場から動けず花さんに拭き取られる生クリームを凝視されています。

「(花ちゃんが。私みたいな残念なクリームを拭き取ってきれいにしてくれてる)」
「(花ちゃんに、私のことまできれいにしてもらってるみたい)」
「(ありがとう、花ちゃん)」

 花さんのまだあどけない手元を見つめるみやこさん。一心にクリームを拭き取る花さんによって、ほどなくしてキッチンの床はきれいになりました。花さんは満足そうな笑みを浮かべると、足元を見つめたままのみやこさんに気づいて視線を送りました。

お姉さん?」
「花ちゃん」
「はい」
「お湯を沸かして、お茶の準備してもらってもいい?」
「っ、まかせて、ください」

 床を見つめていたみやこさん。花さんの視線に気づいて目を合わせると、優しく、そして輝く瞳で花さんに語りかけました。
 花さんはみやこさんの表情にドキリとして顔を紅潮させながらも、みやこさんの意図に呼応してお茶会の準備を手伝うことにされたようです。

「みゃー姉、私はー?」
「んー、じゃあひなたは生クリーム泡立ててくれる? 冷蔵庫に予備があるから、それを七分立てくらいで。お砂糖は気持ち多めでお願い」
「おう! まかせろ!」

「ミャーさん、アタシたちお皿とかフォークとかの準備するね。コヨリちゃんカノンちゃん、一緒にオネガイ☆」
「小依さんにまかせなさい!」
「うん。よりちゃん、一緒にやろうねー」
「みんな、ありがとう!」

 まるで歯車が回り出したかのように、それまで停滞していたお茶会の準備が進み始めました。
 友奈さんは香子さんの元へと走り寄って足にしがみつくと、顔を見上げて笑顔になりました。

「おねぇ!」
「ゆう。いい子にしててくれて、ありがとう」

 香子さんは友奈さんの頭を撫でると、友奈さんにつられて笑顔になりました。

「こ、香子、ちゃん」
「みやこさん
「あのね、その。さっきは、ありがとう。それでね、私と一緒にケーキの仕上げをしてほしくて。お願い、できるかな

 香子さんは一瞬、とても複雑なお顔になりました。しかし、すぐに友奈さんの手を握りしめ、いつもの笑顔となりました。

「ええ。もちろんよ! みやこさんのお願いなら、命に代えてでも全うするわ!」
「あ、ありがとう、香子ちゃん。えっと、作ってあるスポンジのベースを私が台の上でゆっくり回すから、上からコーティング用のビターチョコを垂らしてほしいんだ」
「結構な大役ね。でも、みやこさんとの共同作業ならきっとうまくいくわ!」
「うんうん? が、頑張ろうね!」

 みやこさんは冷蔵庫で休ませていた細長く四角いスポンジケーキを取り出し、冷え過ぎないよう予め冷蔵庫から取り出しておいた、黒々と艶のあるビターチョコレートの入ったボウルを引き寄せました。
 スポンジを回転台の上に乗せると、香子さんにボウルを託します。

「あら? このスポンジケーキ、間にクリームが挟まっているのね」
「うん。そうなんだ。薄くスライスするの大変だったけど、スポンジが7層、間にコーヒーバタークリーム、ガナッシュを薄く伸ばしてあるんだ」
「えっ 7層? これ高さ10センチくらいしかないわよね
「うん。このスポンジのベースだけで二日くらいかけたから」

 さらりと言ってのけるみやこさんでしたが、その意味するところを理解した香子さんは驚愕の表情を浮かべています。

厚めのスポンジを焼いて、休ませて、7ミリくらいに薄くスライスしてね。アルコールを飛ばした柑橘系のグラン・マルニエとシロップを合わせたものを薄く塗って一日休ませて、ガナッシュとコーヒーバタークリームを交互に3ミリくらいの厚さで塗って、重ねたんだ。何度も失敗しそうになりながら
「作ってるときにね、みんなの今、ここに来てくれているみんなのお顔が、笑顔が浮かんできて。大丈夫。絶対うまくいくって信じることができたの」
「だからこれはね、みんなの為に作ったケーキだけど、みんなのおかげでここまで作れたケーキなんだ」

 準備をしながら、訥々と語るみやこさん。その満ち足りた、幸せそうな輝く横顔を香子さんはじっと見つめました。

その大事なケーキの仕上げを。私と、していいの?」
香子ちゃん?」
「私なんかより、ほらこういうことするのに、もっとふさわしい子が」
「香子ちゃん」

 みやこさんは香子さんの言葉にあえて被せるように呼び掛けました。

ダメだよ。香子ちゃんが言ったんだよ? 「私なんかなんて言わないで」って」
「あ、そ、そうだったわね」
「今日はね、香子ちゃんにすごく励ましてもらったし、いっぱい慰めてもらえて、嬉しかったんだ。だからね

 みやこさんはその透き通った右目でしっかり香子さんを捉え、伝えました。

「これからも、私の友達でいてほしいの。私、同い年の友達って、香子ちゃんだけだから。だからね、このケーキを香子ちゃんと完成させたいって、そう思ったの」
もう、ずるいわみやこさん。そんなこと言われたら、引くに引けないじゃない」
「えへへ。ありがとう、香子ちゃん」

 「友達でいてほしい」というみやこさんの言葉で、すべてをふっ切ることができたのでしょう。香子さんはそれまでずっと伏し目がちでしたが、一転して爽やかなお顔になると、慎重にボウルを持ち上げました。

それにね、花ちゃんとはその、ケーキを切り分けるときにふへ、ふへへへ
「みやこさん?」
「う、ううん。なんでもない、よ。それじゃ、仕上げちゃおう」
「ええ。そうね」

 香子さんは慎重の上にも慎重に、ボウルを傾け直下のスポンジケーキへと少量ずつ垂らしていきます。その真剣さは、自らの目標であるみやこさんに近づこうとお裁縫の腕を磨いている時のそれをも上回っているかもしれません。みやこさんも均一にビターチョコレートでスポンジケーキをコーティングする為に、垂らされるチョコレートの量と速度に応じて回転台を回す速度を都度調整されていきます。手にしたパレットナイフでの微調整も忘れません。
 じりじりと息の詰まるような時間が流れる中、二人の様子を友奈さんもまじまじと見つめています。幼子にも真剣さはひしと伝わっているのでしょう。友奈さんも大好きなお二人にお声をかけることなく、静かに、そして真剣にお二人の手元を見つめています。
 時間にして5分ほどでした。当事者には永遠にも感じられる息詰まるコーティング作業は、二人の共同作業により無事完了したのでした。

「────っふぅ~~。で、できたぁ!」
「よ、よかったわ。失敗しなかったみたいね!」
「うん。ありがとう、香子ちゃんっ!」
「いいえ。こんなに心の籠ったケーキの仕上げを手伝わせてくれて、嬉しいわ。私こそありがとう、みやこさん」

 高さ10センチ、横幅12センチ、縦幅40センチほどの細長いそのケーキは、まるで漆黒のピアノをイメージさせるような光沢のあるものとなりました。

「あとは、食べる直前まで冷蔵庫で馴染ませて、と。よし、香子ちゃんみんなのところに行こう」
「ええ。ゆう、行きましょう」
「うん!」

 みやこさんは香子さんの手を取ると、すぐ隣のリビングに嬉々として移動していきます。香子さんも友奈さんも、嬉しそうなみやこさんの様子に互いの顔を見合わせ、つられて笑顔になりました。
 こうして、みなさんの協力もあり同時並行で準備を進めることができた為、あっという間にお茶会が開催できる運びとなったのでした。







09 「オペラケーキ ★★★★☆」



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「それじゃあ、みんな。めしあがれ」

それは、愛の結晶。


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  ──   わたてにんぐ☆オペラ         ──
  ──   09 「オペラケーキ ★★★★★」   ──
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 ひなたさんがオーダー通りに七分立てに仕上げた生クリームをみやこさんが確認し、ひなたさんの頭を撫でた直後に抱き付かれ、それを乃愛さんに引き剥がしてもらうといった日常の風景を挟みつつ。
 みやこさんは花さんに沸かしていただいたお湯をティーポットに入れ、ポット全体を温めてから人数分のカップにもポットからお湯を移していきます。ティーポットとカップを温めることで、飲む時も冷めにくくするというみやこさんの細やかなご配慮のようですね。花さんにダージリンの茶葉の量を伝えてティーポットに入れていただき、お湯はみやこさんが注ぎます。

「ひなたー。ごめん、椅子をいくつかこっちに持ってきてもらっていい?」
「そっちでやるのか! ノア、手伝ってくれ!」
「はーい☆」
「ケーキ出してくるから、みんなは座って待っててねー」

 ひなたさんと乃愛さんが人数分の椅子を用意され、ダイニングキッチンの縦長のテーブルに8人全員が着席しました。3名、2名、3名とコの字型にぐるりと並び、ひなたさん、乃愛さん、花さん、みやこさん、香子さん、友奈さん、夏音さん、小依さんの順でお座りになっています。友奈さんの椅子は子ども用のハイチェアが用意され、テーブルからの距離も適正です。恐らく、過去にみやこさんとひなたさんがお使いになっていたものなのでしょう。
 みなさんの前には、乃愛さんたちが並べてくださったお皿とスプーン、フォークが置かれ、花さんみやこさんの淹れたダージリンの紅茶が添えられています。蒸らしも終えて芳しい香りが部屋全体に漂っています。そして、みなさんが目を奪われているのはみやこさんの手元にある漆黒のケーキ。硬質な艶が美しいそれの隣には、搾り出し袋が置かれています。そう、ひなたさんが一生懸命泡立てた生クリームです。

「おおー! おいしそうだな、みゃー姉! 何日もかけて作ってたのはこれだったんだな!」
「お姉さんっ 生クリーム多めでお願いします!」
「ミャーさんスゴイの作ったネ! これはなんていうケーキなの?」
「これはオペラって言うんだよ。オペラ座の豪華なイメージで、本当は黒いケーキを金箔で飾り付けするの。今日は代わりに生クリームだから、オペラ風のケーキだけどね」
「じゃあ、これ食べたら歌がじょうずになりそうね!」
「あはは、そうだねーよりちゃん」

 みなさん素晴らしいオペラケーキを前にテンションも最高潮のご様子。みやこさんは瞳をしいたけの様に輝かせている花さんに声をかけました。

「花ちゃん」
「はい! 味見ならまかせてください!」
「あのね、その。このケーキを、私と一緒に、切り分けてほしいなって
「え。私と、ですか?」
「う、うん。そのダメかな?」

 意味を図りかねた花さんは、キョトンとした顔でみやこさんを見つめています。みやこさんは真っ赤になり、目を泳がせてしまいます。
 そこへ助け船を出したのは、みやこさんの様子からすべてを察した乃愛さんでした。

「ハナちゃん。ミャーさんの言うとおりにしてあげよ?」
「ノア。いつもなら私がナイフ持つと危ないって言うのに」
「ミャーさんも一緒だからぶきっちょなハナちゃんでもダイジョウブだよ! ほらほら」
「ちょっと

 事情が分からず戸惑う花さんの背中を押して、乃愛さんはみやこさんに花さんを押しつけました。そして、みやこさんに可愛らしくウィンクすると、ひなたさんのお隣へと戻られました。

「お姉さん?」
「は、花ちゃん。これ、一緒に!」

 緊張の為、カタコトになっているみやこさん。少し震えている右手には、ケーキを切り分ける為のケーキナイフが握られています。

分かりました。一緒に切り分けるんですね」

 花さんはそれだけ言うと、みやこさんの左側に移動して、みやこさんの右手にその小さな両手を添えました。
 みやこさんは一瞬ビクッとしましたが、気を取り直して目の前のケーキにナイフを向けました。

「花ちゃん」
「はい」
「ありがとう。ありがとう、花ちゃん
? はい

 みやこさんはケーキの端から3センチほどの厚さでひときれ切り分けると、ケーキサーバーで小皿に取り分けました。そして、銀色のスプーンを手に取ると、小皿のケーキを一口分すくいます。

「は、花ちゃん。あーんして?」
「いただきます! あーんっ」

 花さんは一番乗りでケーキを味わえたことが嬉しかったのでしょう。輝く瞳でスプーンをくわえると、いつもの幸せそうなお顔になりました。

花ちゃん、ありがとう。じゃあ、みんなの分は私が」
「ミャーさん、待って!」

 みやこさんが再びナイフを手にしようとした、その時。二人の様子を見守っていた乃愛さんが待ったをかけ、立ち上がりました。

「ノア、ちゃん?」

「そこまでそこまでやったんなら、ちゃんと最後までやろう?」
「い、いいんだよ。これは、私の自己満足みたいなものなんだから
「ダーメ! ハナちゃん」
「ノア、どうしたの?」
「ミャーさんのスプーン持って」
「これ? 持ったよ」
「それでミャーさんと同じようにケーキすくって、ミャーさんにあーんってしてあげて」
「えぇ。なんで私がそんなこと」
「ノアちゃん、いいんだよ。花ちゃんにはなんにも説明してないことなんだし

 それを聞いた乃愛さんは眉の下がった悲しそうなお顔になりました。そのまま瞳を閉じ、しばし考え込んでから、再び強い意志を感じさせる瞳を開きました。そして花さんの傍に寄り、肩に手を乗せ花さんの瞳を見つめました。

ハナちゃん。あとでアタシから説明してあげる。だから今は、アタシのいつものワガママだと思って言うこと聞いてほしいの。オネガイ」
「ノアがそこまで言うなら。うん。分かった」

 花さんはみやこさんから受け取ったスプーンで同じようにケーキを一口分取り、みやこさんに向き直りました。

お姉さん。はい、あーん」
「は、花ちゃん! あーんっ
「ミャーさん、よかったね! オメデトー!」


 パチパチパチパチ


 乃愛さんは拍手しながら、ひなたさんたちにも目配せをしました。その表情は、話を合わせてほしいと懇願されているように見えます。

「お? おー。花、みゃー姉、よかったな!」
「よくわかんないけど、おめでとう、二人とも!」

「ノ、ノアちゃん。今のってやっぱり?」
「うん。カノンちゃんの考えてる通り」
「そっかぁうん。よかったですね、みやこおねぇさん!」


 パチパチパチパチパチパチパチパチ


 頭に上に大きな「?」を浮かべた花さんと、感動の涙を滲ませているみやこさんを取り巻いて、天使たちが祝福しました。

「あぁ。なんて幸せな光景なのかしら。みやこさん、本当によかったわねぇ。おめでとう!」
「みゃーこ、おめでと!」
「みんなぁ。ぐすっ ありがどぉ~!」

 泣き崩れそうになっているみやこさんを、傍らの花さんが支えます。みやこさんを見上げる花さんは、みなさんからの謎の祝福に包まれて若干不機嫌そうなお顔をされています。しかし、その頬はほのかに赤らんでいるようにも見えました。

「もう、お姉さんは。あとでちゃんと説明してもらいますからね」
「う、うん。ごめんね、花ちゃん
「ほら、みんなの分、ちゃんと切り分けて食べましょう」
「うん、うん。そうだね、そうしようね」

 花さんはご自分のハンカチでみやこさんの涙に濡れる顔をきれいに拭き取ると、みやこさんにナイフを手渡し、ご自分の席に座られました。
 みやこさんは3センチ程の幅にケーキを切り出しては、ケーキサーバーでお皿に移し、最後の仕上げとして生クリームをトッピングしていきます。リクエスト通り、花さんには多めに添えたようです。
 それぞれにお皿を回してもらい、全員にケーキが行き渡ったことを確認したみやこさんは、みなさんお待ちかねの号令をかけたのでした。

「それじゃあ、みんな。めしあがれ」







10 「エピローグ」



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「私、お姉さんのことが────────────────」

それは、天使の再臨。


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  ──   わたてにんぐ☆オペラ         ──
  ──   10 「エピローグ」          ──
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「「「「「「「いっただっきまーす!」」」」」」」

 みなさんケーキを目にしてから結構長い時間お預け状態となっていましたので、ほぼ同時に一口目を頬張りました。

「はぐっ んくっ ん~~~~~~~~~!!
「やっぱみゃー姉のケーキは世界一だな! おーい、花ー。ゆっくり食べろー」
「ハナちゃんらしいネ。でも、このケーキホントすごいおいしい。お口の中でするっと溶けていくけど、喉が焼けるような甘さがなくって
「かのが作ってくれるお菓子も、同じくらいおいしいけどこれはちょっと飛びぬけてすごいわね」
「えへへ。ありがとう、よりちゃん。でも本当すごいね、このオペラケーキ。ケーキは大人の味わいで、生クリーム付けてちょうどいい甘さなんだねー」
「ゆう これすき!」
「すごいわみやこさん。絶妙なバランス感覚! ああ、体の中にみやこさんの手塩を感じるぅ~~~!」

 みなさんそれぞれ、みやこさんお手製のオペラケーキについての感想を述べ合っています。そのお味は、総括すると「甘すぎずほろ苦く、とろけるような口当たり」「甘めの生クリームをつけて子どもたちにはちょうどいい」といった上品なもののようです。それと合わせる飲み物は香りの強い紅茶やコーヒーがよさそうですが、そこはさすがみやこさん。ダージリンというしっかりとした香りの紅茶を用意する抜け目なさで、本日のお茶会はほぼ完璧な仕上がりと言えるでしょう。
 みやこさんがおかわり用にと、ふた切れ目を温存する切り分け方をしていることにみなさん気づいていたようです。ひと切れ目を早々に平らげた天使たちは、花さんを筆頭にそれぞれおかわりをされました。

「それにしても。今日は、本当にいろいろとあったねー」
「そうね! さすがの私もびっくりしちゃったわよ」
「私もそうだぞ! まさかあんなことになるなんて思わなかったからなー」
「で、でもホラ。アタシはヒナタちゃんともっとなかよしになれたから、今日はウレシイなー☆」

 お腹も満足されたのでしょう。みなさんしばしご歓談といったご様子。夏音さんを皮切りに、小依さんたちが相槌を打つ形でおしゃべりが始まりました。
 満足そうなお顔で紅茶をすすっていた花さんでしたが、みなさんの会話を聞いて複雑なお顔になり、紅茶の水面をじっと見つめました。
 ケーキカットの一件から花さんの様子を気にかけていた乃愛さんは、花さんとの空隙を少しだけ詰めると小声で呼びかけました。

ハナちゃん?」
「ノア」
「なぁに?」
「さっきの。お姉さんとのケーキ切り分けからのあれ、なんだったの?」
「気になる? 今聞きたい?」
「うん。やっぱりちょっと、知らないままだと振りまわされてるみたいで嫌なの。お姉さんとは私、対等でいたいから
「そっかうん、そうだよね。さっきはゴメンネ? にゅふふ、実はあれはネ────────」

 乃愛さんは花さんに、これ見よがしに耳打ちをしました。イタズラ心からなのでしょうか、みやこさんには聞こえないような小さな声で、流し目でみやこさんの事を見ながら花さんに伝えています。
 その様子を見て、みやこさんは真っ赤になりながらも、乃愛さんの行為を止めることはしませんでした。まるでアケロン川に浮かぶ舟に乗る者のような面持ちで、目の前の天使たちの戯れを見つめていました。

「──────っ!? それって
「うん。ソウイウコト☆」

 乃愛さんの説明が終わったのでしょう。乃愛さんは花さんと少し距離を置き元の位置に──ひなたさんのお隣に──戻られると、優雅にティーカップを手に取りました。

 そして、主にみやこさんのことを慈悲深い天使のまなざしで見つめます。
 一方のみやこさんは、まさに懺悔の真っ最中というような真っ青なお顔に変わっていました。



 ──本当は花ちゃんに意味を説明してから、合意の上でやりたかったの。そうじゃないと、本当に私の独りよがりになってしまうから。
 ──でも、もし花ちゃんに意味を説明して、拒否されてしまったら。きっと私はもう、立ち直ることができないと思う。それが怖くて有耶無耶にしたんだ。
 ──それに、花ちゃんが好意的に捉えてくれたとしても。大きくなった花ちゃんと、万が一にも想いを通じ合わせることができたとしても。
 ──私たちが結婚式や披露宴を開くことはきっとできないし、それが分かってるのに花ちゃんに期待を持たせてしまうのは残酷なことだから。
 ──だから、独りよがりでもいいんだ。ううん、独りよがりだからいいんだ。
 ──これは、永遠の片思いの十字架。これを背負うのは、私ひとりでいい。
 ──花ちゃんにまでこんな──────────



「お姉さん」

 花さんは立ち上がり声をかけると、青い顔で俯いているみやこさんに近づきました。

「は花ちゃん

 みやこさんは花さんを見上げると、右目に溜まっていた涙がつぅと一筋零れおちました。
 花さんはそれを見届けると、みやこさんとの空隙を詰め密着しました。みやこさんの両肩に両手を置き、まじまじとみやこさんのお顔を見つめます。

「え?」
お姉さん

 花さんのお顔には、一言では言い表せないような複雑な感情が表れていました。今にも泣きそうな、それでいて、深い慈愛を感じさせるそのまなざしは、その場の誰の目からも天使のように見えました。
 花さんは左手を肩からみやこさんの右の頬へと移し、愛おしそうにやさしく撫でました。みやこさんの涙の痕跡を拭い、きれいにしようとするかのように。

「花ちゃん?」
っ」


 きゅぅ


 みやこさんの首の後ろに両手を回し、花さんはそのままみやこさんの頭を愛おしそうに抱きしめました。抱かれたみやこさんの方が慌ててしまっていましたが、花さんの感情の奔流が伝わってきたのでしょう。次第にみやこさんも落ち着いてきて、おずおずと花さんの背中に両手を回されました。

どうして、お姉さんはいつも、そうなんですか
「花、ちゃん
「もう、何があってもひとりで決めないで私も、一緒に決めたいので
「ごめんごめんね、花ちゃん!」
「私のこと、対等に扱ってください。それが、それだけが、条件です」
えっ?」

 「条件」という言葉に、みやこさんが反応し────。
 花さんはみやこさんから少し離れ、両手を腰の後ろで組む形で改めてみやこさんを正面に見据えました。

「────お姉さん」
「へ? は、はい
「私、お姉さんに言いそびれていたことがあったんです」

 頭上に「?」を浮かべ、くしゃくしゃのお顔と涙目で花さんのことを見つめるみやこさん。

 ちょっとだけ残念な、しかし、ある意味いつも通りのみやこさんを目にして安心したのでしょう。花さんはありったけの勇気と感情を込めて、みやこさんに伝えたのでした。





「私、お姉さんのことが────────────────」










 ────すべての始まりは、春も終わりの気配を出し始めた、昨年5月末のことでした。
 みやこさんにとって長らく唯一の天使であったひなたさん。そのひなたさんに導かれる形で次々と舞い降りた天使たちは、今やひなたさんだけでなくみやこさんのことも中心として集うようになりました。そして天使たちの活躍もあり、みやこさんは次第に外界へと目を向けることができるようになっていったのでした。
 みやこさんに自らの殻を破らせ、外界へと導き出す道標の役割を果たす存在を「天使」と定義するならば、香子さんも友奈さんも紛れもなく天使と言えるでしょう。


 そして今。まだまだ寒い日が続く3月下旬のこと。
 みやこさんは、天使たちの中でもとりわけ光り輝いて感じられた花さんと、心の深いところで想いを通じ合うことができました。
 ここに至るまでの波乱とすれ違い、慈愛と怒号、懺悔と赦しは天使たちの感情を大いに揺さぶりましたが、それらも収束してみればお互いの絆を深くするできごとだったと振り返ることができるでしょう。

 みやこさんも、時に自制が効かなくなるほどに愛と情熱で燃え上がってしまうことがありますが、その天使たちを包み込む、熾天使のように熱い愛を有するみやこさんを中心とした彼女たちの物語はこれから先もゆるやかに、穏やかに続いてゆくことでしょう。

 これから天使たちの歩む道に、幸多からんことを。











  ──────────────────────────
  ──                      ──
  ──   わたてにんぐ☆オペラ   完結    ──
  ──                      ──
  ──────────────────────────












あとがき





シリーズ「わたてにんぐ☆オペラ」に関する雑記となります。
執筆時に留意した事項などをまとめております。


  ────────────────────────────
  ──   あとがき・作品考察・執筆時注意点など   ──
  ────────────────────────────



 思いのほか長編となりましたが、この度は「わたてにんぐ☆オペラ(以下、オペラ)」をお読みいただきまして感謝いたします。

 こちらには執筆中に調査した内容や、人物描写をする際に注意していた点などを中心に、いろいろと記載したいと思います。


■読者の感じる疑問点についての整理
■「わたてん!」を読んだ個人的な所感
■二次創作小説を作る準備(プロット)
■二次創作小説を作る準備(キャラクター設定・守るべき鉄則)
■雑談


 このような分類で書いてみたいと思います。

■読者の感じる疑問点についての整理

1.「普段からもっと酷いことを言い合っている仲なのに、今更そのくらいで泣いたり後悔したりするのだろうか?」という疑問について。

 普段から花さんを中心に歯に衣着せぬことをズバズバと言い合っている天使たちではありますが、ここでその言っている内容について精査してみましょう。
 (以下、原作単行本1巻より抜粋)

例1 花さんからみやこさんへ)
「気持ち悪いです」
「お姉さんはバカですね」
「ニートじゃなかったんですか?」
「危ない人だと思いました」
「うそ下手ですか」

例2 乃愛さんからみやこさんへ)
「ミャーさんダメそう」
「ごくつぶし」
「ミャーさんのアホたれ 子供好き!」

例3 ひなたさんからみやこさんへ。またはみやこさんについての評価)
「みゃー姉は友達がいないんだ! かわいそうだろ!!
「みゃー姉はいらないって言ってた」
「みゃー姉のアホーー!!
「みゃー姉のしゃかいふてきごうしゃ!」

 かなり厳しいことをおっしゃる天使たちですね。
 ただ、ここで注目すべきは「どれもがほぼ個人的な感想」に留まっているという点です。つまり【「Aだと思う」から「Bする」】という形式のうち、「A」についてのみ直接的に伝えているのです。「B」という、「A」を受けた上で実際にどうする、どう感じるのかという部分がほぼすべてのシーンにおいてオミットされています。これは恐らく、椋木ななつ先生の絶妙なキャラクター設計と表現の成せる技と思います。ギリギリのラインでキャラクターに対する嫌悪感を回避できているのは、この「B」をオミットしていることが大きく影響しているのではないかと推測しています。

 花さんのセリフを例に取り上げますとこうなります。前半の「」内がA、後半の「」内がBの例です。

「気持ち悪いです」なので「もう二度と会いません」
「お姉さんはバカですね」「本当、軽蔑します」
「危ない人だと思いました」なので「もうひなたの家には行きません」

 一方、今回のオペラで花さんがみやこさんに言ってしまった「お姉さんの顔なんて見たくないです」という言葉は、前述の形式では「B」だけを伝えたことになります。

「(お姉さんの顔を見ると恥ずかしい)」ので「お姉さんの顔なんて見たくないです」

 ということになります。原作ではオミットされている部分のみを、あえて花さんに言ってもらった形になります。
 「A」だけの「気持ち悪いです」という言葉だけであれば、みやこさんも言われ慣れて(失礼)、「そうだよね、気持ち悪いよね。気をつけよう」という風に軽く落ち込むだけで済むと思います。ちょうど「コーヒーバタークリーム」にて、香子さんが最初に推測したのはこちらのニュアンスでした。
 しかし、今回のように「A」という理由が分からないまま、拒絶の意を示す「B」だけを言われた、言ってしまったとなると話が変わってきます。
 言われた側のみやこさんは理由が分からない為、これまでの自分の行いすべてが積み重なった結果、決定的に嫌われてしまったと捉えるはず。一年かけて築き上げた関係の瓦解を覚悟するでしょう。
 言ってしまった側の花さんも、普段は言わないようにしている(言ったことのない)直接的な拒絶を言ってしまい、みやこさんを泣かせてしまったことで同じく関係の瓦解を覚悟するでしょう。

 つまり今回のオペラでは、原作のやさしい空気を形作る一要素と考えられる、「具体的な拒絶の意志(B)を伝えない」という不文律をあえて崩し、花さんがうっかりそれを言ってしまったらどうなるか、を描いたものとなります。
 長くなりましたが、個人的に「わたてん!」という作品を読み解いた結果、「言ってはならない決定的なこと」は「B」の要素であろうと捉えましたので、今回はこのような流れのお話となりました。

2.「想いは通じてるはずなのに、関係性が巻き戻ってるように見える」という疑問について。

 「グラン・マルニエシロップ」にて、ひなたさんが乃愛さんに「好きだぞ」と伝えた結果、乃愛さんもそれに応える形で抱きつきキスをする。というシーンがありますが、その直接的な続きである「オペラケーキ ★☆☆☆☆」ではお二人の関係性が元に戻っているように感じられたかもしれません。乃愛さんはひなたさんの告白を受けた勢いで、そしてみやこさんへのライバル心から、更には乙女としてのプライドからひなたさんにキスをしたのですが、ひなたさんのファーストキスを奪ったことに罪悪感を感じています。一方のひなたさんもいつもの太陽のような大らかな対応ができなくなっており、その理由が自分でも分かっていない状況です。
 個人的な捉え方で恐縮ですが、「想いは言葉にして伝えあって初めて通じる」と考えておりますので、「グラン・マルニエシロップ」の時点では「乃愛さんからひなたさんへ」というベクトルでの想いの伝達がなかったことから、お互いの意思疎通が図れていなかったという形にしております。「オペラケーキ ★☆☆☆☆」にて小依さんからのアドバイス(?)により半強制的に想いを伝えあったことで「本当に両想いなんだ」と理解し、そこから先は関係性が安定します。
 同じく、花さんがみやこさんの想いを知り、受け止め、抱きしめ合うという「一見恋人同士であるかのように見えるシーン」の後の「オペラケーキ ★★★★★」において、みやこさんはケーキカットについて花さんには伝えず、ある意味いつも通りの「逃げの姿勢」にて自己満足に収めようとされるシーンがあります。また、その後も「エピローグ」にて「万が一にも想いを通じ合わせることができたとしても」「永遠の片思いの十字架を背負うのは私ひとりでいい」といった諦観と逃避寄りの思考からのセリフが見えます。これらも同じく「花さんからみやこさんへ」というベクトルでの想いの伝達がなかったことがその理由です。最後の最後、花さんからの告白を受けるまでは、自己評価の不当に低いみやこさんということもあり、花さんと両想いであるとは夢にも思えていなかった為となります。

3.「ケーキカット」について。

 これは説明するまでもないかと思いますが、結婚披露宴などで新郎新婦がウェディングケーキに「ケーキ入刀」をする、あの一連の儀式のことです。香子さん、乃愛さん、夏音さんといった「世間一般常識に聡く、天使たちの中でも(ご自分のお相手としてみたいという意味で)この分野に興味のある方」はこの行為の意味にすぐ気づく描写を入れました。
 一般的な儀式の進行としては、新郎が右手にナイフを握り、それに新婦が両手を添え、二人で初めての共同作業を行います。その後、カットしたケーキの一部を新郎がスプーンですくい、新婦へと食べさせます。その後、新婦側からも同様にスプーンでケーキを新郎に食べさせるという流れとなります。新郎が新婦にケーキを食べさせることは「一生食べるのに苦労はさせない」という意思表示であり、新婦が新郎にケーキを食べさせるのは「一生おいしい料理を作って食べさせる」という意思表示であるとする説が多いようです。
 このシーンで大活躍したのは乃愛さんでした。言い出せないみやこさんの想いを慮り、理由を説明すると長くなりすぎることから花さんには伏せつつも、みやこさんの望む形に収束させることに成功した乃愛さん。全般的に周囲のみなさんの気持ちを鑑みることを得意とされていますが、特にこのシーンではトリックスターと呼べる活躍をしていただきました。

■「わたてん!」を7巻まで読んだ個人的な所感

 「原作の子どもたちは精神年齢が非常に高い」というのが、初見時の感想でした。IQやEQといった指標がありますが、EQが実際の小学生と比較するとずば抜けて高いと感じました。言動は子どもらしく見えますがその実、内面はそれぞれ小依さんと花さんは中学生程度、夏音さんとひなたさんは高校生程度、乃愛さんに至っては大学生かそれ以上であると感じました。この「EQが高く感じる」という要素が、先にも書きました「Aは言ってもBは言わない」ということにも関連しているのではないかと感じました。この点は「特定のキャラに対する読者からの過度な嫌悪感を緩和する」という点においても絶大な効果を発揮しているように思います。
 精神年齢が高いということは、意外と簡単に鬱展開を作れてしまうということになりますが、しかしそこは原作者様がギリギリのラインで踏み止まっていることを慮って私もそれに倣うべきであろうと考えました。特に、乃愛さんの持つ感情は「女性としての愛情(愛憎)」を伴う非常に危ういものであり、みやこさんを含めた子どもたちの関係性のまま中学生~高校生になると必ず破綻をする系統のものであろうと推測できます。
 ただ、それぞれみなさん「子どもらしく見せかける為のギミック」をお持ちで、それにより表面上は確かに「子どものように見えて」います。この辺りの人物設計含め、原作者様は非常に深いところまで考え抜いて原作をお作りになっていると尊敬いたします。ギミックとしてはそれぞれ以下のようなもので、ひなたさんであれば「過度の姉好き」、乃愛さんであれば「価値観をカワイイに固定」、花さんであれば「甘味への尋常でない優先順位」、小依さんであれば「日常生活に支障の出る不器用さ」、夏音さんであれば「小依さんとの共依存関係」といったところでしょうか。みなさんこれらのギミックにより「子どもらしさを演出、味付けされている」と感じました。

■二次創作小説を作る準備(プロット)

 通常、ひとつの物語を作る場合、それもある程度の長編を作る場合は「プロット」と呼ばれるお話の設計図を作ります。しかし、今回は以下のような箇条書きだけで取りかかりました。

・全員が主役になるお話を作り、それぞれを繋げて1つのお話とする。
・順番は最初にひなたさん乃愛さん、ラストにみやこさんと花さん。他の方々は適宜入れられるところに。
・オペラケーキを構成する8要素(7層+生クリーム)になぞらえて各章のイメージを作り上げる。
・文章力向上の為、各章で文体を切り替える。(一人称・三人称・散文詩は取り入れたい)

 我ながら雑すぎたなと思いますが、その代わりに次項の「鉄則」についてはかなり練りながら書き進めておりました。

■二次創作小説を作る準備(キャラクター設定・守るべき鉄則)

 登場人物それぞれに「守るべき鉄則」を設けておりました。個人的にですが、「ここを踏み外してしまうとわたてん!二次創作ではなくなってしまう恐れがあるポイント」を書きだしております。
 お話を作る上で、自らに課した「戒め」のようなものも混ざっております。このようなことに留意しながら書きました、ということで

【全体的事項】
・本作では意図的に「主人公格」を定めない。その為に「三人称神視点客観型」での記述をメインとする。どなたのファンが読んでもわたてん!ファンであれば満足するような、「全員が主人公」と言えるような見せ場を全員分入れること。
・一般的なカップリングはすべて網羅すること。(ひなノア・みや花・みや松・よりかの)
・全年齢対象とする。ただし、子ども同士のキスまではお遊戯の範囲と捉えて許容する。
・基本的に各人の「好き」のベクトルは固定されている。二次創作といえどもそこは遵守。
・「好きを押し通す」人が多い為に埋もれがちな、「周囲の人のことを最優先に考え行動する」という天使のような彼女たちの側面を強く出す。
・私に天使が舞い降りた!の「私」とは誰なのか、「天使」とは誰なのか、どのような意味なのかを常に考え、場面ごとに切り替え適用し、最終的に腑に落ちる見解を示す。「みやこさんに花さんが」という狭義の意だけではないはず。
・彼女たちが「未成年であり子どもである」ということを忘れてはならない。「子どもの皮を被った大人」にならないように、19歳にできることの範囲、小学生にできることの範囲、物事に対する反応と対応、考え方などを年齢相当にする努力をする。原作からして元々彼女たちは全員大人びている為、雑味が混じらない程度に子どもらしさを表現すること。(乃愛さんについては後述するがこの限りではない)
・時期については、アニメ12話と原作7巻までの内容を両方ハイブリッドでこなしている時空における3月末ごろ。6年生への進級を間近に控えた時期。

【ひなたさん事項】
・柑橘系リキュールである「グラン・マルニエシロップ」のオレンジ要素を担当。乃愛さんとペアになる形。
・全体的事項に「好きのベクトル固定」と記載したが、ひなたさんのみやこさんへの感情は例外とする。ひなたさんのみやこさんへの想いは「恋慕」とすると拗れるので、本作では原作にて言及のある「刷り込み」と「シスターコンプレックス」の発展形となる「強い愛着と執着」という認識とする。
・乃愛さんに対しては「秘めたる愛情」を持っている。みやこさんへの感情が目立ち過ぎて普段は埋もれているが、事ある毎にムニムニ等スキンシップをしていること、「みゃー姉と同じくらい好き」という言質から、恋愛感情として好きであると定義。(ここは原作準拠から外れる可能性が大きい)
・花さんへは「姉を奪った子」という自分でも普段は自覚していない感情を持つ。その為、親友であるが無意識に「花さんによる姉への愛情の深さ」を推し量ることがある。「無自覚・無意識」がポイント。
・小依さん夏音さんは4年生の時からの友人という設定(原作での言及がない為)。ただ、誰に対しても対等に接することができるので、小学生組、そして松本さんとも分け隔てなく均一な友達関係にある。
・松本さんは「姉好き同盟」として仲間意識あり。何があっても同調してくれて味方になってくれるという期待感を持つ。

【乃愛さん事項】
・柑橘系リキュールである「グラン・マルニエシロップ」のイエロー要素を担当。ひなたさんとペアになる形。
・ひなたさんへは「強い愛情」を持つ。最終的に本作においては相思相愛となる。
・原作同様、松本さんと同じく状況を把握する能力に長けている。考えること、言動が大人びている。可能な限り周囲の人が幸せになれるように全力で動くことができる。
・ひなたさんが傷つけられた場合、強い憎悪を抱くことがある。しかし、それを剥き出しにすることは「カワイクない」と思っているので自制できる強い精神力を持つ。この辺り含めて大人びている。
・誰かの背中を押すことができる。それは自己肯定感が非常に強い為。
・年上が相手であっても、ダメなことはダメと言える。しかもそれを「相手の為に」言うことができる。原作からしてその年代では考えられないようなまさにトリックスター的役割を果たす。

【小依さん事項】
・オペラケーキの味のベースとなる「ガナッシュ」に相当する関係性を象徴。夏音さんとの盤石な関係性は本作においてベースとなる安心感の象徴。
・夏音さんとおさななじみで半身のようなもの。言わなくても通じ合える。恋愛感情ではないが、ある意味それ以上に強い結びつきを持つ。
・「自分が何とかしないといけない」という意識を持つ。頼られる人になる為にその積極性が欠かせないと思っている。そこに持ち前の不器用さが絡むと原作で見られるような事故が起きる。物語を回す役を担うことが多い。
・「不器用さの出し方」は要検討。原作とアニメでは出番があれば手当たり次第に不器用さを発揮しているが、本作では不器用ではない小依さんのよさを出したい。(ちょっとした救済処置として)
・ひなたさんとは1年以上の友達づきあいという設定。その為「ひなたさんの普段とは違う様子」について敏感。
・夏音さんのことは頼れる相棒。いつも必要な時に助けてもらえる為、口には出さないが感謝している。若干、夏音さんとは共依存関係にあるが、そこまで小依さんは夏音さんへの依存度が高くはない。

【夏音さん事項】
・オペラケーキの味のベースとなる「ガナッシュ」に相当する関係性を象徴。小依さんとの盤石な関係性は本作においてベースとなる安心感の象徴。
・小依さんとおさななじみで半身のようなもの。言わなくても通じ合える。若干恋愛感情寄りではあるが、それ以上の強い結びつきを持つ。
・小依さんが頼られる人になる為に無理をしてドジを踏むことが多いとよく理解している。先回りして支えることが身についている。本作でも基本的にそのポジションは変えないようにするが、夏音さんであっても予測できない小依さんの頑張りが発揮されるシーンを挟む。
・「聖母属性」と言われる年齢不相応の包容力について要検討。アニメのように常に落ち着き払って何事にも動じないと人間味に欠け「機械仕掛けの聖母」となってしまうので、本作でも包容力を発揮していただくがそれは小依さんに対してのみに留めるようにする。原作でたまに見られるような、困り、動揺し、疲れるという人間らしい描写を入れることで、より魅力的な人物像としたい。
・ひなたさんとは1年以上の友達づきあいという設定。その為「ひなたさんの普段とは違う様子」について敏感。
・小依さんにいつも引っ張ってもらっているという意識を持つ。心から頼りになると思っている。小依さんとはかなり強い共依存関係にあり、小依さんよりも「頼られることに頼っている」面がある。

【松本さん事項】
・オペラケーキの味のアクセントとなる「コーヒーバタークリーム」に相当する位置づけ。原作同様リアルに犯罪行為となる家宅侵入(住居侵入罪)をしていると類推されるセリフを挟み、コーヒーのような目の覚めるショッキングでスパイシーな側面を担当。
・とにかくみやこさんが大好き。ストーカーを自認するレベルの強い感情を持つ。みやこさん相手の時はいろいろと言動がおかしくなる。その意味でもひなたさんとは「類友」と言える。
・みやこさん以外の人と接するときは、驚くほど普通のお姉さん。妹の友奈さんにとってもよき姉であり、子どもたちから相談を受ける場合は年長者として振る舞うことができる。
・大学生らしく、全体を広い視野で見渡すことができる。状況を分析し、自分が振る舞うべきことを計画し動くことができる。

【友奈さん事項】
・オペラケーキの仕上げとなる「金箔(今回は生クリーム)」に相当する位置づけ。「7層のオペラケーキ」から「メインは7人であり友奈さんはおまけ」と捉えがちだが、友奈さんにしかできない役割がある為しっかりと描く。
・おねぇだいすき。みゃーこもだいすき。まわりのねーちゃもだいすき。おねぇがうれしいとゆうもうれしい。
・セリフはこのような「右脳言語」重視。幼子特有の「短く要件をズバッと言う」を徹底する。
・悲しんでいる人に寄り添える素直さを持つ。小学生組より幼く素直な為、それに助けられる人あり。
・強すぎる感情に溺れる天使たちを精神的に救える唯一無二の存在。ある意味オールマイティーカードの為、扱いは慎重に。

【花さん事項】
・オペラケーキの表面をコーティングする「ダークチョコレート」に相当する、みやこさんとのほろ苦い関係性を表現。
・花さんはみやこさんへの想いを自覚していないところからスタート。ここは原作準拠。自覚はしていないが、自分で思うよりも感情の高まりは強い。自覚するのは物語中盤。
・花さんからみやこさんへの積極的なボディタッチは法律上問題ないが、花さんの性格的に必要最小限とする。「押し入れスイッチ」と呼ばれる現象について使用するかどうか要検討。
・みやこさんのことは原作準拠で「何故か自分にだけコスプレさせたがる人」「何故か自分だけひなたを上回るくらいちょっかい出してくる人」「お菓子作りだけは評価できる」という認識。だが、本心ではみやこさんに自分が誰よりも大事にされていることを理解はしている。
・みやこさんに対して素直になれない。好意を受けていると認識して気を許すと、みやこさんが調子に乗るので避けたいと考えている為、無愛想な顔を崩さない。しかし内面ではみやこさんのお姉さんとしての包容力や甘い匂いが好きで、機会があれば包まれたいという潜在的な願望を持つ。
・物語中盤で上記の硬い態度が一変する。それは「何故か大事にされている」の「何故か」が判明する為。しかし、この時点ではまだ「みやこさんからの好意を素直に自覚する」「お友達として好きと自覚する」という段階。アニメ最終回で見られた「お姉さんのこと、嫌いじゃないですよ」の段階。(ここは要検討。元々みやこさんへの潜在的好意は持っているので恋愛感情に昇華するのもあり)
・前述の「みやこさんに対して素直になれない」ことが主な理由となる、致命的な関係瓦解を招く失言をしてしまう。このことに対し、どのように謝ればよいのかをずっと悩み続けている描写を入れる。最終的な解は、みやこさんが過去に自分達に示してくれていた、という展開としたい。(→DOGEZA)
・作者としては最終的に「お菓子のように甘い関係」を「天使のように美しい」花さんとみやこさんが結ぶ、という結末としたい。しかし、あえてラストシーンでは明言を避けることとする。読者側が最もふさわしいセリフを補完してくれることを期待し、余韻を残す為。

【みやこさん事項】
・ショコラティエとして、出揃った材料を使ってオペラケーキ(本作)を紡ぎ上げる主人公格。もっとも、本作では意図的に「主人公」は設定しない為、あくまで「みやこさんを中心とした物語」という範疇に留める。
・みやこさんから13歳未満である花さんへのキス含めた積極的な肉体の接触はNG。相手が13歳未満の場合、当人の合意があったとしても違法行為となるので要注意。(刑法第百七十七条)
・みやこさんから13歳未満である花さんへの直接的な告白までは合法だが、この辺りの認識については一般的に誤解が横行していることから可能な限り避けること。(独り言のつもりが聞かれていた、という形とするのが無難か。要検討)
・本作のみやこさんは花さんへ抱く「もにょっとした気持ち」が恋心であることを作中で自覚する。
・花さんのように「好きか嫌いか」という自覚だけで突き進むことができない。大人として、社会の目を気にする様子を必ず描く。同性愛、同性婚、パートナーシップ証明制度、LGBT(TIQQ2SA)などなど、これらを取り巻く日本社会の理解は絶望的なまでに低いことを自覚している様子を必ず入れること。
 →重すぎるくらいで丁度良い。天使たちの間だけの話であれば
  深刻さはなくなるが、ここを軽んじて軽率な考え、行動に出ると
  結果的に花さんを傷つけることになる為、みやこさんがこの点で
  苦悩する描写を入れる。最終的にみやこさんが決断するところまで
  描くかは要検討。(未成年にそこまで求めるのは酷かもしれない)
・補足事項として、みやこさんは自己評価が非常に低い。ひなたさんの学校での噂の尾ひれに恐れを抱いていたこともあり、必要以上に世間の目を恐れる傾向がある。
・「お茶会」は、みやこさんの内面の成長を表すポイント。好きな相手と「対価の交換」の手段としてお菓子と撮影を駆け引きするような段階を卒業するべきではないかという考えの表れの結果としての「コスプレ撮影を伴わないお茶会」という位置づけ。原作のみやこさんには見られないこのような点を表現できることは二次創作の醍醐味として取り入れたい。
・最後の最後で、みやこさん特有の「逃げ」を描く。そしてそれを天使たちにより阻止される様子を描く。
【シーン例1】みやこさんはケーキカットを花さんとしたいが、自己満足でよしとして諦める。
【シーン例2】最後まで自分の独りよがりだったという体にして、「片想い」で済まそうとする。

・わたてん!という物語は「みやこさんの成長物語」である為、逃げたり誤魔化したりする弱い部分を、周囲の人の助けにより克服する様子を描く必要がある。花さん乃愛さんなど意見をはっきり言える天使たちにより、弱いみやこさんが人間として成長を遂げる様を描くことが、わたてん!らしい物語であるという信条を持つこと。




■雑談

 普段から、物語(特に二次創作)を考える場合は、このようなレベル感での下調査・検討・考察・キャラ定義などを煮詰めてから記載するようにしておりますが、今回は少し度が過ぎたような気もしております。
 もう少しラフなスタンスで取り組めたらよかったのですが、初めて足を踏み入れる作品だったこともあり、入念な準備を重ねておりました。先人の二次創作作家のみなさま、そして原作者の椋木ななつ様への敬意の表れとお考えください。
 今回のお話で、漸く「わたてん!らしさ」は捉えられたかな? と感じておりますので、今後も引き続き書いていくことができれば嬉しく思います。

 表紙絵は原作単行本から、それらしいシーンを抜粋させていただいております。「わたてん!と言えばアニメの絵」という印象が強いのですが、椋木ななつ先生の味のある絵も大変かわいらしいので使わせていただきました。

 ちなみに、TVCMにてひなたさんが「びっくりマーク忘れちゃダメ!」と念押しされていましたので、略称は「わたてん!」が正しいのかなと考えておりますが、どうなのでしょうね。本作ではひなたさんのご意見に敬意を表して、「わたてん!」のタグをつけております。(ピクシブでは「わたてん」タグが大多数のようであり、ピクシブ百科事典でも「わたてん」固定となっておりますが



長文乱筆、失礼いたしました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。





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