DOSANの妻、という人。番外編 母の日の、おもいで。



これは、彼女にとって最後の母の日となった日の物語…


彼女は母親のことを愛していました。

母の日の贈り物を何にするか、祖父に相談したのです。

そして彼女は、大好きな祖父と共にある贈り物を作ることになったのです。


彼女はまだ、母親のことを愛していました。

そう遠くない将来に永久の別れを迎えるなど露にも思わず

彼女は母親の喜ぶ顔が見たくて一生懸命お手伝いするのです。


彼女は製作の才能があると祖父に誉められました。

「将来はマエストロね」と、母親にも誉められました。

彼女自身も祖父のような職人になりたいと願っていました。

しかし彼女はスカベンジャーの道を選んだのです。

35年前に起きた、クリスマスの事件をきっかけとして…。


これは、彼女にとって最後の母の日となった日の物語。

それは彼女が幼い頃の、幸せな日常の1ページ…




Page:1

彼女は探しています。35年前の「あの時」の記録を。

しかし何度探しても見つからず… 「あの時」の直前の記録を再生してみるのです。

一方、グルーディン村でいつものようにDSS販売を続ける爺や。

孫娘との幸せな記憶の断片に思いを馳せるのでした。









Page:2

それは幼き日の、祖父との幸せな記録の断片でした。

当時すでにウォースミスだった祖父は、母親を想う孫娘にひとつの提案をします。

「お母さんの為に、ソウルショットを一緒に作ってみないかの?」

彼女はそれが冒険者である母親に喜ばれるものだと知り、提案を受け入れました。


彼女は大好きな祖父と一緒に、何か作ってみたいと日頃から思っていました。

その願いも叶えられ、更に母親にも喜んでもらえる。

彼女は精霊石の粉末化を喜んでお手伝いしたのでした。







Page:3

本当はね、あたしも… おじいちゃんと同じウォースミスになりたかったのよ…

それは遠い昔、彼女が自ら黙殺した「自分の本当の願い」でした。


「すべてのショットはの。それを作った職人の「祈り」が込められているのじゃ」

「そうなんだ。それじゃこれは「おかあさんだいすき」っていういのりなのかな…」


完成したショットは祖父と共に母親に手渡され…

「将来はマエストロね」と喜ばれ、母親に抱き締めてもらえたのでした。



…そんな幸せな記録を見てしまった彼女。

どうしてもその後のできごとを思い出さずにはいられませんでした。

「あたしは家族と共に暮らしていたかった。それ以上の望みなんてなかったのに…」

「あの時、一体何があったというの… でも、何があったとしても棄てられたことには変わりないわね…」













Page:4

その後のできごとを思い出さずにはいられなかったのは、爺やも同じでした。

爺やは孫娘の願いを誰よりも理解していました。

それだけに、経済的な理由で将来の道を諦めさせてしまったことに重責を感じています。


「今ならいくらでも、就きたい職に就かせてやることができるんじゃがの…」

「アカデミー生の援助をすることで、あの時の償いをしている気になっているだけかもしれんの」


爺やが罪の意識に苛まれている時、元気なひ孫がグルーディン村にやってきました。

「ひいおじいちゃ元気?(*'-') 運動もしなきゃダメだよぉ?」

(この子も孫娘と同じじゃ… 母親に棄てられたと思っているじゃろうが、何故か翳りがないのぉ…)


歴史は繰り返してしまう。しかしひ孫には孫娘とは違う何かがあるのかもの。

爺やはそれに希望を見出しつつも、自らの血を継ぐ幼い子たちの加護を神に祈るのでした。





■ あとがき ■

DOSANです。

今回の母の日の番外編では、これまで伏せられていた「彼女の本当の思い」が少しだけ明らかにされています。

「両親(特に母親)を嫌っている理由」
「本当はウォースミスになりたかったこと」

というものでしたが、後者は当時の経済的な事情によりやむを得ない選択だったのだろうと思います。仕方ないことだったと思いますが、それでもそのことで悩んでしまうのがうちの爺やという人でして…。
なお、前者については小さな女児に見られがちな感情(一般的にエレクトラコンプレックスと呼ばれるもの)とも受け取れますが、彼女の場合は父親を含めた「両親」に対してほぼ同じ感情を抱いておりますので若干ニュアンスが異なります。


また、爺やの言葉により嫌でも認識させられるのは

「親に捨てられたという環境自体が遺伝した」

という事実です。妻はある事情により両親に捨てられてしまうのですが、それによりずっと心で血を流し続けています。大人になっても未だにその傷は癒えることなく彼女を苦しめています。
しかし… 彼女は「親に捨てられた」というもっとも忌むべき状況を、よりによって自らの娘に対して押し付けてしまっているのです。
彼女はそのことに気付いており、そしてそのことに自らの業の深さを感じ、罪悪感を抱き続けているのです。

痛む心を抱えながら、そこまでして彼女がこの「白い部屋」で成そうとしていることは一体何なのでしょう?
彼女が探し求めているものとは? そして、それが得られることでどうなるのでしょう?

これは本編の主要テーマのひとつとなりますので、今後の本編の展開を注意深くご覧いただけますと幸いです。

この物語を紡ぐ者 DOSAN  











close this window