DOSANの妻、という人。(番外編) ミスリルの賢者、という人。


こちらのページでは、5周年記念イベントのファンフィクション

(イラスト・コミック部門)に出展しました番外編を掲載いたします。

公式ページではすべてのページが繋がった形での展示となっておりましたが、

こちらでは1ページごとにコメントを添えさせていただきます。


テオンに生きる、あるエルダーさんの物語。どうぞお楽しみください。




prologue

「あの頃、僕はとても幸せでした」

暁の空を背景に、「ミスリルの賢者」さんのモノローグにてこの物語は始まります。

彼が所属する血盟「ミスリル・リンク」。

その盟主である私の娘との日常の風景が描かれています。

何とも気の抜ける娘で恐縮ですが、彼はそんな娘の姿を見て

一年前のできごとに思いを馳せるのでした。





Page:2

エルヴァス・リュートリウム。それが彼「ミスリルの賢者」の本名です。

彼は親族の期待を背に受けながら、エルフ社会の中枢である「長老」となる為の試験を受けようとしています。

長老試験のひとつである「世界樹が枯れ始めている原因についての考察とその対策」

について考えをまとめようと、世界樹の周りを散策するのですが…


そこで、思わぬ出会いがありました。





Page:3

ダークエルフの女性… いでたちからパラスナイトと思われますが

彼女はエルフの辿ってきた不遇の歴史を正確に理解していました。

一方のエルヴァスさんも、歴史書で読んだ範囲は理解しているようです。

しかし、彼らの「思いの差」はすぐには埋めることができないほど違いがあります。

本で読んだだけのエルヴァスさんと、種族間の諍いの中実感を伴って生き抜いてきた彼女。

認識の違いは、そんなところから生まれるのかもしれません。





Page:4

「昔のことだと?貴様は何も分かっていない!」

「でも、それでも!後ろ向きな考えしか持てなかったら、明るい未来はやってこないんだよ…?」

口調は強くとも、互いの思いを平和的に会話でぶつけ合う二人。

ダークエルフの彼女はエルヴァスさんに何かを感じ取ったようで、彼の話を聞こうとするのですが…

突如現れた現長老アステリオス様と、お付きのセンティネルたち。

彼らは「世界樹の袂にダークエルフがいる」という理由だけで彼女を惨殺してしまうのです。


「口で何と言おうとも… これが… 貴様たちのやり方… なんだよ…な…」

足元に倒れこむダークエルフ女性。エルヴァスさんは下賎な同胞の声を聞きながら悲しみに沈みます。

そして、彼の雄叫びに呼応するかのように、世界樹からやさしさに溢れた声が聞こえてきたのでした…。





Page:5

リザレクション――

それは、彼が使用できるはずのない高度な魔法でした。

無事蘇生された彼女は怒りを露にし、長老アステリオス様と刺し違えようとします。

しかし、それを体を張って止めた人がいました。そう、エルヴァスさんです。

「君に誰かを殺させたくなかったから…」

さすがに動揺した彼女。一瞬前までのたぎるような殺意は水を打ったように静まり

彼女の剣は力なくエルヴァスさんの体から抜け落ちるのでした。

エルヴァスさんはその「力」を持って自らの傷を癒しながらも、自分を刺した彼女に謝り続けます。

「ごめんなさい。あなた達の尊厳を軽んじました。私達エルフを許してください…」





Page:6

そんな彼の姿を見て、ダークエルフの彼女が口を開こうとした時――。

長老アステリオス様は民に示しを付ける為、エルヴァスさんを戒めるのでした。

あまりに無慈悲な長老の言葉に彼は失望し、涙するのです。

しかし、涙することで彼は冷静さを取り戻し、自分に宿った力を感じ取ることができるようになるのです。

彼は長老を相手に、世界樹とエヴァ様の加護を受けながら理論で競り合うのです。

いや、それは競り合いではなく、理詰めで相手を諭すようなものでした。


「彼女が弱っている真の原因は他でもなく、私たちエルフの不甲斐無さにあるのです」


その言葉により決定的に長老を怒らせてしまい、二人まとめて始末するようセンティネルに命じます。

躊躇いながらも矢を放つセンティネルでしたが、一瞬早く届いたエルヴァスさんの補助魔法

インプルーブ シールド ディフェンス と シールドが、彼女を完璧に護るのでした。

マナバーン――!

間髪入れず相手を傷つけない攻撃魔法「マナバーン」が炸裂します。

矢を放つのに必要な微弱な精神力すらも焼き尽くしてしまったエルヴァスさんのマナバーンは

たとえスキルエンチャントされていたとしても説明のつかない、まさに神の領域の威力でした。

さすがに動揺を隠せない長老アステリオス様。先ほどからの高位魔法について問いただします。

「…これはエヴァ様のご意志です…」

その言葉により、完全降伏したのはお付きのセンティネルたちでした。

彼らはセンティネルである前にエルフでした。エヴァ様への信仰心がこれまで犯した

行為への畏怖に変わり、許しを乞います。

そんな彼らを尻目に見ながら、沈黙する長老アステリオス様を残して二人は旅立つのでした。







epilogue

如何に神のご加護があろうとも、彼にパーティーリコールは荷が重すぎたようです。

意識を喪う直前まで、彼は「一人のエルフとしてどうすべきか」を考え続けました――。



彼が次に目を覚ましたのは、エルフ村ではなく川の中でした。

やさしい流れに身を任せていると、どこからともなく元気な子どもの声が聞こえてきたのでした。

ドワーフの少女と、その父親らしきヒューマンメイジの男性。

彼らの気の抜けるやり取りを見ているうちに、エルヴァスさんはすっかり緊張が解けるのでした。

娘とのやり取りの中で、彼は一時的に記憶を喪っていることにし本名を隠して生きようと決意します。

そして、将来はエヴァスセイントを目指していることから、娘より「ミスリルの賢者」の名を

与えられ、血盟「ミスリル・リンク」へと入隊するのでした――。


そして、一年後の現在。

彼と娘の現在の話が展開され、身近な盟主である娘に対しての思いと現在の過ごし方、

そして彼の目標が語られます。


互いに名乗ることができないまま、二人は出会い、そして別れましたが…・

いつか彼女と再会することがあれば、彼はこんな風に名乗って出会いをやり直そうと決めているそうです。



【 初めまして。『ミスリルの賢者』です(^-^) 】









■ あとがき ■

最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。
今回の物語にてお伝えしたかったことを以下に書かせていただきます。

■彼が「ミスリルの賢者」となった経緯を描くこと
「エルヴァス」という立派な名前を持ちながら、現長老であるアステリオス様と喧嘩別れしてしまう形となり、その名を封印してしまいます。彼のセリフからも故郷を捨てる覚悟があったものと思いますが、彼には「村を出て広く世界を見る」という大まかな思いしかありませんでした。「ひとりのエルフとしてどうすればいいのだろう」「これからどうするべきか、途方にくれていまして」というセリフからも、彼の迷いを窺い知ることができます。彼の旅は始まったばかり。彼自身の「解」は、これから自分自身の手で見つけ出すことでしょう。
私たち親子と出会い、行くあてのなかった彼は私たちと行動を共にすることになるのですが…その名の通り「ミケねこ」扱いされ、かわいいもの好きの娘にさんざんなでまわされることになるのです(苦笑)

■種族を超え共に手を取り合う事の大切さを訴えること
リネージュ2の種族間抗争の中でもその最たる物であるエルフ⇔ダークエルフの衝突。その現場レベルでの生々しい諍いと、部分的なものではありますがその和解を描くことで、種族の壁を越えた共生の大切さを表現しようとしました。
泥沼化しやすい種族間抗争のことを、彼は劇中で「悲劇の連鎖」と評しています。これは「DOSANの妻、という人。」の本編において妻が殺人鬼を諭す時のセリフと同じですが、つまりは広い視野でその行為の因果を捉える目線を持つべきであり、一時の感情に流されて過ちを犯してはならない。というこの物語全般で表現したいテーマのうち1つを少しだけ加味しています。

■主人公の精神的成長を描くこと
「意志が弱く魔法をうまく使えない」という彼は、親族の期待に添う為長老になることを目指します。別の見方をすれば親族の言いなりであり、そこに彼自身の意志は介在していません。ある意味温室で育った彼が種族間抗争の結果としてのダークエルフ惨殺を直視することで、「書物での知識」ではなく「実際の経験」へと変容する様を描いています。

■「生命の試験」の個人的見解からの別解を描くこと
エルフならば誰もが経験する二次転職クエスト「生命の試験」。これに象徴される「世界樹が枯れ始めている原因」は一般的に「ダークエルフによる水源の汚染」「胞子の海からの毒素が流れてきている為」と言われます。しかし、本当にそのような物理的な要因だけで、神の宿り木と称賛される世界樹が枯れてしまうものなのでしょうか。「世界樹の守護者」や長老アステリオス様がそう言えば言うほど、根本的な原因は別にあるのではないかと思ってしまうのです。(単なる天邪鬼かもしれませんけれども…) 根本的な原因。それは「エルフ社会のあり方を世界樹(エヴァ様)が嘆いているから」ではないかと考えました。世界樹自身が生きる気力を喪っているのではないかと。生命の試験に取り組んだ事のある方なら、「世界樹の為ならば純粋な存在であるユニコーンを犠牲にしても構わない」というエルフ社会の体質に疑問をお感じになるのではないかと思います。そのような疑問をお持ちになった方に共感していただけるような、もう一つの解を描いてみました。


以上が今回の番外編でお伝えしたかったことになります。スペース的に厳しかった為、うまく表現できていない箇所もありますが、お楽しみいただけましたら制作者としましては望外の喜びとなります。

娘が盟主を務めますミスリル・リンクには、賢者さんのような「ミスリルを冠する者」が全部で5名所属しています。彼らは賢者さんと同じように本来の名を伏せて生きなければならない暗い過去を持っていますが、普段の彼らは一癖も二癖もある(?)楽しい人たちですので、ゲーム内で会うことがありましたらお話してみてください。


この物語を紡ぐ者 DOSAN  




■ 更に蛇足的な製作裏話 ■
彼はヒールが使えますので、ゲーム内換算で「レベル10」相当として描いています。自分で狩りはできませんが、親族の方に連れて行かれたのではないかと思います。
彼が「力」を使うときに現れるエンブレムは、エルダー三次職「エヴァスセイント」のものです。彼の思いを受け止めた世界樹とエヴァ様が一時的にその力を授けた…という形を取ることで、間接的ながらも「彼の思い≒神の御心」であることを暗喩しています。
なお、パーティーリコールを使用する時のみ魔法円のエフェクトを使用していますが、あれは彼の最大精神力を超える精神力を必要とする大技の為に「魔力補助機関」といった意味合いで表現しています。
(コットンローブ上下を装備したレベル10エルヴンメイジの最大MPが約222として計算しています)

劇中に登場するオーバースキルには以下のようなものがあります。(登場順)

 リザレクション          Lv7 消費MP207
 グレーターヒール         Lv29 消費MP114
 シールド             Lv3 消費MP39
 インプルーブシールドディフェンス Lv1 消費MP27
 マナバーン            Lv10 消費MP103
 パーティーリコール        Lv2 消費MP305

上記の通り、パーティーリコールのみ彼の最大MPを超えています。その為魔法円が必要になった…と解釈していただけますと幸いです。
この魔法円は他の番外編においても莫大な魔法力・精神力が必要とされるシーンにて登場します。昨年の「聖夜の、できごと。」において凍死寸前だった娘を救った暖かな光の中心にもこの魔法円は描かれています。









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