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ひゅるるるる…  どぉおおーん…


まっくらなお空に打ち上げられる光の玉。
おおきな音を響かせて、きれいな光がきらきら、きらきら…
一瞬。だけど、閃光のように。はっきりと心に焼きつくその光。


ひゅううぅぅ…  どぉーん…  ばらばらばら…


今、ここにいるわたしも。
ながいながい歴史の中で、きっとおんなじように一瞬だけの存在なんだろうなぁ。
そんなちっぽけな自分を、次々と消えていくお空の光に重ねてみたら。
なんだかちょっとだけ悲しくなって、うつむいちゃう。
気づけば、お父さんの甚平の袖をぎゅっと握りしめてて――


「…怖いかな? 娘…」


お父さんはそれだけ言うと、うつむいたままのわたしを抱き寄せる。
違うもん。おおきな光と音にびっくりして泣いちゃうような子どもじゃないもん。
子どもあつかいしないでよぉ…
ぐるぐると思いだけが巡るけど、結局なんにも言えなくて。
そんなわたしは、やっぱりお父さんに抱き寄せられたままで。


ひゅうぅぅ~…   どどぉおん   どん どぉん…


あの光のきらきらとおんなじように、ちっぽけなわたし。
だけど、わたしはお父さんとお母さんの子なんだよね。
あの日、あの時、あの場所で。
お父さんとお母さんが出会わなかったら、わたしはきっとここにいなかったんだよね。

この世界は奇跡で成り立っている。
お父さんがいつも言ってるその言葉。今ならわたしにもわかる気がする。

ほら、今もいろんなところで奇跡が始まろうとしてる。
お姉さんの手をとってうれしそうに走っていく男の子。
キツネのお面をかぶって恥ずかしそうに身を寄せている恋人さんたち。
すこしさびしそうなお顔でお空の光を見つめてるおじさん。

今のこの瞬間が、誰かにとって奇跡の始まりになっている。
そう思ったら、悲しく冷たかったわたしのこころも、あたたかなものでとかされていく。
いつしかわたしは、お父さんの胸で涙をながしていて。
でもこれは悲しい涙じゃなくて、もっと透き通ったピュアな涙。
こころはとても澄んでいて、静かに静かに流れてく。


「娘。おまえは私の… 私たちの自慢の娘だよ。だから、いつでも泣いていいんだよ」


また子どもあつかいされちゃってる。それに、なんだか言ってることがおかしいよぉ。
でも、やっぱりそれも言葉にならなくて。
わたしはお父さんにしがみついたまま、声も出さずに泣いていた。



いつのまにか周りは静かになっていて。
あれだけきらきらしていた光も、もうみんな消えちゃって。
お空に浮かぶのはまんまるお月さま、ただひとり。
わたしとお父さんだけがとり残された感じで、なんだかさびしいな。
そう思ったら、急に抱かれてるのが恥ずかしくなってみじろぎしちゃう。
もぞもぞ、もぞもぞ。

お父さんはすぐに離してくれたけど、今度はわたしの両肩に手を添えて。
すこしかがんで心配そうにわたしのことを見つめるの。

お父さん、そのお顔はずるいよぉ。
わたしのこと、なんでもお見通しってお顔なんだもん。

ちょっとくやしかったから、ほっぺをふくらませてみたけれど。
お父さんがなにも言わずに笑顔になったから、わたしもつられて笑顔になって。
もぉ、やっぱりお父さんはずるい。


「…お父さん、帰ろ!」


お父さんの手をとって、おうちの方に走り出す。
何も言わずにお父さんもついてきてくれて、ちょっとうれしい。
むかし、こんなふうにおうちまで競争して帰ったこともあったなぁ…


本当にちっぽけなわたしだけど、わたしはこのお父さんとあのお母さんの娘なんだもん。
人として恥ずかしくないように生きていかなきゃね。

今、みんなとここにいること。
そんな当たり前になってる奇跡をかみしめながら、わたしは前を向いて歩いていこう。


そう。
一瞬。だけど、閃光のように――





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