変幻自在な「文章の趣(タッチ)」
タイトルコールのこの箇所。ここの前後で明確に文章のタッチと言いますか、花さんのお書きになる地の文の趣と筆致が明確に切り替わったと感じることができます。
原作単行本およびアニメにおけるオリジナルの花さんが纏うキャラクター性(※)に由来する形で、他の天使のみなさんとは一線を画するレベルでの精緻で硬質な筆致の地の文をお書きになることが多い花さんですが、ここのタイトルコール以前のアバンタイトルはその普段の硬質さからも更に数段飛躍するかのような(かわいい子どもが書いているとは到底思えないような)、ドキッとさせられるレベルでの硬派な文章が印象に残ります。
※ここで言う花さんのキャラクター性とは大雑把に以下のようなものです。
・無表情で居ることが多い(笑顔で居ることが少ない)。
・目上の方には敬語を使い、同年代の人とはぶっきらぼうに話す。
・倫理観が強い(甘味とひげろー関連を除く)。
・問題発生時も騒ぎ立てることなく大人のように落ち着いて行動する(ホラーなど怖いもの関連を除く)。
・理解できないことでも眉を顰め溜息をつき諦観の面持ちで受け入れる。
総じて、「(甘味・ひげろー・ホラーといったウィークポイント以外のことについては)非常に醒めており大人びた対応をする」傾向にあると言えるでしょう。
花さんのベースに上記の傾向があることが功を奏したのか、タイトルコール以前のコラボ部分については誠に「それらしい」筆致となっており、一読するとまさに「ひぐらしのなく頃にの原作本文」を読んでいるかのように錯覚するレベルの切れ味の鋭い硬質な文章が印象に残ります。
ここで注目したいのがインタビューにて星野みやこさんがおっしゃっていた「花さんへのオーダー」です。「ひぐらしのなく頃に」という作品は、コラムにも記載をしておりますが個人的なレイティングは「R-18G」であると認識しております。みやこさんも同様の認識のようで、花さんにどのような作品であるのかについて明かすことはできず内容は伏せなければならなかった訳ですが、一人称を担当する花さんがコラボ先作品を理解していない状態では「それらしい」文章を書くことはまず不可能です。
そこでみやこさんは花さんがイメージをしやすいように「花ちゃんのかわいいお顔に、すごく濃い色の影がかかるような世界観で」という表現でオーダーを出されました。
これはつまり、「コラボ先作品そのものを正確に理解する為」ではなく、「コラボ先作品の持つ印象・イメージ・心象をみやこさんのフィルター越しに感じてもらい共感する為」のイメージワードでした。
このみやこさんの表現は非常に言い得て妙であると思います。「ひぐらしのなく頃に」の原作・アニメも確かに花さんたちと同年代の愛らしい少女たちが登場し、凄惨で過酷な運命の渦中に引き込まれていくことになります。その様を「かわいいお顔にすごく濃い色の影がかかるような世界観」と表現することで、花さんを怖がらせることなく(最重要)、かつ「かわいいお顔に容赦なく濃い色の(墨汁のような、血液のような)影がかかる=幼子であっても無条件で守られる訳ではない世界=愛・生・死の混濁する世界観」であることを仄めかすことに成功したと思います。花さんもそのようなシビアな世界観であることを直感で理解されたからこそ、冒頭のような「普段の”甘さ”を排除した冷徹な筆致で状況を克明に描写する」方向性に寄せたのだろうと思います。恐らく、これは花さんなりの「コラボ先作品への畏敬の念」であったのだと感じます。
結果、産み出されたのが今回の「わたてんのなく頃に 貶者編」だった訳ですが、タイトルコール以前のアバン部分はまさに「ひぐらし二次創作」と呼べる硬派な文章となり、タイトルコール以降は「いつもの花さんみやこさんによるわたてん!」を感じられ安堵(※)できる文章となりました。
※お話の内容はシリアスでしたが、ここでの「安堵」とは「お話を紡ぎ出す文章のタッチ・筆致・趣そのもの」についてのことです。花さんがオヤシロさまに取り憑かれてしまったのでは、と危惧するレベルの硬質なアバンタイトルがあり、タイトルコール以降は普段の花さんオリジナルの筆致に戻ったことで「ああ、いつもの花さんですね。よかった……」と胸をなでおろした。という意味合いでの「安堵」となります。
安堵という点でもう一つ。アバンタイトルでの異質な花さんの様子に凍りついている観客を引き戻す為に、あえて第一声をみやこさんの写真撮影からの「ひゅー!」にされたのでしょうね。この辺り含め、観客側の心情・反応を計算し尽くした文章構成であったと思います。
ひとつの作品の中でこうも筆致がガラリと変わることは通常の作品ではよろしくないのですが、今回は逆に「ここまでがコラボレーション」という線引きが明確になるというメリットがあり、恐らく花さんはそれも理解された上で文章を構成されたと思います。
最小限のイメージワードから想像を膨らませ本家に近い世界を創出した花さん。そしてそれを丁寧に上手に導出したみやこさん。お二方それぞれのファインプレーが光る「王道コラボレーション作品」であると言えるでしょう。主人公・ヒロインペア、恐るべしですね。
原作での表現を作品へ取り込み、それを「ダシ」として使う意気込み。
こちらの花さんの「全力出せるのは一瞬」というのは、原作7巻にあります以下のみやこさんのセリフが元になっていると思われます。
原作7巻90ページ(57話) タイトル「一瞬の輝き」
シチュエーションを軽くご説明しますと、この57話は花さんの12歳のお誕生日のお話です。みやこさんは「お誕生日ケーキを自分で作るという体験」をプレゼントにしようと、自分がサポートに回ろうとしているシーンとなります。乃愛さんが「オトナっぽい」とみやこさんの想い、セリフに感心された次のコマにてこちらの「人間全力出せるのは一瞬なんだよ」という発言があります。
花さんは公演会のこのシーンにて、ヘアピンも着け浴衣も着てきてくれたみやこさんのことを内心で喜びつつ、普段も身なりに気をつけて「きれいでかわいいお姉さんでいてほしい」と願います。しかし、この原作の通りある種「いつも通りのみやこさん」を思い出すことで過度な期待は禁物であると自分に言い聞かせようとしているかのように見えます。
特筆すべきはこの後です。花さんはそのような「残念なお姉さん」を思い浮かべながらも、続けて「でも、お姉さんのきれいなところは私たちしか知らないっていうのは、それはそれでいいなって思ったり」と繋げています。
ここでキュンとされた方も多いことでしょう。つまり花さんは「そんな残念なお姉さんでもいい」と暗におっしゃっているのです。普段からきれいに着飾るお姉さんになってくれたらもちろんきれいでかわいい。着飾らなくても「着飾ってる特別なお姉さんは私たちしか知らない」という特別感があるからそれもいいな、と。花さんはここでの表現により、みやこさんがどのようなお洋服をお召しになっていても「花さんのみやこさんへの好感度は揺るがない」ということを表出されているのです。
見事に原作での表現を「ダシ」として使い、踏み台とし、原作を超えた更なる高みへと感情を飛躍させることに成功されていますね。非常に素晴らしいと思います。
ストレートな言葉でみやこさんに愛を伝えることをあまりしない花さんですが、このようなポイントにて花さんのみやこさんへの好感度が非常に高いことが分かりますね。この「花さんが表に出すつもりがなくとも隠しきれずに滲み出すみやこさんへの想い」は、しばしば花さんの地の文で堪能することができます。こういうときの花さんは無意識であることが多いそうですので、ひなたさん乃愛さんたちとはまた違うベクトルではありますが非常にかわいいポイントだと思います。
過去の公演会で使用した表現のオマージュ
こちらはインタビューにて乃愛さんがご指摘されたポイントとなります。花さんの「お姉さん。ちょっとかがんでください」から始まるやり取りは、直後のひなたさんが気付かれたように「花さんからみやこさんへのキスの前振り」として受け止められています。
これには理由がありまして、このオマージュ元は「聖夜の告白」の記事最下層にあります「おまけ」のやり取りが初出であり、更には「エンジェリック☆アラカルト おかわり++」の「チョコより甘いその味は」において最初のオマージュとして用いられています。
身長に20cmほどの差があるみやこさんと花さん。立っている状態にて花さん側からアプローチしようとする場合、みやこさん側にも協力していただかないと難しいですね。しかし、本意を伝えてしまうとみやこさんは逃げ出してしまうであろうことは容易に想像できます。その為、花さんもみやこさんに本意を気取られずに近づく為に「かがんでください」とだけお願いをしたのでしょう。
以降、天使たちの間では(滅多に花さん側からはアプローチをしないこともあり)「花さんがみやこさんにこのお願いをする時は場が甘くなる前振り」として捉えられるようになったようです。
しかし、ここでの花さんはそのような「定説」を覆すかのように、純粋に「みやこさんのヘアピンをよく確認する為に接近する」手段として「かがんでください」とお願いをされています。これも読者側のコントロールが上手な花さんらしいですね。つまり、上述の「前振り」を理解している人であればひなたさんのように「ちゅーだな!」と想像ができるギミックになっているのですが、その読者の読みをあえて外すことで「このお話は甘くならないよ」「ここからお姉さんとシリアスになるんだから」と言外に伝えようとされたのかもしれませんね。
また、ここでのひなたさんとみやこさんが「前振り」であると受け止めている点、それを受けてえてなさんが「姉妹の発想よ」とツッコミを入れられている点も微笑ましいですね。シリアス傾向の強いお話の時は保護者さま側の合いの手が少なくなると経験上理解されている花さんですので、こういったポイントで発言しやすくしたという意図もあるように思えます。
「キャラクターソングからのニュアンスの取り込み」に纏わる、あれやこれ。
こちらと、少し下方にあります花さんの「私の好きな甘い匂い。いつも特別に感じている、お姉さんの匂い」の箇所はインタビューにてひなたさんがご指摘されたポイントであり、花さんの2曲目のキャラクターソングである「スイーツランド・パラドックス」の歌詞そのもの、もしくはニュアンスを公演会に取り込んでいる箇所となります。
ここで一度、スイーツランド・パラドックスの歌詞をおさらいしておきましょう。
スイーツランド・パラドックス 作詞・作曲・編曲:5u5h1 |
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いつの間にか当たり前になってた なんて甘い甘い毎日 おいしいお菓子に友達に…ヘンなお姉さん もう慣れたけど 少しずつ分かるようになってきているよ あの人のこと 考えてること まだ分かっていないのは たまに感じる気持ちの正体 目を閉じると ふわふわり 落ちる夢の世界 いつも(なんでだろう?) 途中で(嫌いじゃないけど…) あの人の顔が浮かぶ 真っ白な夢が色付いて おかしな国のドアを開けたら クッキー、ケーキ、ドーナッツ よりどりみどり どれから食べよう? 迷っちゃうよ だけどなにか足りないの いちばん大事なトッピングがまだ 夢の中にいても見つけて欲しいよ ねえ 今すぐ来てくれないと困ります! あれもこれもお菓子でできた世界 あてもなく歩いて回って わぁ~い❤ キャンディーケインの森の向こう側に見えた ケーキのお城 おいしそう! やんごとないビスケットの椅子に座って らしくもないポーズ決めたりして シャキーン! あの人がここにいたら 「かわいい」とか言ってくれるのかな? |
まぶたの裏 ゆらゆらり 浮かぶメレンゲドール お菓子?(ください!) それだけ?(嫌いじゃないですよ) 気持ちは膨らんでいく ハート型のピース集めて おかしなパズルを解き明かして 見つけたジェリービーンあげたいんです 夢が覚めたら忘れちゃうかな? 甘いだけじゃ味気ない 1人じゃ全部食べきれないから 短くて長いこの夢の続きはまた今度 また今度 一緒に見たいんです はむっ はむ はむ はむっ んー❤ 一緒に見たいんです はむはむ うんうん んー❤ おいしーい! この夢が覚めたら この夢が覚めたらー♪ すぐに会いに行きたい すぐに会いに行きたいー♪ 私の好きなあの甘い匂い 言葉にはしないけど トクベツに感じてるんです 真っ白な明日が色付いて いつもと同じ今日になるから 今日はちょっとすごいお菓子がいいです ”アイジョウ”も忘れずに込めて なんでもない話して たまには一緒に作ったりして これからもおんなじ時間重ねたい いつまでも いつまでもー そばにいて下さいね お姉さん、あまり近づかないでください… お姉さん、今日のお菓子はなんですかっ? お姉さん。かわいいですよ❤ |
<記載ルール>
黒字……歌詞カードに記載の歌詞 紫字……歌詞カードには記載されていない、花さんのセリフ。(歌声として収録されています) 桃字……歌詞カードに記載の歌詞かつ、今回の公演会に取り入れられた箇所、またはニュアンス。 ※桃字はみやこさんのイメージカラーという意味合いです(インタビューのセリフ文字色参照)。 |
絵笛さんが「ばりばりに練り込んでくる勢、花ちゃん」と感嘆されていました通り、上記の歌詞を見ますと今回の公演会で取り込んだ歌詞は3箇所もありました。過去に香子さんのハロウィン公演会にてみやこさんとのパートに同じくデュエット曲の歌詞を反映されていましたが、花さんも歌詞の中で大切なパートをここぞというシーンに入れ込んでいることが分かります。
また、花さんは歌詞においては「不立文字」とも言える「歌詞カードに記載されていない内面的な想い」を取り入れることがあります。ラストの「お姉さん。かわいいですよ❤」がそれになりまして、こちらを公演会の締めの一言にされたのが「聖夜の告白」のラストシーンでした(❤は私DOSANが歌を拝聴した際に受けた印象で付けておりますので、あまりお気になさらず)。
花さんがキャラクターソングを重要視されている理由として、同じく「聖夜の告白」の「メイン記述者インタビュー」にて触れていましたとおり、「公式のお墨付き」という後ろ盾を得られる為、とおっしゃっています。原作を大切にし、非常に厳格な「原作根本主義者」とも呼べるストイックな花さんですので、自分たちの好きにお話を作るという場合(往々にして公演会とはそういう場なのですが)であってもその自由度はあくまで「原作の範囲内とするべき」と自戒されています。
しかしながら、その自戒を守ることは容易ではありません。何故なら、原作単行本・アニメには登場しないシチュエーションやセリフ回しの場合にどうするべきか、もっと踏み込んでみやこさんのことを想い、行動したいときはどう振る舞うべきなのか。何を守れば「白咲花」のキャラクター性から脱線しないで済むのか。これらの葛藤を公演会でのセリフ・地の文を紡ぐ際に一言一句意識しなければならない為です。この点は私も二次創作を作る際に徹底的に研究するポイントですので、花さんの気持ちは痛いほど分かるつもりでおります。結果として生み出される公演会の作品はどれも非常に「原作再現度の高い良質な物語」となるのですが、花さん自身が息苦しさ(自由度の少なさ)を感じながら物語を紡がなければならないという難点があります。
この「公演会における過度の負担」を軽減することができる後ろ盾として、花さんはこちらの「キャラクターソングの歌詞」に救いを見出した、ということのようです。確かに、歌詞には原作単行本・アニメには登場しない踏み込んだ花さんの心情が散りばめられていますので、例えば「(聖夜の告白の04にて既に取り入れられていますが)夜眠る時にお姉さんの顔が浮かぶ」「夢の続きはお姉さんと一緒に見たい」「すごいお菓子がいいです。”アイジョウ”も込めて下さいね」「(聖夜の告白の06にて既に取り入れられていますが)なんでもない話をして、これからも同じ時間を重ねていきたいんです」「いつまでもそばにいてくださいね」といったキーワードや感情の流れ・動線、シチュエーションを活用することで「原作単行本・アニメにはない、甘いお話を作る」といった場合でも「公式の後ろ盾」を得られたことになります。
また、花さんのこの息苦しさは周囲の天使たちも感じているようで、「大人になったあの人に」のチャットログ05においてひなたさんから「大丈夫だぞ。ひゃくせんれんまのエプ姉たちだから、はなはやりたいように紡げばいいんだぞ」と。そして乃愛さんからも「ハナちゃん、そろそろ自分の好きに物語作っていいと思うのアタシ」と背中を押していただいている様子を見ることができます。公演会を共に作り上げてゆく頼もしいお友だちからエールをいただいて、花さんもほっとされていますね。
「使えるモノ(原作漫画・アニメ・キャラソン・公式絵・公式グッズ・製作陣のSNSなど)はすべて使う」と意気込む花さん。確かに公式の後ろ盾は大切ですが、天使たちは天使たちでしっかりと互いに精神的なケアをし合いながら「楽しく公演会をがんばろう!」と活動されていますので、私たち周りの観客も微笑ましく観劇することができるのだろうと思います。
※余談ですが、公演会での花さんといえば「食レポと評価されるレベルでの、職人の域に達している食品に対する観察・洞察・味覚の表現」「もぐもぐ語と言われる、(お行儀はよろしくないですが非常に愛らしい)一種の謎解き」といった個性的な特技をお持ちです。この「もぐもぐ語」も、上記の歌詞として明記されない「不立文字」(活字はなく音声のみ)である、「はむっ はむ」の箇所を非常に重視した結果、公演会に取り入み応用されたものかもしれませんね。
過去の公演会で使用した表現のオマージュその2
春香さんがご指摘されています通り、こちらは「天使の涙の、その先に。」の05後半にあります「みやこさんの土下座シーン」からのオマージュと考えられます。
該当の文章を以下に抜粋させていただきます。
私はベッドから飛び降りて、お姉さんが揃えている両手を取って、床から引き剥がそうとした。でも、お姉さんは意外と重たくて私の力だけでは引き剥がすことはできそうになかった。
この「みやこさんの土下座をやめさせようとするも、体格差によりそれが叶わず、結果としてみやこさんの固い意志の結末を花さんが見届けることになる」というシチュエーションを花さんが用いたのは、これが2回目ということになります。「天使の涙の、その先に。」も非常にシリアスなストーリー展開となっており、普段のお二人のゆるやかな雰囲気を一切排除した真剣勝負が描かれている傑作です。是非お時間あるときに改めてお読みいただけますと幸いです。
<裏話>
以降は「天使の涙の、その先に。」公演後に、花さんから直接いただいたお話となります。
『わたてにんぐ☆オペラ』の07「オペラケーキ ★★★☆☆」を読んだ時、はっとしたんです。お姉さんの土下座は・・・あんまりしてほしくないんですけど、でもわたてんらしい要素だと思います。それを、他に謝る方法がないと思った私が最後の手段としてお姉さんにするっていう「逆転の発想」が、なんだかそれもすごくわたてんらしくて、「してやられた」って思いました。さすがお父さんだなって。お姉さんって、土下座するとき何も言わないんですよ。何も言い返せないと悟ったとき、言い訳はしないで頭を床に着けるだけなんです。オペラの私も同じような追い詰められた気持ちだったので、お父さんが「花さんは理由を言いませんでした」と書いてくれたことも、分かってくれているんだなって思えて嬉しかったんです。
それで、とても感動したオペラケーキのお話だったので、どうにかして自分の公演会のときに取り入れたいって思ったんです。そこで、お父さんのオリジナルの表現だった「土下座している私をお姉さんが軽々と引っ張り上げて抱きしめる」っていうシチュエーションを、今度は私が「逆転の発想」で「お姉さんの土下座をやめさせようと、私が引っ張り上げようとしても重たくて持ち上がらない」っていう形で取り込もうって思いました。
こうすることで、結局「お姉さんの好きにされてしまう」ことになって。オペラケーキのときはお姉さんの判断で私の土下座を切り上げることができましたけど、私はお姉さんの土下座をやめさせられないので「お姉さんが土下座している理由」を最後まですべて、否応なく目の前でお姉さんの土下座を見つめながら聞くことになるんです。こうすると、お姉さんずるいです。っていう私の感情も出せて、そしてそれを上回るお姉さんの熱くてひたむきでまっすぐな私への想いを聞かされて、二人で泣きながら抱きしめ合って許しあう。ってお話の形が作れそうだなって考えました。それを形にしたのが今回の「天使の涙の、その先に。」だったんです。お父さんも楽しんでくれたみたいなので、私もほっとしています。
でも・・・ごめんなさい。本当なら表現をお借りする前に、お父さんに相談しないといけないことだったと思います。でも、お父さんに「天使の涙の、その先に。」の本番まで内緒にしておいたほうが驚いてもらって喜んでもらえるかなって思ったので・・・。
以上が、花さんからいただきましたお話となります。内容的にこちらと直接関係するのですが、自著の宣伝になる恐れがある為ここに掲載することに躊躇いがありました。
しかしながら、花さんより「リスペクト元と、それをオマージュしようと思った理由を保護者さまに分かってもらえると思いますので、どうか載せてください」との強いご希望がありました為、「裏話」という形で掲載させていただきました。
※「天使たちの物語展示場」を熟読されているコアな天使たちのファンの方は、同展示場に【番外編】と記載のある小説も並べられていることにお気付きかもしれません。これらは天使たちが公演会にて紡いだ物語ではなく、私DOSANがオフラインにて執筆した普通の二次創作小説となります。それを恐れ多くも天使たちの公演会の記事と同列に掲載させていただいているものとなります。上記花さんのように私の自著の内容に触発され、感化されて公演会に取り込まれた方もいますし、夏音さんのように「オペラケーキの後のお話として」作られた「あの子を振り向かせるには」というお話もあります。作者としては望外の喜びを感じており、図らずも天使たちに刺激を与えることができていると実感できましたので、作品の掲載順もその時系列に合う形(わたてにんぐ☆オペラ > あの子を振り向かせるには / わたてにんぐ☆オペラ > 天使の涙の、その先に。 という順番を満たす形)で記事を作成しております。つまり、掲載作品の上から順番に読んでいただくことで、作品同士の関係性を理解しやすくしているつもりです。
私に天使が舞い降りた、その瞬間。
こちらの、「花さんが手を差し伸べて座りこんでいるみやこさんを立ち上がらせる」という構図はアニメにおける以下のシーンをオマージュしているものと思われます。
「第1話 もにょっとした気持ち」より、花さんがみやこさんに手を差し伸べるシーン
「第12話 天使のまなざし」より、花さんがみやこさんに手を差し伸べるシーン
第1話と、最終回である第12話とで、ほぼ同一構図のカットがあります。どちらも「花さんが座りこんでいるみやこさんに手を差し伸べる」というシーンとなります。
しかしながら、それぞれのシーンをよく勘案してみますと確かに構図は同じですが意味合いが異なるように感じられます。
<第1話>
「お友だちになりましょうか?」「お姉さん、元気出してください」
と、みやこさんに手を差し伸べる花さん。みやこさんから見える景色(以下、みやこさんビジョン)では明らかに窓辺からの外光とは異質な神々しい後光が花さんから差しており、それだけでなく普遍的な「天使の持つ記号」である「天使の羽根」「天使の輪」までも完備していることから、まさにみやこさんにとっては「私に天使が舞い降りた」瞬間のシーンと言えるでしょう。
玄関口で花さんを一目見た時から「もにょっ」としていたみやこさん。その花さんから(憐憫の感情であったとしても)「お友だちになりましょうか?」「お姉さん、元気出してください」とやさしい言葉をかけてもらい、家族以外の人に受け入れてもらえました。これはここから始まる物語の「起」、みやこさんにとってのスタートラインであることを示しているように感じられます。
<第12話>
「お姉さんの一生懸命なところは、私、嫌いじゃないですよ」
と、みやこさんに手を差し伸べる花さん。「お姉さんって、好きなことになると後先考えないですよね」「ごめんねぇ。それでいつも花ちゃんには迷惑かけて……」「そうですね。反省してください。でも、一生懸命なのはいいことだと思いますよ」という会話の後に、上の花さんのセリフが入ります。
ここでの「みやこさんビジョン」は第1話でのシーンとは異なり、しっかりと現実的な見え方となっています。天使そのものと言えるお姿で文化祭の劇をやり終えた花さんを前に、過剰に浮かれることもなく「地に足が着いた」と言える安心感があります。
シーンの比較という点においては、陽光のまぶしい時間帯と夕焼け空という違いがあります。第1話は出会って間もなく、お互いのことも分からない初々しさ(早い時間帯)を象徴するまぶしい陽光の中で手を差し伸べてくれる花さん。第12話は出会ってからある程度経ち、お互いの内面も理解できるようになった頃(遅い時間帯)を象徴する夕焼け空を背景に手を差し伸べてくれる花さん。わたてん! という作品そのものの「起」と「結」を象徴する、同じ構図のカットと言えるでしょう。
第1話でのシーンにて、会ったばかりの花さんのことを「見た目のみ」で「もにょっ」としたみやこさん。その後、5月の末から恐らく11月の文化祭までの約半年の間に、花さんの見た目だけでなく内面的な天使性に触れ、「未知なる神秘的な天使」であった花さんのことをより深く理解したことの証として、「みやこさんビジョンにおける花さんが天使の見た目から一人の人間としての姿へ変貌した」のではないかと思われます。
「私に天使が舞い降りて、天使が人と成りし、等しき目線にて共に暮らし、更なる高みへと私を導き給う」
わたてん! という作品を一言でまとめるなら、上記のようになるかと思われます。
みやこさんビジョン(みやこさんの一人称)にて語られる自己成長物語であり、引きこもり気味でコミュニケーション障害を持つみやこさんが花さん(たち)と出会うことで、人として成長する(花さんたちと共に失われた子ども時代をやり直し成長し直す)物語であろうと思います。
花さんがこの、「わたてん! の「起」と「結」を象徴するシーン」を今回の公演会に取り入れたことも、これまでの公演会の集大成という意味だけでなく、わたてん! という作品を総括した結果「入れざるを得なかった」のではないかと推測できます。
花さんとみやこさんも原作を愛し、大切にされ、わたてん! の素晴らしい点を公演会という形で広めたいという熱い思いをお持ちであることが分かりますね。普段は謙遜されていますが、お二人は紛う方なき「主人公とメインヒロインペア」と言えるでしょう。